「モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所」所長で、たくさんのお母さま、お父さまの相談にのってこられた田中昌子先生。今回は、食べることに集中してくれない、というお母さまの悩みに答えてこださいました。食事の悩みだけでも1冊の本ができるくらい、ということですが……
※この記事は、講談社絵本通信掲載の企画を再構成したものです。
食事に集中しない子どもにどう対応したらいいですか?
4歳の息子が自宅で食事をするとき、途中で席を立ったり、妹にかまい始めたりと、集中しません。そのため時間もかかります。「食べなさい」と口を酸っぱくして言うのですが、子どもを急き立てるようで、悲しい気持ちになります。
親の工夫として、食事中はテレビをつけない、遊びたい気持ちが落ち着いてから食事にする、食材は食べやすい大きさに切る、食べやすく、かつ、食事を楽しめる食器を使う、配膳や料理を手伝ってもらう、といったことをしています。子どもに食べ物の好き嫌いはありません。
子どもが食事の時間を、お腹も心も満足した状態で終えられるようにするためには、親はどのような関わり方や環境づくりをしたらよいですか。
食事に関するご質問やご相談も数多くいただきます。
幼児前期では、食べこぼす、自分から食べようとせず「食べさせて」と言う、スプーンがうまく使えないなど。
幼児後期では今回のようなお悩みのほかに、箸の持ち方がおかしい、食が細いなど。
食事のご相談だけでも1冊の本ができてしまいそうです。
食事は通常1日3回、365日毎日繰り返されることですし、生きることにも直接つながっていますから、当然と言えば当然かもしれません。
また、お母様としては、せっかく手間暇かけて作ったごはんですから、なんとか楽しく満足して食事を終えてもらいたいと願うお気持ちでしょう。よくわかります。
質問者さんも、ご自分でいろいろな原因を考え、その対策も工夫していらっしゃいます。
テレビをつけない、配膳や料理を手伝うなどは、モンテッソーリ教育としてもお勧めしていることです。
一方、「食べなさい」と言葉で促してもまったく効果はありません。「早くしなさい」と言っても早くならないのと同じで、かえって逆効果になることもありますので、ぐっと抑えてください。
ではどうしたらいいのか、考えてみましょう。
集中する時間を意識
集中せずに立ち歩くということは、その子どもは食べることに対する意欲が薄いと考えるのが自然です。
お腹が空いて本当に食べたい! と思えば、子どもは脇目も振らずに食べますね。単純に言えば、食事前にお腹が空いた状態になっていないということです。
その原因はいくつか考えられます。以下をチェックしてみて下さい。
・外遊びなど運動が十分にできているか?
・睡眠が十分に取れているか?
・食事の時間は規則正しく決まっているか?
・食事前におやつや甘い飲み物などを取っていないか?
いずれも基本的なことですが、当てはまるものがあれば、そこをまず改善しましょう。
質問の中に「遊びたい気持ちが落ち着いてから食事にする」とありましたが、その必要はないでしょう。食事の時間が不規則になりますし、幼児前期の妹さんがいらっしゃるなら、その食事時間までずれてしまいます。
決まった時間に、お腹が空いた状態で食事をする、という自然な流れを作ることが大切です。
食事の始まりを決めたら、終わりの時間も決めておきましょう。食べないからといって1時間も2時間も食べさせていると、よけい集中しません。集中というのは、一定の時間内に全力を傾けることです。
ただ、幼児はまだ時間という目に見えないものを意識することが難しいものです。時間を目に見えるものにしてあげましょう。
数字が読める年齢ならば、終わりにしたい時間の長い針の指す数字にシールやポストイットを貼ってもらって目安にするといいでしょう。(この方法は『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』の12ページにあります)
最近では15分や30分の砂時計なども売られているようですから、そういったものを利用してもいいですね。
それでも時間を意識することが難しい場合には、終わったあとのスケジュールに子どもが好きなことを組み込んでおくといいでしょう。お気に入りの本のよみ聞かせ、外遊び、おやつ作りなど、食べ終わったらこれができる、ということを決めておくと、早く食べ終えてそれをしよう、と思えるのではないでしょうか。
食卓と椅子の高さのバランス
次に食事をする環境ですが、食卓と椅子の高さのバランスを見直してみましょう。
まず、子どもの足がしっかりと床に届いているかどうか、確認しましょう。
4歳児は中途半端で、ベビーチェアは卒業し、かといって大人の椅子では大きすぎるという状態ではないでしょうか?
ご家庭ではその年齢の子どもに合ったテーブルと椅子で食事をさせるのが難しく、それが遊び食べの原因となることがあります。
年齢に合わせて高さが調整できる椅子もありますし、踏み台などを利用しても構いませんから、足がつく状態を作りましょう。
足がブラブラしていると落ち着かないので集中しにくく、床に降りたくなったり遊び始めたりする原因になります。そればかりか、噛む力が弱くなりますから、顎の発達や歯並びにも影響があります。
本物を使うことで、真剣に集中する
次に食器をチェックしてみましょう。質問者さんの「食べやすく、かつ、食事を楽しめる食器」がどのようなものかわかりませんが、もしも軽いプラスチック製やメラミン素材でキャラクターのついているものであれば、それが集中しない原因になっている可能性もあります。
第5回で、環境に置くものについて「ガラスや陶器といった本物を使うことで、子どもは真剣に集中してそれらを扱おうとするようになります」と書きましたが、食器も同様です。
ままごと道具とあまり変わらないようなものは、大切に思えませんし、何より乱雑に扱っても、音がしたり壊れたりしないので、子どもは当然そのように扱います。
本物は丁寧に真剣に扱わないと、不作法な音をたてたり、割れてしまって悲しい想いをしたりするので、子どもが集中します。
キャラクターの食器は、食べるきっかけになるかもしれませんが、遊びと直結しているので、遊びたくなったり、注意が逸れたりすることもあります。
シンプルで少し重みのある、魅力的な食器に変えることをお勧めします。
自分で食べられる量
食事そのものについては、まず分量が重要になります。
親は子どもにたくさん食べてほしいという願望があるため、ついつい適量よりも多めに盛りがちです。ところが、それがかえって食欲を減退させてしまうことも多いのです。
4歳のお子さんであれば、お勧めなのが「自分でよそっておかわり自由」という方法です。
多くのご家庭で、ごはんは電気釜からお母様が子どもの茶碗によそったものを出していることでしょう。電気釜の縁で火傷をしてはいけませんから、子どもの手の届かない場所に置くのは当然です。
でも、モンテッソーリ教育では、「一人でするのを手伝う」ことを考えます。大きめの器、どんぶりや木製のボウルなどにいったんご飯を盛り、しゃもじを添えて食卓に出してみましょう(※この図は『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』の26ページにあります)。
食卓には空の茶碗を並べておき、自分が食べられる量だけ、そこからよそって「お先に(失礼します)」とか、「どうぞ」と次の人へと回すのです。
最初に大人がやってみせれば、それが「提示」になりますし、自分で食べられる量に責任を持つことも伝えられます。
また、しゃもじですくい、茶碗に入れるときには、しっかりと手首を返さないといけませんから、とても良い手首の運動になり、鉛筆を持つ練習にもつながります。(手首を返す工夫は、『親子で楽しんで、驚くほど身につく! こどもせいかつ百科』の27ページにあります)
おかずは、各自のお皿につけておいても構いませんが、ごく少量にしておき、余ったものは種類ごとに別のお皿に盛り、おかわり自由にしておくといいでしょう。
おかずが固形のものであれば、トングなどを添えておくと、お箸の練習にもなります。
しつけ箸と普通のお箸は、動かし方が全く違うので移行するときに苦労しますが、トングの動かし方は、お箸につながるものです。モンテッソーリ教育の空け移しの練習用具にも、トングはよく使われています。