不登校相談〜学校に同席も! “区営“駄菓子屋の想像を超えた「おせっかい」とは

シリーズ「令和版駄菓子屋」#1‐2 「よりみち屋」東京都江戸川区 ~店の様子~

ライター:遠藤 るりこ

駄菓子屋居場所「よりみち屋」では、さまざまな資格や経験を持ったスタッフと、利用者たちの交流が生まれている。  写真:遠藤るりこ
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江戸川区(東京都)が2023年2月にオープンした駄菓子屋居場所「よりみち屋」。

ガラス張りの入り口の外には大きく「地域のみなさん どなたでもご利用いただけます。医療・介護・障がい・引きこもりのお困りごと、お気軽にご相談ください」と掲げられています。

中に入ると、陳列棚に約170種類の昔懐かしい駄菓子がずらり。靴を脱いでくつろぐスペースには、大きなソファー。テーブルと椅子の並ぶ、小さな部屋。

「午前中は引きこもり当事者や不登校のお子さんたちが過ごす、ゆったりとした時間。幼稚園や学校が終わる午後から夕方にかけては、地域の子どもたちが集まってきて、仲良しのスタッフと遊んで賑やかな時間が始まります」

そう話すのは、よりみち屋の店長・石川玲子(れいこ)さん。店長・石川さんと、サポートスタッフの久木野義和(くきの・よしかず)さんに、利用者たちとの交流エピソードを伺いました。

※2回目(#1を読む

よりみち屋店長の石川さん(右)と、ご自身も10年引きこもっていた当事者だというスタッフの久木野さん(左)。  写真:遠藤るりこ

自分では整理のつかない悩みの棚卸し作業を

「引きこもり支援を大々的にうたっているので、当事者やご家族の方からの問い合わせが多くあります。相談は予約してから来ていただいてもいいですし、スタッフや部屋が空いていたらいつでも受け付けていますよ」(よりみち屋店長・石川玲子さん)

1日の来所客数は平均40名で、そのうち、引きこもりや不登校の当事者は6名ほど。区外からの相談も多くあります。

「とっても困っているのに、どこへ相談していいのかわからない、何から手をつけたらいいのかわからないという方って、実は多くいるんです。

そんな方からていねいに話をうかがって、悩みの棚卸し作業をしながら、支援や行き先を振り分け、具体的なアドバイスをさせていただいています」(石川さん)

よりみち屋には、精神保健福祉士、元・引きこもりの当事者、社会福祉士のろう者、子育て世代、いろいろな資格や経験を持ったスタッフがいます。

そんなスタッフたちと当事者たちとの間で月2回開かれている「よりみち屋ミーティング」では、さまざまな意見が飛び交います。

「居心地を良くするために、クッションやブランケットを置いたらいいんじゃないか、スペースがあまりにオープンなのでカーテンがあったほうが落ち着く、なんて当事者ならではの意見をもらったり。

あれがあったらいい、こうなればもっと楽しいと、試行錯誤しながらみんなでこの居場所を作り上げているんです」(石川さん)

当事者たちの発案で、駄菓子屋に来る子ども相手に、プログラミング教室や手話教室、クロスステッチのワークショップなどを開くことになったのも、この話し合いからです。

「ゲームやパソコンが得意だったり、手仕事がとっても上手だったりと、みなさんそれぞれ素敵な特技を持っていらっしゃる。それを発表したり、誰かに教えてもらったりして、どんどん関係が広がっていけたらいいなと思うんです。

何よりここは自分たちの居場所だという意識でみなさんに参加していただけたらうれしいですね」(石川さん)

大きな木の下でひと休みしているようなデザインの交流スペース。大人も子どもも、思い思いの時間を過ごしている。  写真:遠藤るりこ

元・当事者ならではの寄り添い方ができる

現在、週に2回駄菓子屋に立っているサポートスタッフ久木野義和(くきの・よしかず)さんは、実は10年間引きこもり生活を送っていた、元・当事者です。摂食障害も抱えています。

「コロナで外出がままならない時期が続いていたとき、引きこもりや摂食障害が増えているというニュースを見かけました。

それで、『こんなときだからこそ、外へ出られることを僕が証明しよう!』と決意して、この会社で働くことにしたんです」(久木野さん)

というものの、「実は引きこもり生活って、そんなに悪くないものなんですよね」と久木野さんは笑います。

「ネットの世界だって楽しいことであふれているし、引きこもり期間に不自由さを感じたことはあまりありませんでした。慣れているこの生活から、現状を変えることは、怖くてしんどい面もあった。

だけど、やはりどこかでこの生活には劣等感も持っていて、いつかは仕事をしたい、社会に出たいという思いがないわけではないんです」(久木野さん)

だからこそ「自分が引きこもりや障がいを持つ方の先頭に立って、“現状維持以上”の楽しいことをしている姿勢を見せられたらいい」と久木野さんは語ります。

また、久木野さんのような当事者がいることで、「共感度が違うので、当事者同士にしかわからない寄り添い方ができている」と、石川さん。

そして、地域の子どもたちにとっても、親でも先生でもなく、不思議な関係と立場の大人たちと、対等な関わりを持てる貴重な場所になっています。

「僕、ずっと引きこもっていたから、ゲームは強いんですよ! ほかのスタッフの前ではツッパっている子でも、僕には尊敬の眼差しを向けてくれるので、おもしろいなって。

よりみち屋は、みんなが同じ目線になって楽しくいられる空間ですね」(久木野さん)

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