「100万円払ってでも引きこもりをなおしたい」悲痛な親の叫びから生まれた日本初“区営駄菓子屋”とは

シリーズ「令和版駄菓子屋」#1‐1 「よりみち屋」東京都江戸川区 ~区営駄菓子屋オープンの経緯~

ライター:遠藤 るりこ

2023年2月のオープンに先駆けて行われた開所セレモニーで、思いを語る斉藤猛江戸川区長。  写真提供:江戸川区

居場所の入り口が駄菓子屋である理由

「駄菓子屋は子どもが自分で買えるお菓子やおもちゃがたくさんあってワクワクでき、大人は懐かしさを感じて、老若男女問わず気軽に楽しめる場です。

心があたたかくなる雰囲気で、身構えることなく来られる、そこで“駄菓子屋”というコンテンツが浮かんできたのだと思います」(櫻井さん)

そして、この駄菓子屋居場所が引きこもり支援施策の目的として掲げていたのが、「就労体験ができる」という点です。

「よりみち屋では、引きこもり当事者の方が、短時間の就労体験をすることができます。当事者の中には、就労に対する意欲を持っていても、なかなか仕事への一歩が踏み出せないという方も多くいます。

引きこもっている期間が長かった方などには、数時間のアルバイトでも大きな負担になることもあります。そこで、通いなれた居場所に、短時間から働くことができる駄菓子屋を併設しました」(櫻井さん)

よりみち屋では、1日15分から就労体験が可能です。

「区の就労体験は、引きこもり相談支援につながっている方が対象です。これまで3名の方が体験されています。1日最大3時間、週3日までの体験が可能です」(櫻井さん)

まずはこの居場所に足を運び、周囲とのコミュニケーションを楽しんでいただき、そして、駄菓子屋での就労体験を力にして、社会につながっていくことを期待しています。

就労体験で自己理解を深め 次のステップへ

江戸川区からプロポーザル(企画競争入札)で、「よりみち屋」の運営委託事業者となったのが、株式会社ホワイトビアード。江戸川区で在宅診療を行う「医療法人社団 しろひげファミリー」が母体の会社です。

ホワイトビアードの田面山さんは、「医療や福祉の知見を活かした居場所作りができたらという思いで、江戸川区からの受託をスタートしました」と話します。

「しろひげでは、訪問介護や訪問診療を長く続けてきました。在宅診療の患者約1500名のうちの1割ほどは、精神的な課題を抱えている、引きこもり状態の方。そんな方たちと触れ合ってきたホワイトビアードだからこそ、当事者たちの想いをくみ取り、寄り添ったサポートができるのでは、と感じたのです」(ホワイトビアード副代表・田面山由貴子さん)

よりみち屋に足を踏み入れたからといって、事態が劇的に変化するわけではありません。スタッフは当事者の心の機微(きび)を読み、個人個人の意欲をキャッチして、タイミングを見極めたきめ細やかなサポートをしています。

「基本は接客をベースとした駄菓子屋のお仕事ですが、日々の在庫管理、利率を考えた販売金額の決定、データ入力などの事務作業もあります。駄菓子屋という範囲でより多くの業務を体験してもらって、その中で、『接客は苦手だけど、こういう作業なら好きだな』『こんな仕事が向いているのかな』というものを見つけてもらえたら嬉しい。ここでの就労体験で自己理解を深め、就職へのモチベーションを上げていけたらと思います」(田面山さん)

駄菓子屋のお仕事は、主な接客相手が子ども、というのも大きなポイントです。

「接客で人と接するのは怖い、という方もいらっしゃいます。子どもたちと触れ合うことで、人に接することに慣れていけるのではと思います」(櫻井さん)

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