
登山家・田部井淳子の子育て 親に無断で高校中退した息子を立ち直らせた「第三の大人」のスゴさ
世界的登山家・田部井淳子の子育て【2/3】~高校中退の先~
2025.06.17
フリーライター:浜田 奈美
心を許せた子どもを尊重する大人の存在
田部井家がスキーや登山で何度も投宿していた福島県南会津町のペンションオーナー、平野均(ひらの・ひとし)さん(故人)でした。
スキーに打ち込める冬以外の季節は何もやることがなく、心が落ち着かないこと。これからの人生のために、何とかして「高校卒業」の資格だけは手に入れておきたいこと。
そんな思いを問わず語りで伝えた進也さんに、平野さんはきっぱり言いました。
「じゃあお前、うちに泊まって、こっちの高校に通えばいいじゃん」
進也さんはかねて家族ぐるみの交流を続ける中で、平野さんが自分を「田部井淳子の息子」としてではなく、田部井進也という一人の人間として接してくれていることに、絶大な信頼を寄せていたそうです。
そして両親もまた、平野さんの力を借りて自分の人生を前に進めようとしている進也さんの選択を、最大限に尊重してくれました。政伸さんはこう語ります。
「均さんは誰に対してもとてもよく話を聞いてくれる人でしたし、家族のような存在でした。ぼくたち親以外の大人のもとで生活して新しい挑戦をすることは、今の進也にとってすごくいいことなんじゃないかと、かみさんも喜んでましたよ」

川越の自宅を出て平野さん宅に向かう進也さんの変化や成長を楽しみに、送り出したそうです。
19歳から進也さんは親元を離れ、平野さんの家に居候して地方の高校に通い出したものの、通い始めは何かと馴染めず、さっそく登校3日目で平野さんが学校から「呼び出し」をくらいました。
親代わりの平野さんに、教師は「進也君が校内でタバコを吸っていました」と説明し、停学を通告しました。
しかし平野さんは謝罪どころか動じる気配も見せず、逆に教師にこう質問したそうです。
「話はよく分かった。でもな先生、なぜ進也がタバコを吸っちゃいけないんだろうね。コイツが納得するように、説明してみてくれませんか。じゃないとコイツはまた吸いますよ」