26年度から「出産費用が無償化」 保険適用なら「受け容れ中止」の病院・クリニックが続出? 〔産婦人科医が解説〕

出産費用の無償化 #1

産婦人科医:柴田 綾子

出産費用はタダになっても産む場所がなくなる!?

その背景には、地域による医療コストの違いがあります。たとえば、東京都では出産にかかる費用の平均額は約62万5000円。一方、熊本県では約38万9000円と、なんと23万円以上もの差があるのです。

厚生労働省保険局「出産費用の状況等について」P.7参照
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もし保険適用により、国が定めた全国一律の診療報酬が適用されるとなれば、高コストな地域の医療機関は赤字を抱えやすくなり、経営がさらに苦しくなる可能性があります。

今もすでに、分娩を扱う医療機関の数は全国的に減ってきています。もし新制度の内容が、医療現場の実態に合わないものであれば、さらに産院が閉鎖に追い込まれるかもしれません。結果として、「出産費用はタダになったけれど、産む場所がない……」という本末転倒な状況に陥ることも考えられるのです。

淀川キリスト教病院の産婦人科医・柴田綾子先生は、今回の制度について次のように話しています。

「出産費用の無償化は、妊産婦さんの負担を軽くするという意味で、とても意義のある一歩です。

しかし制度の設計次第で、医療現場にも大きな影響が出ます。妊産婦さん、病院、そして社会全体にとって“みんなが幸せになれる制度”をつくっていくことが何より大切だと思います」

──◆──◆──

厚生労働省の発表によると、2024年に日本で産まれた赤ちゃんの数は約68万6000人。統計をはじめた1899年以降、初めて70万人を下回りました。少子化が加速する中、「子どもを産む」という選択を支える環境づくりが急がれています。

出産費用を無償化するだけで、すぐに「子どもを産み育てやすい社会」が実現するわけではありません。でも、これは確かに大きな一歩です。

ただし、忘れてはならないのは、「出産の現場を守ること」も同時に進めなければならないということ。妊産婦さんの安心も、医療従事者の安心も、どちらもあってこそ、本当に支え合える社会がつくられていきます。

次回2回目では、産婦人科医の柴田先生に、「女性が安心して妊娠・出産できる社会」を実現するために、今必要なことは何かを伺います。

取材・文/横井かずえ

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しばた あやこ

柴田 綾子

Ayako Shibata
産婦人科医

世界遺産15カ国ほど旅行した経験から母子保健に関心を持ち産婦人科医となる。2011年群馬大学を卒業後に沖縄で初期研修し2013年より現職。 女性の健康に関する情報発信やセミナーを中心に活動中。1児の母。 主な共著『患者さんの悩みにズバリ回答! 女性診療エッセンス100』(共著/日本医事新報社)、『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社)など。

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世界遺産15カ国ほど旅行した経験から母子保健に関心を持ち産婦人科医となる。2011年群馬大学を卒業後に沖縄で初期研修し2013年より現職。 女性の健康に関する情報発信やセミナーを中心に活動中。1児の母。 主な共著『患者さんの悩みにズバリ回答! 女性診療エッセンス100』(共著/日本医事新報社)、『女性の救急外来 ただいま診断中!』(中外医学社)など。

よこい かずえ

横井 かずえ

Kazue Yokoi
医療ライター

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2

医薬専門新聞『薬事日報社』で記者として13年間、医療現場や厚生労働省、日本医師会などを取材して歩く。2013年に独立。 現在は、フリーランスの医療ライターとして医師・看護師向け雑誌やウェブサイトから、一般向け健康記事まで、幅広く執筆。取材してきた医師、看護師、薬剤師は500人以上に上る。 共著:『在宅死のすすめ方 完全版 終末期医療の専門家22人に聞いてわかった痛くない、後悔しない最期』(世界文化社) URL:  https://iryowriter.com/ Twitter:@yokoik2