今年2021年も残すところ、あと少し! 大掃除やおせちの準備がひと段落したら、親子でじっくり絵本を読んで大晦日を過ごしてはいかがでしょうか?
今回は、絵本コーディネーター・東條知美さんが、【年越し】【年末年始】をテーマに、大晦日に読みたい絵本をご紹介します。2021年はどんな1年だったかなぁと、絵本を読みながら、お子さんと一緒に振り返ってみてくださいね。
古き良き日本の年末年始を味わえる1冊
もうすぐ大晦日ですね。私たち大人は「え、もう大晦日?」と、時の流れの早さに毎年ビックリしてしまうのですが、子どもは一年一年がゆっくりと過ぎていくものです。大晦日が来るたび、新鮮な気持ちで読み返してもらえるような、親子で楽しめる絵本をセレクトしてみました。
はじめにご紹介するのは、『もうすぐおしょうがつ』(作:西村繁男)です。兄弟が、おじいちゃん、おばあちゃんの家で過ごす年末の数日間を、とてもていねいに描いています。
登場人物はすべて擬人化された動物たち。物語は男の子と女の子の兄妹が、お父さん、お母さんと一緒に電車に乗り、バスを乗り継いで、おじいちゃん、おばあちゃんの家に向かうところから始まります。
帰省した家は、おそらくお父さんの実家のようです。お父さん、お母さんも戦力なのでしょう、息子夫婦が帰ってきてから家族みんなで大掃除を始めるなど、今の大人が読むと「ハッ」とするような懐かしい描写もあります。
この絵本が出版されたのは、1989年。昭和から平成になった年に描かれているので、家族の在り方、家族の中での役割が、今とは多少違っているのもおもしろいところです。
日本家屋の大掃除。古くなった障子紙をビリビリ破ったりと、子どもたちはイベントのように楽しんでいます。
お餅つきの日。今では町内会の催しなどでしか見かけない杵(きね)と臼(うす)、昔は各家庭にあったのですね。お餅をつくシーンは、漫画のようにコマ割りされてふきだしがあり、テンポよく進んでいきます。
そして、大晦日。にぎやかな市場へ買い出しです。昔は元日から3、4日ぐらいまで、すべてのお店がお休みだったんですね。ですから、大晦日や元日のごちそうの分を含め、食べるものをまとめて買うのです。
私たち大人が読むと、子どものころにタイムスリップしたような、古き良き日本の年末年始の風景がページ全体から感じられます。懐かしい風景、すでに失われた風景もあるかもしれません。だからこそ、絵本を通して子どもたちに手渡していきたい1冊です。
作者の西村繁男さんは綿密に取材をされて描く作家さんなのですが、絵の中から街のざわめき、そこにいる人々の息づかいまで聞こえてくるよう。まるでドキュメンタリー映画を観た後のような読後感です。ぜひ絵のすみずみまで味わっていただきたいですね。
幸せを願い懸命に生きる老夫婦に訪れた奇跡
続いてご紹介するのは、みなさまご存知の昔話『かさじぞう』(再話:瀬田貞二、画:赤羽末吉)です。
昔話には、一生懸命に生きて、なお貧しい。それでも他者を思いやる、人間のやさしさをうたったお話がたくさんあります。その代表作ともいえるのが、『かさじぞう』です。
おじいさんはお正月のお餅を買うため、編み笠を売りに街へ出ましたが、ひとつも売れません。仕方なく戻ってくると、途中、雪が積もったお地蔵さまを見て、持っていた笠をすべてお地蔵さまにかぶせてあげました。すると、翌朝、そり引きの声が聞こえてきて――。
「よういさ、よういさ、よういさな。
六だいじぞうさ かさとって かぶせた
じいぁ うちは どこだ、
ばあぁ うちは どこだ。
よういさ、よういさ、よういさな。」
『かさじぞう』は、ぜひ声に出して読んでほしい1冊です。方言混じりの文体で書かれていると、子どもにわかりにくいんじゃないかと心配されるパパママもいらっしゃいますが、案外、内容は伝わるものです。
この絵本は、墨で書かれているんですね。私は雪国育ちなのでよくわかるのですが、真っ白い雪の中に枯れ木が立っている様は、本当に墨で描いたようです。画家の赤羽さんは、何度も雪の降る土地に足を運び、この絵を描いたのだとか。湿った雪の重さまで伝わってくるような、日本的な美しさにあふれた絵本です。
大晦日の夜、貧しくもつつましい年寄りの夫婦に起きた、奇跡のお話。幸福を願いながら毎日を懸命に生きる姿は、今も昔も変わりません。だからこそ、時を越えて愛され続けているのでしょう。来る年がみなさまにとって幸せなものになりますようにと、願いを込めておすすめいたします。