こども家庭庁の意義は? 少子化対策を何十年やっても子どもが増えない「根本原因」

東京大学教授・山口慎太郎先生「こども家庭庁」#2 ~少子化対策~

東京大学教授:山口 慎太郎

婚姻件数を増やすと少子化対策につながる

――男性を家庭に返すことが少子化対策の一歩になるのですね。ジェンダー意識の改革に加え、そもそも婚姻件数を上げることも少子化には大切だと思いますが、その点はどうお考えでしょうか?

山口先生:結婚をする際に、パートナーの外見やそのときの愛情に比重を置いて結婚を決める人もいるでしょうが、そこから続く結婚生活や、家族を築いていくということをイメージする人も多いと思います。そうやって考えたときに、パートナーと一緒に子どもを持ち、いい家庭を築けるというイメージが持てたらより結婚に進むはずです。

広い意味で、子育て支援は、パートナー同士が希望する場合には子どもを持てて、充実した家庭が築ける可能性を助ける、という意味で、婚姻件数の増加にも影響するのではないでしょうか。

山口先生は、内閣府・男女共同参画会議議員、朝日新聞論壇委員、日本経済新聞コラムニストなども務められています。  撮影:森﨑一寿美

――その一方、子どものいない人や、子どもを持ちたくても持てなかった人などにとっては、子育て支援や少子化という話は身近に感じることができない、もしくは子どもがいないのに負担をしなくてはいけないという不平等を感じるものかもしれません。

しかしそういった方たちの税収も活用して子育て支援を行い、将来の労働力となる子どもたちを育てていく必要があります。多くの人から理解を得ながら財源を確保し、少子化対策を行うにはどうしたらよいでしょうか?

山口先生:子どもを育てるのには莫大なお金がかかります。内閣府の「平成21年度インターネットによる子育て費用に関する調査」によると、義務教育修了である中学卒業までに平均約1900万円の子育て費用がかかるという結果が出ています。

子どものいる人がその負担をしながら育てますが、しかし、その子どもは将来、子どもを持たない家庭を含めて、親世代を医療や年金、介護などを納税という形でサポートしていきます。いつかは自分に還元されるものだということで、どんな状況の人も税を払うことに理解をすることが必要です。

また、「こども家庭庁」が発足することにより、子どもやその親に手を差し伸べやすくなるはずです。こういった社会の子ども支援への積極的な動きは、もしかしたら今後は介護や病気療養の休暇など、お互いが助け合う社会づくりに役立つということを感じてもらえれば、さらに自分の税金が子育て支援に回ることにも理解を得ることはできるのではないでしょうか。

――例えば北欧は税金が高いですが、国民は子育てのサポートも含む社会保障を受けられるということで、納得をして払っているように思います。日本も今後は理解が進めば、北欧のようなシステムが作れるのでしょうか?

山口先生:北欧がなぜこのシステムで運営できているかというと、国民の国に対する信頼が高いからです。自分のお金を信頼できる人に預けて、それを社会に役立てるために使ってもらっているという意識が彼らにはあります。

ただ、残念ながら日本は政治に対する不信感が非常に強いのが現状です。ですから、すぐに北欧と同じように税率を上げて財政を賄うというのは至難の業だと思います。やはり自分たちの信頼のおける代表者が政府を形成しているという信頼感がないと難しいでしょう。

つまりは、私たちひとりひとりが政治に関心を持ち、選挙に参加するなどということがまずは第一歩になるのです。とても遠回りに見えますが、正攻法で社会と政府の間の信頼を築くしかないでしょう。

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少子化に歯止めをかけるのは、子どもの保育と教育設備の拡充、そしてそれによって得られる母親と父親の育児や家事の分担の平等化が必要ということがわかりました。

最終回となる次回3回目は、「こども家庭庁」が発足することで、貧困や虐待、ヤングケアラーなど、緊急に助けを必要とする子どもたちをどうやって助けていくのかについて、具体的に山口先生にお伺いします。

取材・文/知野美紀子

1回目  こども家庭庁が23年発足 ホントに全ての子どもに役立つ?
3回目 「子どもの貧困」7人に1人が衣食住に余裕なし こども家庭庁は子どもを救えるの?

山口慎太郎(やまぐち・しんたろう)
東京大学経済学研究科教授。1999年慶應義塾大学商学部卒業。2001年同大学大学院商学研究科修士課程修了。2006年アメリカ・ウィスコンシン大学経済学博士号(Ph.D.)取得。カナダ・マクマスター大学助教授、准教授、東京大学准教授を経て2019年より現職。
専門は、労働市場を分析する「労働経済学」と結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」。

子育て支援の経済学/著:山口慎太郎(日本評論社)
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やまぐち しんたろう

山口 慎太郎

東京大学教授

東京大学経済学研究科教授。 1999年慶應義塾大学商学部卒業。2001年同大学大学院商学研究科修士課程修了。 2006年アメリカ・ウィスコンシン大学経済学博士号(Ph.D.)取得。カナダ・マクマスター大学助教授、准教授、東京大学准教授を経て2019年より現職。 専門は、労働市場を分析する「労働経済学」と結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」。 『家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)で第41回サントリー学芸賞を受賞。同書はダイヤモンド社ベスト経済書2019にも選出される。『子育て支援の経済学』(日本評論社)は第64回日経・経済図書文化賞を受賞。 現在は、内閣府・男女共同参画会議議員、朝日新聞論壇委員、日本経済新聞コラムニストなども務める。

東京大学経済学研究科教授。 1999年慶應義塾大学商学部卒業。2001年同大学大学院商学研究科修士課程修了。 2006年アメリカ・ウィスコンシン大学経済学博士号(Ph.D.)取得。カナダ・マクマスター大学助教授、准教授、東京大学准教授を経て2019年より現職。 専門は、労働市場を分析する「労働経済学」と結婚・出産・子育てなどを経済学的手法で研究する「家族の経済学」。 『家族の幸せ」の経済学』(光文社新書)で第41回サントリー学芸賞を受賞。同書はダイヤモンド社ベスト経済書2019にも選出される。『子育て支援の経済学』(日本評論社)は第64回日経・経済図書文化賞を受賞。 現在は、内閣府・男女共同参画会議議員、朝日新聞論壇委員、日本経済新聞コラムニストなども務める。