「100万円払ってでも引きこもりをなおしたい」悲痛な親の叫びから生まれた日本初“区営駄菓子屋”とは

シリーズ「令和版駄菓子屋」#1‐1 「よりみち屋」東京都江戸川区 ~区営駄菓子屋オープンの経緯~

ライター:遠藤 るりこ

大きな公園や河川敷などがあり、緑と自然が豊かな瑞江駅近くにオープンした区営の駄菓子屋「よりみち屋」。  写真提供:江戸川区

かつてはどこの町にもあった駄菓子屋。近年、少子化や物価高騰、建物の老朽化や後継ぎ問題などで、昔ながらの「駄菓子屋」はどんどん減少しています。

その一方で、今の時代だからこそ必要な「令和の駄菓子屋」が登場もしているのです。

2023年2月、都営新宿線瑞江駅(江戸川区)から徒歩2分のマンション1階に、駄菓子屋居場所「よりみち屋」がオープンしました。実はこの「よりみち屋」、江戸川区(東京都)が、引きこもり支援の一環として始めた、区営の駄菓子屋。

「江戸川区で駄菓子屋を作ろう!」と声を挙げたのは、区長の斉藤猛(さいとう・たけし)氏でした。その目的は、《引きこもり状態にある方が安心して過ごし、駄菓子の販売を通じた就労体験により社会とのつながりや自立を支援する》ためと言います。

引きこもり支援が、なぜ「駄菓子屋」に結びついたのでしょうか。

江戸川区福祉部生活援護第一課ひきこもり施策係の櫻井佳代子(さくらい・かよこ)さんと、運営会社である株式会社ホワイトビアード副代表の田面山由貴子(たもやま・ゆきこ)さんにお話をお伺いしました。

※1回目(全2回)

子どもの引きこもりがなおるなら50万でも100万でも安い

1982年から江戸川区役所職員として働いてきた斉藤猛(たけし)区長。福祉部長を務めていたときの区民とのやり取りが、長く心に残っていたといいます。

「区長がまだ江戸川区職員だったころ、引きこもりの子どもを抱える親御さんから『この子の引きこもりが治るなら、50万でも100万でも安いです』という声を聞いたといいます。

それを受けてから区長は、引きこもりは個人の問題ではなく、社会全体として取り組んでいくべき課題だという強い思いを持ち続けていました」(江戸川区福祉部生活援護第一課ひきこもり施策係・櫻井佳代子さん)

2019年に区長に当選後、区内の引きこもりの実態を知るために、調査を実施。令和3年度(2021年)には、約18万世帯に向けての大規模調査を行いました。

「給与による課税がされておらず、また、行政サービスを受けていない15歳以上の方がいる約18万世帯に調査をしました。社会的に誰ともつながっていない可能性が含まれる方を対象にしました。

まずは郵送でアンケートを送り、回答がない世帯へは訪問により回答の促しを行いました。その結果、区内には7919人の引きこもり当事者がいることがわかりました」(櫻井さん)

さらに、区教育委員会が把握している当時の不登校の児童・生徒を含めると、区内には9096人が引きこもり状態にあるとわかったのです。

引きこもり当事者は何を求めているのか

「実際に当事者たちはどういった支援を求めているのか。引きこもり当事者の方の年齢や引きこもっている期間、引きこもるきっかけ、今後の意向など踏み込んだていねいな調査を行い、支援の方法を考えていきました」(櫻井さん)

当事者たちの回答には「このままでいい」という“現状維持”を望むものもありました。

「その一方で、将来への不安があることもわかりました。誰しもが少なからず、健康状態や今後の生活への不安を抱えています。そして、引きこもり状態にある当事者だけでなく、その家族も同じように悩んでいます」(櫻井さん)

相談に来られる方は当事者よりも家族が圧倒的に多く、まずは、引きこもり当事者の家族をサポートする家族会を立ち上げました。また、アンケート結果から、SNS、インターネットなどを通じて人と交流していると回答していた当事者が26%いたこともあり、当事者たちが集い、つながる「オンライン居場所」という試みを開始しました。

「当事者に必要と思うものとして、友達や仲間作り、気軽に立ち寄れるサロンや居場所という声もありました」と、櫻井さん。

2022年からは、オンラインの“居場所”と、集会室などで集うリアルの“居場所”とを同時でつなげる試みをスタート。居場所作りは、徐々に浸透していきました。

「昨年(2022年)は年に6回、オンライン居場所を開催したのですが、回を重ねると『実際の会場へ行ってみたい』と、オンラインの場から出て、リアルの会場に参加してくれた方もいます。安心できる場を求め、つながりを持とうとされていることがわかりました

当事者の方たちには、自分の家以外の場所へ出ることに不安がある方もいます。このため安心して外出できる場を作るには、工夫が必要でした」(櫻井さん)

アンケート結果には「就労に向けた準備、アルバイトや働き場所の紹介」「短時間でも働ける職場」を求める声が多くありました。

そこで、居場所に集うだけでなく、何らかの形で社会に貢献していることを実感できる、就労体験が可能な、新しい《駄菓子屋居場所》という形が始まります。

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