本物を使って、繰り返し練習を重ねる
質問者さんは「親が何度も動きで手本を見せる、という方法が良いのでしょうか?」ともおたずねになっています。
もちろん大人がレストランの食器を丁寧に扱ってみせる、音がしないようにゆっくりと置いてみせ、「静かだったね」と言ってあげることは、素敵な提示となるでしょう。
ただ、1歳3ヵ月の子どもは、それを見ても、その場ですぐ同じようにできるようにはなりません。
今は、とにかくさまざまな動きを獲得し、それを繰り返し練習したい時期なのです。寝返りも歩くことも、1回ですぐにできたわけではありませんね。何度も何度も失敗し、練習を重ねてようやくその動きができるようになったはずです。
食器の扱いも、その場でではなく、自宅で練習を重ねておきましょう。
連載第5回で記したように、モンテッソーリ教育では、1~2歳児のクラスでも、陶器のカップやピッチャー、厚手のガラスでできた花瓶なども使います。あえて割れるものを使って、両手で丁寧に扱うことを伝えていくのです。
日頃から1つずつ運ばせてあげると、意外と上手にバランスを取って持ち運びますし、感触も楽しめます。
もちろんあまりにも薄いガラスや高価な茶わんなどはやめておきましょう。
投げてもいいもの、叩くと楽しいものを提示する
家で「壊れないものを与えて、投げたり叩いたりさせる」というやり方は正しいですが、壊れないものならなんでもかんでも投げさせたり、叩いたりさせるのはどうでしょうか。
割れないからといってプラスチックの食器や本などを投げさせていると、それらは投げていいものだと思ってしまいます。そういったものは、人に当たると怪我をしてしまいますし、投げてよいものではありません。
ですから、柔らかいゴムボールや毛糸のボールなどを準備して、「これはボール、投げてもいいよ」と投げさせてあげましょう。段ボールに大きめの穴をあけ、そこに投げ入れるのも楽しいものです。
叩くのも、お友だちや家具を傷つけることではなく、楽しい行為を伝えたいものですね。
太鼓やタンバリンなどの打楽器を準備してあげましょう。そのときも、力まかせに叩くと破れたりしますから、良い音が出るような叩き方も提示しましょう。
このような生活を日々送っていますと、いずれ子どもは自己コントロールができるようになり、公共の場所へ連れていっても恥ずかしくないふるまいを自らするようになります。
それが絵空事ではない証拠に、私の勉強会に参加していらっしゃる方からはこんなレポートをいただいています。
「最近では、一人で双子を連れて電車に乗れるまでに成長してくれました。電車の中では騒がず、きちんと座って、小さな声でお話をするのです。その姿は、人として二人を尊敬できるほどです」(2歳4ヵ月 男女の双子の母)
「電車の中など静かにする場所では何も言わなくても声を小さくするなど状況に応じて行動できています。優先座席について質問してきたので説明すると、お年寄りに『どうぞ』と席を譲ったことに驚きました」(3歳1ヵ月 男の子の母)
強制的に取り上げる、ダメダメを言い続ける、スマートフォンで気をそらすなどのその場しのぎを、ついついしたくなります。
が、それを続けていますと、5歳になっても小学生になっても、人目を気にして叱り続けることになってしまうのではないでしょうか。
私たちが育てたいのは、社会の一員として愛され、受け入れられる子どもです。回り道のようでも、これが、親子が幸せになれる道であり、結果的には公共の場所でも困らず、ゆっくりレストランで食事を楽しむことができるようになる近道なのです。
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第7回 「子どもに怒ってばかりで自己嫌悪です」子育て相談 モンテッソーリで考えよう!
田中 昌子
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。
上智大学文学部卒。2女の母。日本航空株式会社勤務後、日本モンテッソーリ教育綜合研究所教師養成通信教育講座卒。同研究所認定資格取得。東京国際モンテッソーリ教師トレーニングセンター卒。国際モンテッソーリ教師ディプロマ取得。2003年よりIT勉強会「てんしのおうち」主宰。著書に『モンテッソーリで解決! 子育ての悩みに今すぐ役立つQ&A68』(講談社)、モンテッソーリ教育の第一人者、相良敦子氏との共著に『お母さんの工夫モンテッソーリ教育を手がかりとして』(文藝春秋)など多数。