「結果」ではなく「努力した過程」をほめる
勉強にしろ、スポーツにしろ、何にしろ、我が子がいい結果を出せば、親としてもうれしいし、子どもをほめてあげたくなります。
しかし、榎本先生によれば、「“結果”をほめると、だいたい子どもによくない影響を与えてしまうことが、実験で証明されている」とのこと。
「テストでいい点を取ったり、何かで1等賞を取ったりしたとき、その結果をほめられたとしたら、“次もまた結果を出さなければならない”と、子どもはプレッシャーを感じてしまいます。そうすると、守りの姿勢に入って、冒険ができない子どもになってしまう」
「実験でも、結果をほめられた子どもは、次には易しい課題を選びました。つまり、結果をほめられると、そこで子どもの成長が止まってしまうのです」
そこで着目したいのが「プロセス」。
「結果がどうであれ、“よく頑張ったね”などと子どもが努力した過程をほめるのです」
「実験でも、結果ではなく、頑張ったという過程をほめられた子どもは、次にチャレンジしがいのある難しい課題を選んでいます」
「努力した過程をほめられれば、たとえ今回は失敗に終わったとしても、子どもは“次もまた頑張りたい”と思えるのです。子どもの長い人生を考えれば、やはり、努力して頑張ることができる大人に成長してほしいですよね」
正しい「ほめる」は「認める」こと
「ほめて育てる」が主流になっている昨今、子育ての雑誌やサイトなどでは、「こんなときには、こんな言葉をかけよう」などと、具体的なほめ言葉が紹介されていることも珍しくありません。
「でも、私は、いちいち“素敵!”とか“素晴らしい!”などと言う必要はないと思っています。“ほめる”というのは、そういうことではない、というのが私の考えです」
「私が考える“ほめる”とは、“認める”こと。“プロセスをほめる”ことにもつながりますが、“よく頑張ったね”は、いわゆる“ほめ言葉”ではないかもしれませんが、子どもの努力を認めているということです」
結果はどうであれ、子どもが一生懸命努力したなら、その頑張りを評価する。子どもが、前はできなかったことができるようになったとしたら、「できるようになるまで頑張ったね」などと声がけをする。例えば、これもまた、子どもを「認める」ということです。
「子どもが、自分で自分の成長に目を向けられるようにしてあげるのが、親の役目ではないでしょうか。ほめるというよりは、親が子どもの努力を認めることで、子どもは、自分の成長に気がつき、“もっと頑張るぞ”とモチベーションが高まるのです」
「素晴らしい」とか「偉いぞ」など、いわゆる“ほめ言葉”をかけることが、「子どもをほめる」ということであれば、榎本先生は、自分の子どもを一度もほめたことがないとか。そしてまた、先生自身、親から一度もほめられた記憶がないとも。
「私は自分の親から“この子は、親がほめなかったから、自分で自分をほめるようになった”と言われたことありますが(笑)、実はこれが大事です」
「自分で自分をほめる(=認める)ことができるようになると、自分の中にいい循環が生まれます。自分で自分を奮い立たせるメカニズムができるんですね」
「逆に、自分で自分をほめる(=認める)術を知らないまま、親から一方的にほめられてばかりで育てられた子は、ほめられないとやる気が出ない場合が多い。モチベーションを他人に依存しているわけです。だから、ほめられるような成果を出せないときにはやる気を失う。まわりが自分に甘くしてくれないと、やる気が出ない。少し厳しくされると、心が挫けてしまう……」
「でも、他者から過度にほめられることなく、自分で自分をほめる(=認める)力が身についていれば、自分の中にドライブをかける動きが生じ、“よし、俺は頑張っているぞ”などと自分で思えるわけです。そうなったら、どこまででも頑張ることができるのです。これは強いですよ」
親が厳しいほど「やる気」アップ?
20歳前後の大学生と30~60代の人々を対象に、榎本先生は、ある調査を実施しています。
それによると、自分の父親は厳しかったという者は、30代以上は43%、大学生は32%、母親が厳しかったという者は、30代以上は51%、大学生は40%。
また、父親からよくほめられたという者は、30代以上は20%だったのに対して大学生は34%。母親からよくほめられたという者は、30代以上が36%だったのに対して大学生は61%。
「この調査結果からは、両親ともに厳しさが減少しつつあり、子どもをよくほめるようになっていることがわかります」
「さらに、大学生に関して、両親の厳しさと本人の心理傾向との相関関係も調査しました。その結果、父親が厳しいほど『有能になりたいという思いは人一倍強いほうだ』『失敗から学ぼうという気持ちが強い』という自分の性質を肯定する傾向が見られました」
「そして、母親が厳しいほど『非常にやる気があるほうだ』『向上心が強いほうだ』『目標を達成したいという気持ちが強いほうだ』という自分の性質を肯定する傾向が見られ、『何事に対してもあまりやる気になれない』といった性質を否定する傾向が見られたのです」
「このような調査結果は、両親の厳しさが、子どものモチベーションの高さや粘り強さにつながっていることを示唆しています。この点からも、ほめるだけの子育てが、子どもを伸ばすことにはならないとわかるでしょう」
「もちろん、だからと言って、子どもをほめるなとは言いません。大切なのは、“どんなときに”“どのようにほめるか”。そして、“ほめることと𠮟ることのバランスをどうするか”ということではないでしょうか」
【心理学博士の榎本博明先生に聞く〔「子どもを伸ばす」ほめ方・𠮟り方〕連載は全3回。〔“ほめるだけの子育て”がNGな理由・ストレス耐性を高める子育て〕について聞いた第1回に続き、この第2回では〔正しい「自己肯定感」の育て方〕をお聞きしました。次の第3回では〔日本の子育てに必要なこと〕を伺います】
◾️出典・参考
『自己肯定感という呪縛』榎本博明・著(青春出版社)
『ほめると子どもはダメになる 』榎本博明・著(新潮社)
「実力が伴わない人ほど自己肯定感が高い」などの心理学調査も踏まえつつ、大人・子ども問わずに蔓延する「自己肯定感」信仰の問題点を明らかにし、上辺の自己肯定感に振り回されず、ほんとうの自信を身につけるための心の持ち方を指南する一冊
頑張れない、傷つきやすい、意志が弱い。生きる力に欠けた若者たちの背景とは。欧米流「ほめて育てる」思想がなぜ日本の子育て事情にNGなのか? 心理学データと調査をもとに詳しく解説。
佐藤 美由紀
広島県福山市出身。ノンフィクション作家、ライター。著書に、ベストセラーになった『世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉』のほか、『ゲバラのHIROSHIMA』、『信念の女 ルシア・トポランスキー』など。また、佐藤真澄(さとう ますみ)名義で児童向けのノンフィクション作品も手がける。主な児童書作品に『ヒロシマをのこす 平和記念資料館をつくった人・長岡省吾』(令和2年度「児童福祉文化賞」受賞)、『ボニンアイランドの夏:ふたつの国の間でゆれた小笠原』(第46回緑陰図書)、『小惑星探査機「はやぶさ」宇宙の旅』(第44回緑陰図書)、『立てないキリンの赤ちゃんをすくえ 安佐動物公園の挑戦』、『たとえ悪者になっても ある犬の訓練士のはなし』などがある。近著は『生まれかわるヒロシマの折り鶴』。
広島県福山市出身。ノンフィクション作家、ライター。著書に、ベストセラーになった『世界でもっとも貧しい大統領 ホセ・ムヒカの言葉』のほか、『ゲバラのHIROSHIMA』、『信念の女 ルシア・トポランスキー』など。また、佐藤真澄(さとう ますみ)名義で児童向けのノンフィクション作品も手がける。主な児童書作品に『ヒロシマをのこす 平和記念資料館をつくった人・長岡省吾』(令和2年度「児童福祉文化賞」受賞)、『ボニンアイランドの夏:ふたつの国の間でゆれた小笠原』(第46回緑陰図書)、『小惑星探査機「はやぶさ」宇宙の旅』(第44回緑陰図書)、『立てないキリンの赤ちゃんをすくえ 安佐動物公園の挑戦』、『たとえ悪者になっても ある犬の訓練士のはなし』などがある。近著は『生まれかわるヒロシマの折り鶴』。
榎本 博明
1955年東京生まれ。東京大学教育学部教育心理学科卒業。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授などを経て、現在はMP人間科学研究所代表、産業能率大学兼任講師。 おもな著書に『〈自分らしさ〉って何だろう?』『「さみしさ」の力』(ともに、ちくまプリマー新書)、『自己実現という罠』『教育現場は困ってる』『思考停止という病理(やまい)』(以上、平凡社新書)などがある。 近刊に『自己肯定感は高くないとダメなのか』(ちくまプリマ―新書)。
1955年東京生まれ。東京大学教育学部教育心理学科卒業。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授などを経て、現在はMP人間科学研究所代表、産業能率大学兼任講師。 おもな著書に『〈自分らしさ〉って何だろう?』『「さみしさ」の力』(ともに、ちくまプリマー新書)、『自己実現という罠』『教育現場は困ってる』『思考停止という病理(やまい)』(以上、平凡社新書)などがある。 近刊に『自己肯定感は高くないとダメなのか』(ちくまプリマ―新書)。