乳幼児は“ありのままを受け入れ”が大切。子どもの「愛される権利」を知ろう
教育学者・末冨芳教授「こども基本法」と「子どもの権利」#2〜乳幼児編〜
2022.06.23
教育学者・日本大学文理学部教育学科教授:末冨 芳
子どもの声を聴く―子どもの「ありのまま」や「個性」と向き合うために
とはいえ、やはり子どもの「ありのまま」や「個性」と向き合い、子どもの愛される権利をより良く実現することは、ときには簡単なことではないと感じられる場面もあると思います。
離乳食を食べてくれない、親は疲れているのに保育園や公園からなかなか帰ってくれない、お友達とけんかをしてしまう。
子育ての中で日々の悩みは尽きません。
私自身も、「この子、お友達ができない」、と親に悩まれる子どもでした。
率直に言えば、子ども期の私は、子どもという存在が苦手で、一人でいることが大好きだったのですが、親にそれを伝えることもありませんでした。
親からみれば、さぞ難しい子どもだっただろうと思いますが、「幼稚園でお友達と仲良くすることがいいことだ」と思い込んでいる親に、「実は子どもが苦手なんだけど」と言っても無駄だろうなと子ども心にあきらめていました。
しかし子ども自身を受け入れるためには、子どもの声を聴こうとすることがとても大切になります。
幼く、言葉が未発達な子どもであっても、態度や指差し、何かに夢中になっている様子などでたくさんの「声」を伝えてくれています。
その「声」をなるべく聴きとろうとすることが、子どもの意見が尊重される権利や、子どもにとって「もっとも良いこと(最善の利益)」につながっていきます。
我が家の長女は、食が細く、離乳食を食べない子どもでした。
そんな風に悩んでいるときに限って、親も多忙です。
ある時、手作りの離乳食を食べてくれず、私は料理を作る気力もわかず、お茶漬けで夕食を済ませようとしたときに、長女がお茶漬けを指差して、「あ、あ、あ」と食べたそうに言葉を発していました。
もしかして、お茶漬けが食べたいのだろうか……。
しかし、子育てのマニュアル本には、この時期の離乳食は「おかゆ」と書いてあります。
大丈夫かな、そう思いながら、お茶漬けのご飯をスプーンでつぶして食べさせてみたところ、ものすごい勢いで食べつくしたのです。
この子はおかゆが嫌いだったのか!
子どもにはひとりひとり個性があるし好みもある、教育学の研究者として頭ではわかっていたつもりでしたが、目からうろこの体験でした。
子どもの声をたくさんの大人で聞き みんなで育てる
―子どもは「国と社会でみんなで育てる」
しかし、お茶漬けを子どもに食べさせて良いのか、悩みはつきません。
翌日、保育園で保育士さんに相談しました。
「薄味でスプーンでつぶして食べられるなら大丈夫ですよ~」
笑顔で保育士さんにそう言っていただけたとき、心からほっとしました。子どもが言葉を発していなくても、子どもの声を聴くプロ、それが保育士さんです。
親が子どもの声をひとりで聞き取ろうとすると、親も疲れてしまうときもあるでしょう。周囲に相談できる人や頼れる人もいない、親の「孤(こ)育て」もコロナ禍の中でいっそう深刻になっています。
親自身も幸せに、子育てを楽しいと思う気持ちを大切に生きてほしい。
子どもは「国と社会、みんなで育てる」、そんな日本にしたくて、私は「こども基本法」をこの国に作ろうとしてきました。《詳しくは著書に記載『子育て罰 「親子に冷たい日本」を変えるには』(著:末冨芳・桜井圭太、光文社新書)》
だからこそ、「こども基本法」には、「全てのこども」について「福祉に関する権利が等しく保障されること」と書いてあるのです。
子どもの声を、保育士さんや、それ以外の大人も聞き、子どもが愛され守られ育つためには、親こそ「福祉に関する権利」を遠慮なく使える社会や地域でなくてはなりません。
いま保育園を、働いている保護者の子どもだけでなく、「全ての子どもと親」を応援するための「地域おやこ園」にしようと頑張ってくださっているみなさんがいます(※1)。
※1=新しい保育イニシアチブ
子どもが幸せと感じられる社会、慢性疾患児や医療的ケア児等をも包みこみ、さらには休日勤務や夜間勤務等、ハードな働き方になっている場合でも、「誰ひとり取り残さない」。
そのために、どの親にも子どもにも、保育につながることが当たり前、という子どもの権利も親の幸せも大切にした取り組みをすすめておられる保育園経営者のみなさんの動きは心強いものです。
また「こども家庭庁」(2023年4月1日発足予定)も、「全ての子どもと親」の幸せのために、全自治体に「こども家庭センター」を作って、「全ての妊産婦、子育て世帯、子どもへ一体的に相談支援を行う」ことを目指しています。
子どもや若者、親が小さな悩みでも気軽に相談できたり、生活の相談にも乗って、サポートしたり状況を改善できる基盤としようとしています(※2)。
※2=【独自】全市区町村に「こども家庭センター」設置…子育て世帯支援を一元化、政府が法改正案(読売新聞2022年2月21日記事)
すでに、多くの自治体では相談すれば、親自身が寝不足で困っている場合は一時保育で睡眠時間を確保できるようにしてくれたり、体調が悪くて家事も思うようにいかないときに無料、もしくは安く家事支援が受けられるなどのサポートは当たり前になっています。
親が自分自身の睡眠や、ひと息つく時間のために、自治体の一時保育やベビーシッターさん、家事支援をお願いすることもとても大事なことなのです。
SNSではキラキラしてない子育てのリアルを、クスっと笑える発信で、ママやパパを元気にしようとしてくださる方もたくさんおられます。
リアルで相談しづらいことも、LINEやオンラインで相談できるアプローチもたくさんあります。
子どもの「ありのままを受け入れ」大切にするために、子育てがいちばん大変な乳幼児期こそ、ママやパパ自身が幸せにいることを大切にしてくださいね。
※この記事は子どもたちの同意を得て執筆公開されています。
末冨 芳(すえとみ かおり)
日本大学文理学部教育学科教授。専門は教育行政学、教育財政学。2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画、現在、文部科学省・中央教育審議会臨時委員もつとめる。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、子どもの権利・利益の推進、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。
末冨 芳
日本大学文理学部教育学科教授。京都大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(学術・神戸大学大学院)。専門は教育行政学、教育財政学。 子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。現在、文部科学省・中央教育審議会臨時委員もつとめる。 教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、子どもの権利・利益の推進、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。二児の母。 主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店)、『一斉休校 そのとき教育委員会・学校はどう動いたか』(明石書店)など。
日本大学文理学部教育学科教授。京都大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(学術・神戸大学大学院)。専門は教育行政学、教育財政学。 子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。現在、文部科学省・中央教育審議会臨時委員もつとめる。 教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、子どもの権利・利益の推進、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。二児の母。 主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店)、『一斉休校 そのとき教育委員会・学校はどう動いたか』(明石書店)など。