型破り校長が子どもに「対話からの合意」を訓練! 「多数決」が与える悪影響とは?

学校改革の旗手・工藤勇一先生「今こそ子どもたちに本当の民主主義教育を」 #1~民主主義教育の意義と多数決の問題点~

横浜創英中学・高等学校長:工藤 勇一

新刊を片手に力強く語ってくれた工藤勇一先生。  Zoom取材にて

少数派を切り捨てる「多数決」は大問題!

学校で民主主義教育をするにあたって、工藤先生は「多数決は大問題」と主張します。多数決は議会でも採用されていますし、日本の学校では当たり前のように取り入れられている方法です。

一見、民主的な決め方のようにも思えますが、「少数派を容赦なく置き去りにする」と工藤先生は問題点を指摘します。

多数決に頼りすぎると「言っても無駄」「多数派に流れればいい」と、自分の意見を大切にできないことにつながります。なんでもかんでも多数決で育ってきた日本の子どもたちは、SDGsが目指す「誰一人置き去りにしない社会」を作れなくなっていると工藤先生は危惧します。

「例えば校庭に何かの遊具を取り入れることになったとします。100人中99人がアスレチックを作りたいと言った。でも身体的な事情でアスレチックでは遊べない子どもが1人いた。

おそらくヨーロッパなら、みんながOKなものを探さないかという話し合いが行われるでしょう。誰一人置き去りにしないためです。

でも日本はこういう場合、ほとんどが多数決です。多数決ではSDGsの目指す『誰一人置き去りにしない社会』が作れないんです。多数決に頼りすぎると、ポピュリズム(大衆迎合)になっていく。

だから民主主義国家として成熟していくためには、対話をして上位目標で合意する訓練を子どものうちからしなきゃいけないんです」(工藤先生)

多数決をしていいかどうかは訓練しないと判断できない

多数決は使っていい場合とダメな場合があり、使っていいのは利害関係が対立しない場合のみ。その判断ができるようになるためには「訓練が必要」と工藤先生は言います。

「例えば何か物事を決めるとき、アイデアが3つ出て、対話の機会が与えられないで『多数決をとります』となったとします。多数決をとったら15:12:8になったとします。そうすると『15人の案になりました』と学校では平気で言うわけです。

でも多数決をとっていいときというのは、どの案が採用されても誰一人置き去りにならない場合だけです。例えばクラスで文化祭の出し物を決めましょうとなったとします。お化け屋敷? 縁日みたいなゲーム? となったとき、誰にとっても無理のない、誰も困らない選択肢なら多数決でもいいんです。

ただ、舞台で何かやりましょうとなったとき、合唱? 演劇? ダンス? となると困る人が出てきます。合唱はすごく音痴な子は困りますし、演劇は人前に立つのがつらい子もいますし、ダンスは障害のある子や運動が苦手な子にとっては困ります。

こういった利害の対立が起こる場合は、強制的に多数決で決めてはいけません。話し合って、誰一人置き去りにしない結論を導く必要があります。演劇で表に出たくないなら裏方という仕事もありますね。

物事を多数決で決めていいかどうかの判断に迷うのは、訓練されていないからです」(工藤先生)

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多数決に頼りすぎる経験は、自分の意見を大切にできないことにつながります。そうならないために意識したいのが、「話し合って納得する」という日々の習慣です。次回は、子ども同士のトラブルから学ぶ民主主義について工藤先生に伺います。


取材・文/大楽眞衣子

2022年10月に『子どもたちに民主主義を教えよう 対立から合意を導く力を育む』(苫野一徳氏との共著/あさま社)を上梓。哲学者・教育学者の苫野一徳氏との共著で教育の本質を徹底議論。発売後即重版に。

取材・文/大楽眞衣子

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くどう ゆういち

工藤 勇一

横浜創英中学・高等学校長

1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年から2020年3月まで千代田区立麴町中学校校長。宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止などの教育改革を実行。一連の改革には文部科学省が視察に訪れ、メディアがこぞって取り上げるなど話題になる。 初の著書『学校の「当たり前」をやめた。生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(時事通信社)は10万部超えのベストセラーに。著書に『麴町中学校の型破り校長 非常識な教え』、『最新の脳研究でわかった! 自律する子の育て方』(以上SBクリエイティブ)、『学校ってなんだ! 日本の教育はなぜ息苦しいのか』(鴻上尚史氏との共著/講談社現代新書)など。2022年10月には哲学者・教育学者の苫野一徳氏との共著で『子どもたちに民主主義を教えよう 対立から合意を導く力を育む』を上梓。

1960年山形県鶴岡市生まれ。東京理科大学理学部応用数学科卒。山形県公立中学校教員、東京都公立中学校教員、東京都教育委員会、目黒区教育委員会、新宿区教育委員会教育指導課長などを経て、2014年から2020年3月まで千代田区立麴町中学校校長。宿題廃止・定期テスト廃止・固定担任制廃止などの教育改革を実行。一連の改革には文部科学省が視察に訪れ、メディアがこぞって取り上げるなど話題になる。 初の著書『学校の「当たり前」をやめた。生徒も教師も変わる! 公立名門中学校長の改革』(時事通信社)は10万部超えのベストセラーに。著書に『麴町中学校の型破り校長 非常識な教え』、『最新の脳研究でわかった! 自律する子の育て方』(以上SBクリエイティブ)、『学校ってなんだ! 日本の教育はなぜ息苦しいのか』(鴻上尚史氏との共著/講談社現代新書)など。2022年10月には哲学者・教育学者の苫野一徳氏との共著で『子どもたちに民主主義を教えよう 対立から合意を導く力を育む』を上梓。

だいらく まいこ

大楽 眞衣子

社会派子育てライター

社会派子育てライター。全国紙記者を経てフリーに。3人の育児で培った生活者目線を活かし、現在は雑誌やWEBで子育てや女性の生き方に関わる社会派記事を執筆している。大学で児童学を専攻中で、保育士資格を取得。2歳差3兄弟の母。昆虫好き。イラストは三男による「ママ」 ●公式HP「my luck」

社会派子育てライター。全国紙記者を経てフリーに。3人の育児で培った生活者目線を活かし、現在は雑誌やWEBで子育てや女性の生き方に関わる社会派記事を執筆している。大学で児童学を専攻中で、保育士資格を取得。2歳差3兄弟の母。昆虫好き。イラストは三男による「ママ」 ●公式HP「my luck」