VEXは「子どもの教育の理想形」と校長も後押し 八王子市立宮上小学校のクラブ活動に密着取材

注目のアメリカ発STEM教材「VEXロボティクス」 #4 八王子市『みやかみVEXクラブ』インタビュー

すべて子どもたちが考え、大人は答えを出さない 

活動時間内はクラブに所属する子どもの保護者が1名、“見守り役”として同席しますが、大人の役目はあくまでも立ち合いのみ。ロボットに関することは子どもたち自身で考え、解決するというVEXのスタイルを守っています。

保護者の一人、竹重智子さんは、
「何か聞かれれば一緒に考えることはありますが、大人は答えを出さないというのが基本。ですから、子どもたちは自分たちでやりたいようにやっています。

2チームでやっているので、チーム同士で気づきが生まれることも多いようです。そういう意味でも、クラブという形でやるのはいいのかなと感じます」
といいます。

子どもたちの楽しそうな声が響く活動中の教室。活気に満ちています。

学校側もクラブ活動に協力

クラブの運営については、学校との連携も大きなポイントになっています。まずは活動場所の確保でした。

「VEXを利用するにあたっては、やはりスペースがいちばんの問題かなと思います。『みやかみVEXクラブ』は、学校側のご協力もあり、お借りしている教室にキットやフィールドをずっと置いておけるのがありがたいですね。

子どもたちは教室に来てすぐに活動を始められますし、片付けもすぐ終えられるので、活動時間を目一杯使うことができています」(竹重さん)

フィールドやキットは保管に場所をとるため、常にスペースを確保できる環境は理想的です。

活動に使用するキットやフィールドに関しては、1・2回目にも登場した市川晋也さんのVEX販売代理店『サンエイロボティクス』の“サブスク方式”を利用することで、運営が可能になりました。

「そしてガレージチームは、保護者(大人)のサポートも欠かせません。普段の活動の立ち合いだけでなく、試合参加となれば子ども主体とはいえ、引率やボランティアも必要です。

こういったことは、私たち保護者も実際に活動が始まってからわかったので、『みやかみVEXクラブ』も立ち上げからここまで、いろいろ試行錯誤しながら進んできました」(竹重さん)

「うまくいった」と「うまくいかなかった」を積み重ね、次のステップへと繫げます。

子どもが自分で考える力が身についた

またクラブ活動に立ち会っている保護者からはこんな声が。

「子どもが好きなことに出会えたというのが、何よりよかったと思っています。VEXを通じて、うまくいかなかったときに、子どもがそれを失敗とはとらえず、『またやり直せばいいんだ』と思えるようになったように感じますし、子どもを通して私もそう考えられるようになったのはいい変化かなと思います」(青井麻衣子さん)

「VEXを始める前は、息子はわりと大人に聞いてから動くことが多かったのですが、VEXは“自分たちでやる”ことを求められるので、自分で考える習慣がずいぶん身についてきたのかなと思います。

コンペティションも、単にロボットを作って点を取ればいいというものではなく、プレゼン力やチームワーク力など、これから先、生きていくうえで必要なものが詰まったものが求められる内容ばかり。それがVEXを通して、自然と身につくというのはいいなと思っています。VEXのよさがわかるからこそ、クラブ活動のサポートもできるというところが大きいですね」(竹重さん)

また、コンペティションでは英語が飛び交いますが、英語の対策についてもお聞きました。

「クラブ内には、英語ですらすら話せる子はいませんが、VEXにはさまざまな“VEX用語”があります。それを繫ぐだけでも、ある程度のコミュニケーションをとることはできます。国際大会に参加した際、子どもたちは身振り手振りで作戦を伝え合っていて『たくましいな』と思いました。親としては、将来的には英語も覚えてくれれば……とも思いますが(笑)、海外の人とも臆せずコミュニケーションを取れるというのが何より大事かなと思っています」(竹重さん)

「国際大会への参加を通じ、『英語をうまく話すことができなくても、コミュニケーションを取れる』ということは分かって帰ってきたようです。それは貴重な経験だったと思います」(青井さん)

VEXは子どもの教育の理想形

『みやかみVEXクラブ』に空き教室を無償提供している宮上小学校の伊藤校長にもお話をお聞きしました。

八王子市立宮上小学校の伊藤慎敬校長。在校生がVEXの国際大会に出場すると知り、大きな驚きと興味をもったそう。

「VEXは素晴らしい教材ですが、習い事としてやろうとするとどうしてもお金がかかります。

ちょうど使っていない教室があり、今回、三英さんのご協力をいただいてサブスクという形で教材をお借りして、公立学校でガレージチームを立ち上げることができたのは非常に幸運でした。

2023年には、八王子市南大沢地域から合計3チームが、VEXの世界大会に出場しました。

特に講師がいるわけでもない環境で、子どもたちがほとんど自分たちの力で道を切り拓いているのはすごいなと感心しています。子どもは好きなことなら自分でどんどん学んでいきますから、大人は手出し口出しをせず、静かに見守るのがいちばんいいと実感しています。VEXは、子どもの教育の在り方の理想形だと思いますね」(伊藤校長)

最後に、住友さんに今後のクラブ活動について語っていただきました。

「世界大会に出場したチーム『Beast Hunter』は、世界大会のディヴィジョンファイナルに出場し、第4位という成績を残しました。

『みやかみVEXクラブ』の面々にとっては、彼らの先輩が世界大会で活躍する姿を間近で見て応援できたことが大きな刺激になったようで、『来年もまた、ここに来たい!』と大興奮でした。このようにVEXの輪が先輩から後輩へと繫がり、『みやかみVEXクラブ』がさらに育っていけばと願っています」(住友さん)

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ただロボットを動かすだけでなく、プレゼン力やチームワーク、コミュニケーション力が必要になるVEXは、チーム活動することで子どもが大きく成長することがわかりました。

未就学児から大学生まで主に4つのカテゴリで活動ができるVEX。これからさらに人気が高まるであろうVEXの活動に、今後も注目していきたいと思います。

取材・文/木下千寿
撮影/日下部真紀

VEXの連載は全4回。
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きのした ちず

木下 千寿

ライター

福岡県出身。大学卒業後、情報誌の編集アシスタントを経てフリーとなる。各種インタビューを中心に、ドラマや映画、舞台などのエンターテイメント、ライフスタイルをテーマに広く執筆。趣味は舞台鑑賞。

福岡県出身。大学卒業後、情報誌の編集アシスタントを経てフリーとなる。各種インタビューを中心に、ドラマや映画、舞台などのエンターテイメント、ライフスタイルをテーマに広く執筆。趣味は舞台鑑賞。