斉藤洋先生がおすすめする3冊
『クヌギ林のザワザワ荘』(富安陽子 作、安永麻紀 絵)
斉藤:一言で言うと、「これぞ児童文学」という完成形。児童文学に必要な要素が全部入っている。そして何よりも、物語の中に「自分の恨みごと」が一切ないのがいい。
児童文学には、作家の育ちの不幸や恨み言がどこかににじみ出てしまうものだと僕は思っているんだけど、これにはそれがない。読むと、書いた人間の育ちの良さや朗らかな性格が伝わってくるようだね。妖怪やファンタジーの要素、職人の描写なども入っていて、良い気持ちで読める安心の一冊です。
『青空トランペット』(吉野万理子 著、宮尾和孝 絵)
斉藤:これはある事情があってたまたま読んだ本なんだけど、素直に面白かった! 僕は野球が好きだから、それも少し影響しているかもしれない。
僕は本来、「他人の応援をするなんて馬鹿らしい、自分自身を応援しろよ」と思うタイプなんだけど、この本は「応援する側の充実感」がとても爽やかに描かれている。少し目が悪い女の子と、そのお兄ちゃんが出てくる優しいお話で、もっともっとたくさんの人に読まれてほしい、素晴らしい本だと思います。
『桂の春 見あげればロフトの窓に』(斉藤洋 作、いとうあつき 絵)
斉藤:これは僕自身の本だけど、この作品で言いたかったのは「世界は見えたままの姿ではない」ということ。僕自身はお化けや幽霊を信じているわけではないけれど、少なくとも世界は見えているものが全てではない。
『ルドルフシリーズ』もそうですが、普通の生活の中にいろんな不思議なことが起こる……僕はそういうことを書きたいと思っているんです。
この本には、死んでしまったお母さんをあの世で探す男の子が出てくるけれど、そこには僕自身の問題意識も関係しているかもしれない。
昔の映画で『菊次郎の夏』や『ALWAYS 三丁目の夕日』を観たとき、「生き別れた親に会いに行く子ども」というテーマが心に残っていて。
僕は昔、「母親はどんなに悪くても、本能的に絶対に子どもを捨てない」という信念を持っていたんだけど、現実を観察しているとそうとは言えない場合もあるんだと気がついてきた。
斉藤:母親だってひとりの人間だし、嫌いになった夫にそっくりな子どもをどうしても愛せない、そばにいるのが苦しい、ということだってあるんだよね。
だけど、子どもはお母さんに会いたいから、「お母さんも自分に会いたいはずだ」と勝手に思い込んで会いに行っちゃう。だから、余計に傷つく。バカだよね。でも、そういうことが書きたかったわけ。
この本に出てくる男の子も、「お母さんに会いたい」という気持ちをずっと抱えてる。とても賢くて自立している子なんだけど、この気持ちだけは処理できていない。
逆に言えば、この問題があまりにも大きいから、他のことなんて簡単なんだろうね。それでもこの難関を通過しないと、彼は大人になれないの。
実は、僕の作品の最初の20年間くらいは、物語に「お母さん」がほとんど出てこないんです。お父さんやおじさんは大きく関わってくるのに。
それは僕自身が、母親という存在(女性)を書くのが嫌だったからじゃないかと思う。そこに僕自身の大きな問題があったんだと、40歳を過ぎてから気がついた。
本当は20代で気づきたかったね。だから考えてみるとかわいそうなのよ、斉藤洋は(笑)。




































