不登校24万人! 広島県教育委員会「校内フリースクール」の最適な学びとは?

子どもの居場所 ルポルタージュ #4~前編~ 広島県の校内フリースクール

ジャーナリスト:なかの かおり

広島県教育支援センターSCHOOL“S”のプレイルーム。指定校にもそれぞれ、過ごしやすいルームがあります。  写真提供:広島県教育委員会

コロナ禍の子どもの暮らしの取材・研究を重ねるジャーナリスト・なかのかおりさんによる、子どもの居場所についてのルポルタージュ連載。第4弾となる今回は、広島県教育委員会の不登校児童生徒の支援について。

文部科学省による調査が2022年10月末に発表され、全国の小中学校で2021年度に不登校だった児童生徒は、前年度から2割以上増え、24万4940人で過去最多となりました。20万人を超えたのは初めてで、コロナ禍により生活リズムが崩れ、登校意欲がわきにくい状況だったと分析されています。

広島県教育委員会は、先進的な取り組みをしていて、不登校などの児童・生徒の支援を目的に、2019年度より県内の指定校で「スペシャルサポートルーム(SSR)」を始めました。

2022年の4月には、広島県教育支援センター「スクールS」を新設。玄関を通らずに教室へ行けたり、オシャレなソファーや配慮された机のレイアウトなど、足を運びやすい雰囲気が作られています。

さらに、オンラインでの修学旅行やクラブ活動を始め、さまざまな活動で注目を集めている広島県教育委員会。活動の具体例やなぜそのような試みが必要なのか、広島県教育委員会の不登校支援センター長・蓮浦顕達(はすうらけんたつ)さんに取材しました。

(全2回の前編)

ポップで配慮された教室

「見てください、カラフルな部屋でしょう」

蓮浦さんは、オンライン取材中にカメラの向きを変え、東広島市内の広島県教育支援センター「スクールS」を映し出しました。

ストライプのソファや、明るい印象の白い家具。活動に応じてレイアウトを自由に変えられる机と椅子など、教室とは思えない部屋作りに驚きました。窓の外は緑で、ゆったりした環境が広がっています。

広島県教育委員会は2019年度、11の指定校に、集団での学びになじみにくい子も通いやすいスペシャルサポートルーム(SSR)を作りました。

いわば「校内フリースクール」です。以前から、いくつかの学校がそれぞれルームを作って、独自に工夫はしていましたが、担当の教員が専任でなく、子どもたちが行きやすい環境を十分に整備するまでには至っていませんでした。そこでSSR担当の教員を加配し、充実させることにしたのです。

広島県教育支援センターSCHOOL“S”。入り口は外階段になっていて、玄関で人に会わなくて良い工夫がされています。  写真提供:広島県教育委員会

県からの予算なし! お金をかけずに内装に工夫を

県内の公立小中学校11校でスタートしたSSRの指定校は、2021年度は33校に増えました。さらに広島市は別途、独自の取り組みをしています。

県の予算は、最初の11校には1校あたり40万円。主にSSRの環境を整える資金になりました。それ以降は、教員の加配はありますが、県からの予算はなし。学校の予算でやりくりし、市や町の教育委員会が準備したり、地元で物品をもらったりしました。

「学校に行きにくい子どもたちの中には、学校にネガティブなイメージを持っている場合もあります。そこで、行きたくなる、リラックスできる部屋作りを工夫しました。ソファーやぬいぐるみを置いたり、畳のスペースを作ってみたり。

その際、ポイントは3つに絞りました。①学校らしく見えない②周りの視線を気にせず、入りやすい③協働での学習と、個別の学習が両立するレイアウトです」(蓮浦さん)

対面が苦手な子や、敏感な子もいます。例えば、個別に学習できる仕切り付きの机を導入しつつ、部屋の真ん中には集えるテーブルを置いています。ソファーや椅子はカラフルにして学校らしさをなくし、机にテーブルクロスを。予算をかけずに工夫しました。

多様な選択肢と個別最適な学び

なぜ、こうした環境作りに力を入れるのでしょうか。

「広島県では、全ての児童生徒の主体的な学びの実現に向け、多様な選択肢と自己決定を意識した教育活動が必要として2019年度に、『個別最適な学び担当』を新設しました。

そして、こうしたSSRの取り組みを通して、個々に応じた学びを支援しています。不登校の児童生徒も、『ここなら来られる』という環境作りを心がけています。

広島県の平川理恵教育長が、前任の横浜市で、同じようなルームを作って始めた取り組みを参考にしています」(蓮浦さん)

SSRを作ることにより、少人数で安心できる場が確保され、学校に行きやすくなります。教室のざわざわした感じが苦手な子も、配慮された部屋になら集まりやすい。

これまでは、教室がしんどくなったら、帰るしかなかったけれど、「SSRに行く」という選択肢ができたおかげで、学校に来られなかった子が、ほぼ毎日、SSRに来られるようになったケースもあります。

2020年度、県内の指定校11校のうち9校の不登校児童生徒数は、前年度以下になりました。こうした校内にあるSSRに通うと、一定の要件のもと,所属校の判断で出席扱いとすることもできます。

広島県教育支援センターSCHOOL“S”のロビー。カラフルなソファーが印象的です。  写真提供:広島県教育委員会

目指すのは学級復帰ではない

意外にも、SSRに通う子たちの通常の学級への復帰は、前提とされていません。

「SSRでは、困った時にSOSを出すといった、『相談する力』と、『自分の強み』を知るメタ認知の育成に力を入れています。社会で生きるには、その2つの力が必要なんです。これらの力をつけるために、短期と長期の目標を立てます。

単なる居場所でなく、成長できる場になることを目標にしています。ひとりひとりの状況をアセスメントして目標を立て、子どもたちと共有し取り組み、そして専任の先生が、保護者や子どもたちと話したり、担任の先生や保健室の先生と情報交換したりしながらサポートします。

また、佐賀県のNPOが作った、メンタルの判定指標があるのですが、そちらを使って児童生徒のメンタルストレスなどを測り、ツールのひとつとして先生が話をする手がかりにしています」(蓮浦さん)

広島県教育支援センターSCHOOL“S”の学習室。 写真提供:広島県教育委員会
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