トイレで子どもをおどし『許してあげるからズボン下ろして』専門家に聞く小児性犯罪の実態

加害者臨床の専門家・斉藤章佳先生に聞く 小児性犯罪加害者の実態#1「小児性愛障害」

大船榎本クリニック精神保健福祉部長、精神保健福祉士、社会福祉士:斉藤 章佳

子どもへの性犯罪がもっとも起こりやすいという公共トイレ。男児にもしっかりと注意喚起していく必要がある。  写真:アフロ

旧ジャニーズ事務所(現SMILE‐UP.)の性加害問題をはじめ、大手中学受験塾「四谷大塚」の元講師による盗撮や、練馬区立中学校元校長による生徒への性的暴行など、子どもへのわいせつ事件の報道は日々、後をたちません。

子どもへの性加害はなぜ一向になくならないのでしょうか。加害者とは、どのような人たちで、なぜ、彼らは加害行為を繰り返すのでしょうか。

親の私たちは、子どもを守り犯罪をふせぐために、小児性犯罪の加害者について、知っておくことも必要なのかもしれません。

「小児性愛障害」とはどのような精神疾患なのか。被害児童の傾向、犯人の手ぐちなど、犯罪の傾向についてを、200人以上の小児性犯罪者の再犯防止プログラムに携わり、『「小児性愛」という病──それは、愛ではない』(ブックマン社)の著者で、加害者臨床の専門家・斉藤章佳先生に話を伺いました。

※1回目/全4回

斉藤章佳(さいとうあきよし)PROFILE
大船榎本クリニック精神保健福祉部長。精神保健福祉士・社会福祉士。現在まで治療に関わった性犯罪者の数は2500人以上、小児性犯罪者は200人以上に及ぶ。約20年に渡りアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・児童虐待・DV・クレプトマニアなどさまざまなアディクション(依存症)問題に携わる。『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)ほか著書多数

大船榎本クリニック精神保健福祉部長の斉藤章佳先生。

「小児性愛障害」は精神疾患の一種

斉藤章佳先生が勤務する大船榎本クリニックでは、国内で初めて、子どもへの性加害を経験した「小児性愛障害」の診断がついた対象者に特化した再犯防止プログラムを実施しています。

報道でもたびたび耳にするようになった「小児性愛障害」。これは、“病気”なのでしょうか。

「小児性愛障害は、精神疾患の一種です。国際的な診断ガイドラインであるICD‐11(国際疾病分類)と、DSM‐Ⅴ(精神疾患の分類と診断の手引)に基づいた医学的な診断名で、小児性愛(ペドフィリア)症とも言います。

例えばDSM‐Ⅴには、【少なくとも6ヵ月にわたり、思春期前の子どもまたは複数の子ども(通常13歳以下)との性行為に関する強烈な性的に興奮する空想、性的衝動、または行動が反復する】などの診断基準が明記されています。

私の勤めているクリニックに来ているのは、全員、過去に実際、加害行為に及んだ人たちですが、小児性愛障害の人たちが必ずしも加害行為をするとは限りません。児童ポルノを愛好し、児童への性交を想起して自慰行為をしながらも、加害行為を死ぬまで実行に移さない人も一定数います」(斉藤先生)。

海外のデータによると、男性は人口の約5%、女性は1~3%が該当するという小児性愛障害。加害者の男女比については、ほとんどを男性が占めており、女性は超レアケースだと斉藤先生は話します。その原因は、女性加害者の場合は被害者に男児が多く、男児の場合は被害を認識できない、またはしづらいため、表面化されづらいという傾向があるからです。

「私が関わったケースの中でも女性加害者は1名だけです。男児への性加害でした。そもそも、成人女性が13歳以下の男児を対象にした性加害は訴えが少なく、加害女性と臨床現場で出会うことはほとんどありません。

とりわけ第二次性徴期真っ最中の男児ならば、『他の同級生よりも早くエッチの経験ができた勇者』と周囲からもてはやされたり。これが性被害なのか、童貞を失う初体験なのか、状況への理解や記憶の処理がうまくできません。本人は何となくいけないことをされた感覚はあっても、それが性行為かなんなのかうまく理解できないんです。

また、周囲に打ち明けたとしても信じてもらえないか、『ラッキーじゃん』『よかったな』と言われるなど、被害として認定されないことが多いです。だからこそ被害児童としては大切な何かが奪われてしまった感覚はあるものの、なかったことにされます」(斉藤先生)

「女児よりも狙いやすいから」男児が標的に

被害児童の男女比はどうでしょうか。

「暗数(表に出ない数)が多いため正確には分かりませんが、当院の加害者で被害児童に関するヒアリングをしたところ、結果は女児7:男児3でした。ただ、臨床的な感覚として、男児はもっと多いと考えています。女児6:男児4くらいでしょうか」(斉藤先生)

斉藤先生によると、加害者にとって「加害行為のしやすさ」は重要で、本当は女児に性加害したいけれど発覚しやすいから男児を狙うパターンも多いといいます。

法務省の強姦・強制わいせつ被害者の人数を示したデータを見ると、強制わいせつの被害者数は女性の方が圧倒的多数ですが主な年齢は13歳以上。男性被害者は0~12歳に被害が集中していることが分かります。

強制わいせつについて男性の被害はいずれの年も、0~12歳が多い。  出典:法務総合研究所 研究部報告55「性犯罪に関する総合的研究」

「幼稚園や保育園では、男児同士でズボンを脱いで性器を比べたり、ふざけて触ったり、そこに名前をつけて遊んだりしていますよね。この辺りはプライベートゾーンに関する啓発が進めば改善されてくると思いますが、現状、男児は、ズボンを脱ぐ行為自体に女児ほど抵抗感が少ないことを、加害者側は分かっているんです」(斉藤先生)

公共トイレにひとりは危険!

男児はとくに「公共トイレに気をつけて」と斉藤先生は呼びかけます。

公共トイレには、子どもが小学生ごろになると異性の母親は一緒に入りたがらないし、本人がひとりで行きたがることも増えていきます。親も「ひとりでトイレへ行けるくらいまで成長した」とうれしく思いがちですが……。

「彼らはそこを狙っています」(斉藤先生)

斉藤先生によると、性犯罪が起こりやすい状況は【入りやすくて見えにくい場所】。まさに公共トイレはそれであり、狙われやすいのは一人でいる、判断がまだ危うい小学1~3年生。

用を足しているとき、いきなり写真を撮られる被害などがあり、なかでも一番多いのはスマホを使った手ぐちだといいます。

「トイレの中で、『面白いゲームがあるからやらない?』と巧みに児童の気を引きながら個室に誘導するんです。子どもがゲームを始めると、いきなりスマホの電源が切れたりして、『キミ、ボクのスマホ壊したね。お母さんに言っていい?』『学校はどこ?』と、どんどん子どもを追い詰めていく。

これも子どもを従わせる性的グルーミングの手ぐちのひとつです。『誰にも言わないから、その代わりにズボン下ろして写真撮らせて』『この写真ばらまいていい?』と。なかには性器を触ったり、口淫したり、逆にさせるケースもあります」(斉藤先生)

これらはとくに男児の親には広く知っておいてほしい事実です。「私は息子の公共トイレへ小6まで一緒に行っていました。『わざわざついてくんなよ』と嫌がられましたけどね(笑)」という斉藤先生。

異性の親の場合は、バリアフリートイレを使うなど、とにかく公共トイレでは子どもをひとりにさせないことが大切だといえるでしょう。

性犯罪者は透明人間?

斉藤先生によると、加害者が第一目標としているのは「バレずに犯行を終える」こと。逮捕されないということは、性加害者の実態は明らかにならず、「透明人間のままだ」と話します。

「被害児童、または第三者がそれを被害と認識して親に伝え、相談機関や警察につながって、つまり被害者側の告発があって初めて加害者の輪郭が明らかになります。痴漢・盗撮被害でも泣き寝入りは多く、性犯罪者は透明人間のままになりやすいんです。

また、小さい子どもが被害に遭った場合は親が事件化を望まないケースもあります。仮に性加害があったのに不起訴、または示談となった場合、加害者にとっては“負の成功体験”となる。つまり『今回もこの程度ですんだ』という学習をします。そうしてまた透明人間となり、加害行為を繰り返します」(斉藤先生)

聞けば聞くほどにおぞましい小児性犯罪。加害者は、どのような思考回路で犯罪行為に及ぶのでしょうか。次回は、問題行動のその背景についてより詳しく掘り下げていきます。

「かわいいね」「君は特別だ」などと言葉巧みに近づく性的グルーミングでは、子ども本人が性暴力だと思わず、周囲も気づきにくいため、被害はより深刻になる。加害者は何を考え、どんな手ぐちで迫るのか。子どもの異変やSOSをいかに察知するか。性犯罪者治療の専門家が、子どもを守るために大人や社会がなすべきことを提言する『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(著:斉藤章佳/幻冬舎新書)。

取材・文/稲葉美映子

※斉藤章佳先生のインタビューは全4回。(公開日までURL無効)
2回目を読む(2024.1/10公開)。
3回目を読む(2024. 1/11公開)。
4回目を読む(2024. 1/12公開)。

さいとう あきよし

斉藤 章佳

Akiyoshi Saito
大船榎本クリニック精神保健福祉部長、精神保健福祉士、社会福祉士

大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設「榎本クリニック」にソーシャルワーカーとして勤務。約20年に渡りアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・児童虐待・DV・クレプトマニアなど、さまざまなアディクション(依存症)問題に携わる。 専門は加害者臨床で、現在まで2500人以上の性犯罪者(小児性犯罪者は200人以上)の再犯防止プログラムに携わり、性犯罪加害者の家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。 著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『「小児性愛」という病─それは、愛ではない─』(ブックマン社)、『セックス依存症』(幻冬舎新書)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、新刊に『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)、『つながりを、取り戻す。』(ブックマン社)などがある。

大学卒業後、アジア最大規模といわれる依存症施設「榎本クリニック」にソーシャルワーカーとして勤務。約20年に渡りアルコール依存症を中心にギャンブル・薬物・摂食障害・性犯罪・児童虐待・DV・クレプトマニアなど、さまざまなアディクション(依存症)問題に携わる。 専門は加害者臨床で、現在まで2500人以上の性犯罪者(小児性犯罪者は200人以上)の再犯防止プログラムに携わり、性犯罪加害者の家族支援も含めた包括的な地域トリートメントに関する実践・研究・啓発活動に取り組んでいる。 著書に『男が痴漢になる理由』(イースト・プレス)、『「小児性愛」という病─それは、愛ではない─』(ブックマン社)、『セックス依存症』(幻冬舎新書)、『盗撮をやめられない男たち』(扶桑社)、新刊に『子どもへの性加害 性的グルーミングとは何か』(幻冬舎新書)、『つながりを、取り戻す。』(ブックマン社)などがある。

いなば みおこ

稲葉 美映子

ライター

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。

フリーランスの編集者・ライターとして旅、働き方、ライフスタイル、育児ものを中心に、書籍、雑誌、WEBで活動中。保育園児の5歳・1歳の息子あり。趣味は、どこでも一人旅。ポルトガルとインドが好き。息子たちとバックパックを背負って旅することが今の夢。