不登校のキミへ 鴻上尚史が伝授する「嫌いな人」を好きにならなくて良い でも対立しない「コミュニケーション術」とは?

シリーズ「不登校のキミとその親へ」#8‐2 作家・演出家の鴻上尚史さん~学校の人間関係とコミュニケーション~

作家・演出家:鴻上 尚史

「シンパシー」と「エンパシー」の違い

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コミュニケーションに関して、もうひとつ覚えておいてもらいたいのが「シンパシー」と「エンパシー」の違いです。

「シンパシー」は同情したり思いやったりすること、「エンパシー」は共感したり相手の立場に立って想像したりできる能力のこと。

シンデレラが継母にイジメられてかわいそうと感じる気持ちが「シンパシー」で、継母はどうしてシンデレラをイジメるんだろうと想像する力がエンパシーです。賛同できなくてもかまいません。

もし道徳教育を続けるんだったら、被災地に折り鶴を送ることをどう考えるかという話を教科書に載せてほしいですね。折り鶴を送ろうと思った人は、きっと強い「シンパシー」を感じたのでしょう。

でも、送られた側にとってはどうか。役には立たないけど、ぞんざいに扱うわけにはいきません。捨てたりしたら大バッシングを受けるでしょう。本音を言えば迷惑でしかない。「エンパシー」とは何かを考える格好の教材になります。

これまでの日本は、少なくとも表面上は、誰もが似た価値観を持って同じように感じて生きてきました。だから道徳も相手を思いやる「シンパシー」の気持ちだけを教えればよかった。だけど、これだけ世の中が多様化して、ひとりひとりの価値観や考えに違いが出てきた今の時代は、「エンパシー」を鍛える必要性がどんどん高まっています。

自分の「シンパシー」を疑いなく押し付けていたら、あちこちで衝突が起きるでしょう。

かわいい孫にスーパーでお菓子をたくさん買ってきた祖父母が、お嫁さんに「うちの子はオーガニックの菓子しか食べさせてないんです」と言われて、「こんなに孫を愛しているのにひどい! 鬼嫁だ!」と怒っているケースなんて、まさにそれですよね。

「みんな仲良くしましょう」や「もめることはよくない」は、あなたを縛り付けている呪いの言葉です。発想を転換しましょう。人と人との関係においては「シンパシー」だけでなく「エンパシー」が大事ということも、わかってもらえたでしょうか。

コミュニケーションは何かとやっかいですが、逃げていたら余計にしんどい思いをすることになります。自分にとって大切な人と深くつながるために、人間関係に押しつぶされないでしなやかに生きていくために、自分にとって居心地のいい場所でたくさんの生身の人間と接して、トレーニングを重ねましょう。

その場所は学校でもいいし、学校ではいいトレーニングが積めそうにないと思ったら、ぜんぜん違う場所でもかまいません。


取材・文/石原壮一郎

※1=不登校傾向にある子どもの実態調査(日本財団)

現代を生きる中・高校生の「君」に向けて鴻上さんが「本当に役に立つアドバイス」を詰め込んだ『君はどう生きるか』(講談社)。大人もハッとさせられる一冊。

※鴻上尚史さんの「不登校」記事を読む(公開までリンク無効)
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こうかみ しょうじ

鴻上 尚史

Shoji Kokami
作家・演出家

1958年愛媛県生まれ。早稲田大学法学部卒業。1981年に劇団「第三舞台」を旗揚げする。以降、数多くの作・演出を手がける。紀伊國屋演劇賞団体賞、岸田國士戯曲賞、読売文学賞戯曲・シナリオ賞など受賞。 舞台公演のほか、エッセイスト、小説家、テレビ番組司会、ラジオ・パーソナリティ、俳優、映画監督など幅広く活動。また、俳優育成のためのワークショップや講義も精力的に行うほか、表現、演技、演出などに関する書籍を多数発表している。 『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる』(岩波ジュニア新書)、『親の期待に応えなくていい』(小学館Youth Books)、『君はどう生きるか』(講談社)など、子どもと若者へのメッセージが詰まった著書も多数。 ●サードステージ公式HP

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1958年愛媛県生まれ。早稲田大学法学部卒業。1981年に劇団「第三舞台」を旗揚げする。以降、数多くの作・演出を手がける。紀伊國屋演劇賞団体賞、岸田國士戯曲賞、読売文学賞戯曲・シナリオ賞など受賞。 舞台公演のほか、エッセイスト、小説家、テレビ番組司会、ラジオ・パーソナリティ、俳優、映画監督など幅広く活動。また、俳優育成のためのワークショップや講義も精力的に行うほか、表現、演技、演出などに関する書籍を多数発表している。 『「空気」を読んでも従わない~生き苦しさからラクになる』(岩波ジュニア新書)、『親の期待に応えなくていい』(小学館Youth Books)、『君はどう生きるか』(講談社)など、子どもと若者へのメッセージが詰まった著書も多数。 ●サードステージ公式HP

いしはら そういちろう

石原 壮一郎

コラムニスト

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか

コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』でデビュー。以来、数多くの著作や各種メディアでの発信を通して、大人としてのコミュニケーションのあり方や、その重要性と素晴らしさと実践的な知恵を日本に根付かせている。女児(2019年生まれ)の現役ジイジ。 おもな著書に『大人力検定』『コミュマスター養成ドリル』『大人の超ネットマナー講座』『昭和だョ!全員集合』『大人の言葉の選び方』など。故郷の名物を応援する「伊勢うどん大使」「松阪市ブランド大使」も務める。ホンネをやわらげる言い換えフレーズ652本を集めた『【超実用】好感度UPの言い方・伝え方』も大好評。 林家木久扇がバカの素晴らしさを伝える『バカのすすめ』(ダイヤモンド社)では構成を担当。2023年1月には、さまざまな角度のモヤモヤがスッとラクになる108もの提言を記した著書『無理をしない快感 「ラクにしてOK」のキーワード108』(KADOKAWA)が発売。 2023年5月発売の最新刊『失礼な一言』(新潮新書)では、日常会話からメール、LINE、SNSまで、さまざまな局面で知っておきたい言葉のレッドラインを石原壮一郎氏がレクチャー。 写真:いしはらなつか