「こども基本法」制定間近!すべての大人が知っておくべき子どもの権利とは?
教育学者・末冨芳教授「こども基本法」と「子どもの権利」#1〜子どもの権利を大切にする子育てとは?〜
2022.06.22
教育学者・日本大学文理学部教育学科教授 :末冨 芳
2022年、日本ではじめて、子どもの権利を大切にしようという法律、「こども基本法」が国会で成立します。
子どもの権利とは、簡単にいうと、成長途上にあり弱い存在でもある子どもたちが安心して成長するために、国や大人が大切にするべき権利です。
子どもの権利は、「子どもの権利条約(児童の権利条約)」という国際条約で決められています。1989年に国連総会で決定(採択)され、日本でも1994年に国会で子どもの権利条約に同意(批准)しました。
子どもの権利条約に定められた、もっとも大切な4つの子どもの権利(一般原則)についてまず紹介しましょう。
「安全安心に成長する権利」(生命、生存及び発達に対する権利)
「子どもにとってもっとも良いことを国や大人に考えてもらう権利」(子どもの最善の利益)
「意見を伝え参画する権利」(子どもの意見の尊重)
「差別されない権利」(差別の禁止)
です。「遊ぶ権利」「休む権利」「教育を受ける権利」「子どもの権利について知る権利」なども、子どもの権利として条約に位置づけられています。
※ユニセフ「子どもの権利条約」
※セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン「生きる・育つ・守られる・参加する 子どもの権利条約」
「こども基本法」は、このもっとも大切な4つの一般原則をはじめとする子どもの権利条約と、日本国憲法に基づき、子どもが個人として尊重され、基本的人権が保障されるというルールを、日本の国・地方・大人たちが、子ども・若者とともに実現していくための大切な大切な法律なのです。
しかし、いまの日本で、子どもの権利は大切にされているでしょうか?
セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが2019年に3万人の子どもと大人を対象にしたアンケート調査(※1)では、子どもの権利条約について「内容を知っている」(よく+少し)と答えた大人は、16.4%しかいませんでした。
※1=セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン「3万人アンケートから見る子どもの権利に関する意識」
コロナ禍の公園は子どもの権利を侵害していた
2020年、コロナ禍初期の一斉休校騒動の時からの日本を思い出してください。
公園の遊具はテープでぐるぐる巻きにされ、子どもたちや中高生が公園で遊んだり、運動しているだけで、怒鳴りつけたり、警察に通報する心ない大人まで現れました。
多くの学校は授業を止め、多くの学校の先生たちが「オンラインやYouTubeを使って授業をしたい」と言っても、オンラインで授業を受けられない子どもたちに不平等だからと、許可しなかった教育委員会までありました。
その逆に「できることからなるべくしよう」と、可能な学校からオンライン授業を導入し、そのやり方をシェアしていった自治体や学校がありました。
また様々な理由でオンラインで授業が受けられない子どもたちは、感染症対策をしながら学校の教室で学べるようにしたり、校庭で運動できるようにした自治体や学校もありました。(詳しくは著書『一斉休校 そのとき教育委員会・学校はどう動いたか』明石書店刊に記載)。
子どもの権利には「遊ぶ権利」や「意見を表明する権利」、「教育を受ける権利」もあります。そして子どもたちにとって「もっとも良いこと(最善の利益)」は何かを国や大人に考えてもらう権利もあります。
しかし、私たち大人は子どもの権利をよく知っているとは言えません。
もしも日本の大人たち、とくに総理大臣や政治家、国の官僚や地方の公務員が、子どもの権利のことをよく知っていたら、まず突然すぎる一斉休校が「子どもたちにとってもっとも良いこと(最善の利益)」であったかどうか、考えたはずではないでしょうか。
また子どもたちの声を聴かず、大人の事情で置き去りにするようなことは起きなかったかもしれません。
私たちは本当に子どものことを大切にしているのだろうか、もっと子どもや若者に丁寧に関わり、声を聴き、一緒に考え進んでいかなければならないのではないだろうか。
コロナ禍の中で、そう考える大人たちが、少しずつ増えていることも事実です。
政治家や官僚の中にも子どもの権利を大切に考える人が多くなってきました。そうした国のリーダーたちの思いと、子どもの権利をもっと大切にしてほしいという子ども・若者たちの勇気ある声が、ひとつになって子どもの権利を実現するための法律、「こども基本法」ができあがったのです。