しつけ・指導「叱らず」やる方法 臨床心理士に聞く

𠮟る行為を正当化する「正義感」とは 村中直人さんインタビュー #2

ライター:山口 真央

「相手のために叱っている」…それは子どもにとって本当に必要なこと? 思いこみの「正義感」を見直すことも、叱る行為を手放すコツだ(写真:アフロ)

いつの間にか持っていた「よくわからない正義」を手放すこと

──子どもを「𠮟る」ことをやめるために、まずできることを教えてください。

村中:親は一体「子どもに何を求めているのか」に向き合うことが、究極的に「𠮟る」を手放していくうえで大事なことです。

親御さんそれぞれに、宿題や片付けなど、お子さんができていないことを見た瞬間に、𠮟りたくなるポイントがあるはずです。

私も小学生の息子がいるのでわかりますが、「あなたがそれをしなくちゃいけないから、あなたのことを𠮟っているのよ」と、思いますよね。私はそれを「どこから来たかよくわからない正義」って、呼んでいます。

よくわからないところからきた、自分のなかで育ってしまった正義を脇においたら、別に𠮟らなくてもいいのかもしれない、と思えることも多いです。

たとえば、「宿題をやる・やらない」で𠮟りたくなったとしたら「本当に今、このタイミングで宿題を終わらせないと、この子にとってだめなのか」や、「この年齢の子が、そこまで完璧にできることを求めるのは妥当なのか」などを、を突き詰めて考えてみてください。

意外と、出所のわからない思い込みに、縛られていることに気づくのではないでしょうか。そのことに気づけただけでも、お子さんとの接し方は大きく変わっていくはずです。

変化する社会で生き残る人を育てるために

──未来を生き延びるために、どういう「大人」を育てたらいいと思いますか。

村中:社会が昔より、格段に複雑化していると思うのです。以前なら、職場では大人数の部署に配属されるから、協調性がもっとも大切なように言われてきましたし、今もそれに基づいた教育がされています。

でも2023年現在、そういう環境で働いている人がどれだけいるのかと考えると、新型コロナウイルスの影響もあり、少なくなっているんじゃないかと。私もほとんど家で働いていますし、多数との日常的なコミュニケーションの潤滑性が、相対的に求められなくなっていると思うのです。

こんなに社会がめまぐるしく変化していくと、未来を生きていく子にとって役に立つことは何か、と考えたときに、誰も自信をもって「これが必要だ!」と断言するのは難しい。

だから、今このタイミングで親の価値観を押しつけて、あれこれできなくちゃいけないというのを、少なくとも𠮟りつけてまでやらせる必要は、僕はないと思います。

それよりは、お子さんを𠮟ることをやめ、自分で考えられる力を育ててあげたほうが、どんな未来が訪れてもお子さんが生き抜いていけるはず。お子さんの幸せを突き詰めて考えれば、どういう育て方をしたらいいのか、おのずとこたえは出てきます。

【村中直人さんへのインタビューは全3回。1回目では、叱ることのメカニズムと叱り続けるリスクについて、2回目では、しつけ躾や指導を「叱らず」にする方法、3回目では、〈𠮟る依存〉から抜け出す具体的な実践方法を解説します】

叱らずにいられないのにはわけがある。「叱る」には依存性があり、エスカレートしていく――その理由は、脳の「報酬系回路」にあった!  児童虐待、体罰、DV、パワハラ、理不尽な校則、加熱するバッシング報道……。人は「叱りたい」欲求とどう向き合えばいいのか?
●きつく叱られた経験がないと打たれ弱くなる
●理不尽を我慢することで忍耐強くなる
●苦しまないと、人は成長しない……そう思っている人は要注意。
「叱る」には効果がないってホント?
子ども、生徒、部下など、誰かを育てる立場にいる人は必読! つい叱っては反省し、でもまた叱ってしまうと悩む、あなたへの処方箋。

18 件
むらなか なおと

村中 直人

Naoto Muranaka
臨床心理士

1977年生まれ。臨床心理士・公認心理師。一般社団法人子ども・青少年育成支援協会代表理事。Neurodiversity at Work株式会社代表取締役。人の神経学的な多様性に着目し、脳・神経由来の異文化相互理解の促進、および働き方、学びかたの多様性が尊重される社会の実現を目指して活動。2008年から多様なニーズのある子どもたちが学び方を学ぶための学習支援事業「あすはな先生」の立ち上げと運営に携わり、現在は「発達障害サポーター'sスクール」での支援者育成にも力を入れている。著書に『ニューロダイバーシティの教科書――多様性尊重社会へのキーワード』(金子書房)、『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊国屋書店)がある。

1977年生まれ。臨床心理士・公認心理師。一般社団法人子ども・青少年育成支援協会代表理事。Neurodiversity at Work株式会社代表取締役。人の神経学的な多様性に着目し、脳・神経由来の異文化相互理解の促進、および働き方、学びかたの多様性が尊重される社会の実現を目指して活動。2008年から多様なニーズのある子どもたちが学び方を学ぶための学習支援事業「あすはな先生」の立ち上げと運営に携わり、現在は「発達障害サポーター'sスクール」での支援者育成にも力を入れている。著書に『ニューロダイバーシティの教科書――多様性尊重社会へのキーワード』(金子書房)、『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊国屋書店)がある。

やまぐち まお

山口 真央

編集者・ライター

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。

幼児雑誌「げんき」「NHKのおかあさんといっしょ」「おともだち」「たのしい幼稚園」「テレビマガジン」の編集者兼ライター。2018年生まれの男子を育てる母。趣味はドラマとお笑いを観ること。