子育て中は、日々、悩みや困りごとがありますね。そこで、「モンテッソーリで子育て支援 エンジェルズハウス研究所」所長で、たくさんのお母さま、お父さまの相談にのってこられた田中昌子先生にお話をお伺いしました。ちょっとした工夫で、子どもたちに大きな変化が起こるモンテッソーリの考え方は、目からうろこが落ちることがいっぱいです。子育て中の人、必読です!
※この記事は、講談社絵本通信掲載の企画を再構成したものです。
赤ちゃんには、何をしてあげればいいでしょうか?
生後2ヵ月の男の子です。モンテッソーリには0歳からの教育があると聞きましたが、赤ちゃんに何をすればいいのかわかりません。
0歳からでもできること、また3歳までにしておいたほうがいいことを教えてください。
赤ちゃんは本当にかわいらしいですね。この子のためならなんでもやってあげたい、という気持ちはとても大切ですし、それがなければ育てられません。
多くの方が、赤ちゃんを育てることは、衣食住の世話をすることと考えています。妊婦さん向けの母親学級の内容も、栄養や授乳の注意点や沐浴の実習などがほとんどです。
もちろんそれらは欠かせないことですが、単に身体の世話することと捉えてしまうと、問題があります。
モンテッソーリは「人間は大学で成長するのではなく、誕生時から精神を発達させ始め、生涯の最初の3年間に最も飛躍的に発達させる」(『子どもの精神―吸収する精神―』マリア・モンテッソーリ著 中村勇訳 日本モンテッソーリ教育綜合研究所刊より)と述べています。
つまり人格が育ち始めるのは誕生直後からであり、そのための教育が必要であるとモンテッソーリは考えていたのです。
35歳と38歳にそれほど大きな違いはなく、時には見分けがつかないこともあります。
いっぽう、0歳児と3歳児は見た目も違いますが、内面的にも全く違います。肉体的な成長とともに、精神的な成長もこの時期が人生でもっとも著しいのです。
しかし、0歳児は言葉を話せませんし、歩くことはおろか最初の数ヶ月は身動きもままならない状態です。こんな赤ちゃんを、どうやって教育するのでしょうか。
そのポイントとなるのが、前出の著書のタイトルにも含まれている「吸収する精神」です。
吸収精神とは、環境を吸収して自分のものにしていく、大人にはない特別な能力を指します。
特に0歳から3歳では無意識の吸収精神と呼ばれ、子どもは環境にあるものを丸ごと取り込み、人格を形成していくと言われています。
ですから、子どもの発達段階に応じて、必要なものが十分に整えられている環境を準備することが重要になります。
視覚の発達
赤ちゃんは、今、どのような発達段階にあり、何を成長させようとしているのか、それに応じるためには何が必要なのか、0歳から3歳で急激に発達する4つのことに、着目してみましょう。
ひとつめは感覚器官、特に視覚です。新生児の視力は0.01~0.02くらいで、明暗がわかる程度です。色の区別はつきませんが、黒白はわかるので、モンテッソーリ教育ではムナリ・モビールと呼ばれるものを、赤ちゃんの目から約30cmのやや前方に誕生後から吊るします。
30cmというのは、授乳時のお母さんと赤ちゃんの目の距離で、そこが赤ちゃんが一番見たい場所だからです。授乳時には、赤ちゃんの目を見つめてあげることがとても大切です。視覚を発達させるだけではなく、赤ちゃんはお母さんと心の交流も求めているからです。
2~3ヵ月頃からは色がついたものも見えるようになるので、色付きのグラデーションのゴッビ・モビールというものに変えます。
モビールは動きが自然でゆっくりなので、機械で動くものとは違って追視することができますし、首を上げたり回したりする運動にもつながります。
手で触るようになったら、少し遠ざけるか、触っても大丈夫な木製素材のモビールに変えましょう。
その後は自分の動きにも興味が出てくるので、鏡を設置しておくととてもよく見ています。
キッキングボールという布製のボールを足の届くところに吊るしておくと、ちゃんと狙って蹴るようになることに驚かされます。中に鈴が入っているので、自分が起こした行動で音が聞こえるということもわかってきて、自らやってみようとするのです。
視力は2歳までの発達がもっとも急激ですから、特にその時期には狭い視野や平面の画面ではなく、具体物や自然の景色を見せてあげましょう。
モンテッソーリは揺らぐ木々や花、鳥などを赤ちゃんに見せてあげることを奨励していました。こうして赤ちゃんは、広いこの世界をどんどんと吸収していくのです。