登山家・田部井淳子の子育て 親に無断で高校中退した息子を立ち直らせた「第三の大人」のスゴさ

世界的登山家・田部井淳子の子育て【2/3】~高校中退の先~

フリーライター:浜田 奈美

望んだ自由も楽しいのは2日だけ

「田部井淳子さんの子どもなんだから、しっかりしなさい」

そんな周囲の勝手な決めつけや好奇の視線から、逃れるように都内の高校に通っていたはずの長男・進也(しんや)さんでしたが、あるとき突然、親に黙って高校を辞めてしまいました。

何の前触れもなく、家族に相談もなく、本当に突然のことでした。夫の政伸さんは、こう振り返ります。

「さすがに僕もかみさん(注:淳子さん)もびっくりしましたね。前触れも相談もなく、勝手に辞めてきちゃうもんだから。『辞めてきたって、お前、これからどうするんだ!』と、2人であわててしまいました」

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上:16歳ごろの「やんちゃ」時代の田部井進也さん(写真上)。2000年6月にフランスのシャモニーで開催された「アンナプルナ初登頂50周年記念式典」に招待された田部井淳子さん(写真下、中央)  ©一般社団法人田部井淳子基金

このころの進也さんは、スキーの技術がどんどん上達していたため、夢中になれることが見つかったこともあり、「まあいっか」と、高校退学を決めてきたそうです。実際、自主退学した年の冬は、スキーの指導者と共にアメリカで競技スキーの大会を転戦して過ごしました。

しかし、ことはうまく運びません。
スキーシーズン以外はすることがなく、遊びたくとも友人たちは学校に行っています。すると進也さんは、そもそも学校に行かずに街で遊んでいた同世代と遊び始めました。退学前よりも「夜型」になり、深夜に帰宅することが増えてきたころ、ある「光景」が、進也さんの心に刺さりました。

「夜通し遊んで朝になって、帰る途中で、ランドセルしょって楽しそうに登校してる子どもたちと出会ったんです。はっとしたというか、『おれもああいうころがあったのかな』とちょっと考えて。

『あの子たちにはこの先まっとうに生きてってほしいな』とか『おれの人生、どこでどう道がずれたのかな』とか、いろいろ考えちゃってる自分がいましたね」

望んで手に入れた自由でしたが、実は本当に自由を楽しめたのは「最初の2日ぐらいだった」そうです。「3日目ぐらいからは現実に気づくというか、我に返るというか」。

そして就職先を探そうにも、高校を中退したため最終学歴は「中卒」でした。17歳の中卒の自分に、あまり選択肢がないことに気づき、「この先どうするかな」と悩み始めた進也さんに、アイデアをくれた「第三の大人」がいました。

進也さんを激変させた「信頼できる大人」とは?

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