「こども基本法」制定間近!すべての大人が知っておくべき子どもの権利とは?

教育学者・末冨芳教授「こども基本法」と「子どもの権利」#1〜子どもの権利を大切にする子育てとは?〜

教育学者・日本大学文理学部教育学科教授 :末冨 芳

子どもの権利を大切にすると周りの人も大切にできる

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子どもの権利を大切にした我が家の子育てについて、一斉休校中の出来事を少し振り返っておきましょう。

我が家には当時、小学生だった長女がいます。

2020年2月27日、テレビの記者会見で安倍総理の一斉休校宣言を見てしまった長女は、大好きな先生とクラスのお友達との進級までの残り少ない学校生活を奪われたことを知り、泣き出しました。

「こんなことはやめてほしい」。悔しくて悲しい気持ちの長女は、当時の安倍総理大臣と萩生田文部科学大臣に、一斉休校はやめてほしいと手紙を書いたのです。

「意見を表明する権利」の行使です。安倍総理からお返事はありませんでしたが、萩生田文部科学大臣の事務所からはいただいたすべてのご意見に目を通しています、というお返事をいただきました。

総理や文部科学大臣に手紙を書いたらいいよ、と提案したとき、長女は「警察につかまらない?」と聞いてきたのを覚えています。権力者に対し、手紙を書くことは、なんだかこわいなぁ、そう思う子どもの気持ちも大切なものです。

「大丈夫だよ、あなたには『子どもの権利』があるから、それは総理大臣だって守らなければならないものだから」、私はそう答えました。

当時、日本に「こども基本法」はありませんでしたが、子どもの権利条約は1994年にすでに国会で同意(批准)されています。子どもの権利は総理大臣だって大切にしなければならないものだったはずなのです。

もちろんわが国には憲法に定める思想信条の自由、言論の自由があり、それは小学生だって保育園児だって、年齢に応じて尊重されるものなのです。

感染症対策だからといって、「子どもの権利」が当たり前に奪われていいわけではありません。

我が家の子どもたちはテープでぐるぐる巻きにされた公園でも、気にせず親子やお友達同士で遊びまわっていました。

子どもたちには「遊ぶ権利」がある、我が家でもっとも大切にしてきた子どもの権利のひとつです。一斉休校期間中も、子どもが公園で遊ぶことを禁止する法律はありませんでした。

法律に決められていないのに公園の遊具をテープでぐるぐる巻きにした自治体の大人たちは、「こども基本法」ができたら、子どもには遊びも大切なこと、子どもたち自身の声を聴いて判断してくれるようになると良いなと願っています。

近所の方も子どもたちにやさしく、気晴らしに公園に遊びに来ておられたご近所のみなさんが友達になってくれたり、「うちの庭に遊びにおいでよ」、「散歩に行くから一緒にどう?」、など、ごく当たり前のように子どもたちを大切にしてくださったのです。

子どもの権利を大切にする、なんだか難しいことのように思う方もいるかもしれませんが、子ども自身をひとりの人間として大切にし、対話し、尊重する。大人と同じように基本的人権も自由もある、そのように子どもに向き合っていく、それだけのことです。

もちろん私も子どもにとって「もっとも良いこと」とは何か、迷うときもありますが、幼いなりにも子ども自身の意見を聞いて、一緒に考え決める、「意見を伝え参画する権利」をなるべく大切にしてきました。

もっとも我が家では多忙な私より、夫の方が子育ての主担当ですが、子どもの権利を大切にすることが我が家でのルールです。

同時に、子どもの権利を大切にすることは、自分自身だけでなく、お友達や学校の先生や大人たちの権利も大切にするというルールで、とても大切なことです。

子どもの権利を教えるとわがままになる、という心配をなさる方がいますが、「自分の権利」と「他者の権利」の双方を尊重することが大事、という民主主義の基本のキを大切にすることで、自分もさまざまな人々(みんな)も大切にすることができる大人に成長していってほしい、これが私の親としての願いです。

「子どもの権利」を大切に、姉妹2人の子育てをしている末冨先生。 写真提供:本人

※この記事は子どもたちの同意を得て執筆公開されています。

末冨 芳(すえとみ かおり)
日本大学文理学部教育学科教授。専門は教育行政学、教育財政学。2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画、現在、文部科学省・中央教育審議会臨時委員もつとめる。教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、子どもの権利・利益の推進、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。

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すえとみ かおり

末冨 芳

教育学者・日本大学文理学部教育学科教授

日本大学文理学部教育学科教授。京都大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(学術・神戸大学大学院)。専門は教育行政学、教育財政学。 子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。現在、文部科学省・中央教育審議会臨時委員もつとめる。 教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、子どもの権利・利益の推進、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。二児の母。 主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店)、『一斉休校 そのとき教育委員会・学校はどう動いたか』(明石書店)など。

日本大学文理学部教育学科教授。京都大学教育学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。博士(学術・神戸大学大学院)。専門は教育行政学、教育財政学。 子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴール、という理論的立場のもと、2014年より内閣府・子どもの貧困対策に有識者として参画。現在、文部科学省・中央教育審議会臨時委員もつとめる。 教育費問題を研究。家計教育費負担に依存しつづけ成熟期を通り過ぎた日本の教育政策を、子どもの権利・利益の推進、格差・貧困の改善という視点から分析し共に改善するというアクティビスト型の研究活動も展開。多様な教育機会や教育のイノベーション、学校内居場所カフェも研究対象とする。二児の母。 主著に『教育費の政治経済学』(勁草書房)、『子どもの貧困対策と教育支援』(明石書店)、『一斉休校 そのとき教育委員会・学校はどう動いたか』(明石書店)など。