「父親は不用意に娘の体に触れない」「恋人いるの?とは聞かない」 子どもを幸せにするために“親がやってはいけない“こととは?〔専門家が解説〕
ソーシャルワーカー・鴻巣麻里香さんに聞く「小中学生の恋愛バウンダリー」【4/4】~親と子のバウンダリー~
2025.01.18
精神保健福祉士・スクールソーシャルワーカー:鴻巣 麻里香
「困ってたら聞いて」と具体的&ほどよい寄り添い方で
「無関心が続くと子どもが本音を話してくれなくなり、結果、過干渉になり、関わりの振り幅が大きくなってしまいます。私もそのように揺らいでしまうことがありました。
大切なのは、ほどよく関心をもつこと。『最近、何々さんとはどうなってるの?』『仲よくしてるけど、今ちょっとケンカ中』『そうなんだ。人生の先輩として話ぐらい聞くから、聞きたいことがあったら話して』くらいのスタンスです」(鴻巣さん、以下同)
子どもが話をしてくれないときは、「話したくないんだね。でも、話したいなと思ったら、いつでも言って」くらいにとどめ、無理に聞き出そうとしないこと。気になったら、「最近どう?」と様子をうかがってみるといいでしょう。
「困りごとを抱えている子どもに『何かあったら言ってね』と漠然と言っても『何かって、何?』と口を閉ざしてしまうんです。ですから『ちょっと困ったなとか、どうしたらいいかわかんないな、っていうときは聞いて』と言っておくと、話してくれる可能性が高くなります」
いくら気になっても、子どもの許可を得ずに勝手にカバンやスマホ、子ども机の引き出しを見ないこと。どうしても見てしまったときは、きちんと謝る必要があるのです。
「基本的に、スマホとカバン、机の引き出しは踏み込んではいけない領域。勝手に見ることは子どものプライバシーを侵害し、バウンダリーを踏み越える行為です。
子どもがいないときには、子ども部屋にも入らないほうがいいですよね。中学生になったタイミングぐらいで、部屋の掃除は自分でやるという約束をして、親はなるべく踏み込まないといいでしょう」
子どもと親の理想的なバウンダリーとは?
近年、親子関係がかつてより近い傾向があるようです。とくに「友だち親子」と言われるような母子関係に、デメリットはあるのでしょうか。
「母親が、娘に対してバウンダリーを引くことが大事だと思います。子どもが何でも話してくれるのはいいのですが、逆に親が子どもに何でも話すようになってしまうと、子どもをケアラーにしてしまう可能性があるのです。
つまり、親の悩みを娘が引き受ける関係性になりかねません。子どもが親と時間を一緒に過ごし、それを楽しいと思ってくれるのはいいこと。けれども、親以外の人と過ごす時間がきちんともてているかを、しっかり意識しましょう」
異性同士の父親と娘に関しては、父親がバウンダリーをとくに意識してほしい、と鴻巣さん。具体的には、不用意に娘の身体に触(ふ)れないことが大事だそうです。
「高校生の女の子で、『お風呂上がりにお父さんにマッサージしてもらう』とか『クリームを塗ってもらってる』という子もいるんですよね。でもこの場合、父親が線を引かなければいけません。子どもにとって、一番身近にいる異性は父親。夫婦はもちろん、家庭内の異性の距離感や関係性は、そのまま異性に接する際のロールモデルになるんです。
娘にとって父親の距離がすごく近いと、『私と男の人の距離はこのくらいでいいんだ』と認識してしまう。そこに兄か弟がいたら、『僕は、女の子に対してこうしていいんだ』と思ってしまうんですよ。その行為をしてよいかどうかは相手に聞くのが正解で、『どちらかが望まないことはしない』というのが正しいバウンダリーの引き方です」
同じように、両親がケンカ中に手をあげる、片方がもう一方を支配するなど、不健康なパートナーシップを続けていると、子どもはそのままロールモデルにしてしまう可能性もあるそうです。
「夫婦の間に、安全で対等な関係ができていることが大切。一方がもう片方を搾取したり危害を加えたりするだけでなく、どちらかが我慢を強いられるような関係が家庭の中にあれば、子どもは『そういうものなんだ』と思ってしまう可能性があるんですよ。
そうすると子どもは先々、不本意ながらも交際相手の言うことを聞いてしまったり、先輩や上司に命令されたら正しくなくても従うようになってしまうかもしれません。そうなると、本人は苦しくなってしまいますよね」
子どもの健やかな成長には、常にコミュニケーションがとれる夫婦関係を作っておき、一緒に子どもに関心を持つことが大事。さらに、大人が子どもに関する不安を持ったときには、夫婦間でちゃんと話すことも大切だといいます。
「『子どもが大変なことにまき込まれているかも!』となれば、不安だし怖いですよね。そういうときに夫婦で話し合えるのが、理想のパートナーシップ。子どもがどうこうではなく、『子どもの状況を見て、不安になっちゃったんだけど』という、お互いの感情をシェアすることも大切だと思います」
子どもの恋愛は子どもにまかせるしかない!?
子どもの恋愛や友達関係、受験……、親は子どものさまざまなことで心配になりますが、過干渉にはなりたくはない。いつになれば、子どもにすべてをまかせられるのでしょうか。
「何歳であろうとも、親が支配したり干渉したりせずに、子どもにまかせるのが基本です。ただ、安心してまかせられるか、予防線を張りながらハラハラ見守るかは、子どもが困ったときに親を含めていろんな人に相談できているかで決まります。
子どもが自分一人で抱えずに、大人にヘルプを出すことができているなら、安心して眺めていてもいいかな、と思います」
どんな壁にもぶつからずに、ツラい思いもしないまま成人を迎える、という子どもはいないでしょう。親は、そのたびにハラハラしながらも、その成長を見守ることになります。
「失敗から学ぶことも多いと思うので、何か起きたときに、親が逃げずにちゃんと向き合うことが大事。恋愛は相手がいて、情緒的な部分が大きく、『ケンカしちゃった』『フラれちゃった』とか、『ひどいこと言われた』なんてことがよく起こります。
さらに性愛がからむと、妊娠や身体のダメージなどいろいろなリスクが生じてくる。親が自分の不安に対処するために、事前に『子どもにこういうトラブルが起きたら、こう行動する』とイメージして備えておくのもアリでしょう」