人種、職業、体型、障がい……。子どもがおもちゃから感じ取ったり、おもちゃによって意識したりするのは、性別だけではありません。
世界の多様性を意識したおもちゃを、「ダイバーシティトイズ」と呼びます。まだまだ日本では馴染みが薄い言葉ですが、これからのおもちゃを考えるうえでは、この《多様性=ダイバーシティ》が重要なキーワードとなってきます。
偏見や格差のない社会を実現するために、各おもちゃメーカーが今おこなっている取り組みを伺いました。
全3回の3回目。#1、#2を読む
車椅子や義足のバービーが発売
前回の記事(#2)でも登場したバービーは、ダイバーシティを表現する存在でもあります。2016年には「ファッショニスタライン」のバービーとして、長身・小柄・ふくよか、さまざまな体型のドールが登場しました。
バービー誕生60周年となった2019年には、車椅子にのったバービーが登場。また、義足のバービーも仲間入りしています。いずれも日本では未発売(2022年3月現在)ですが、世界中から大きな話題を集めました。
「車椅子のバービーや義足のバービーは、専門家協力のもとで製作されました。付属のスロープをドールハウスなどと組み合わせることで、バリアフリーのごっこ遊びが楽しめます。
子どもたちはバービーとともに遊ぶことで、世界の多様性に気づき、それを自然と受け入れるようになっていってほしい。バービーは子どもたちの憧れの存在でもありながら、今までも、そしてこれからも、一人一人が持つ可能性を一緒に支えていく等身大のドールでもあるのです」(マテル・インターナショナル株式会社〈以下マテル社〉 マーケティング・今泉秀一さん)
世界中の子どもが親しみをもてるキャラクターに
子どものジェンダーについて、世界的なオンライン調査を実施したレゴ社。レゴジャパン株式会社(以下レゴジャパン)は、ジェンダーバイアスを取り払う製品作りを明言しています。
特に、2012年に発売し、2022年で10周年を迎える「レゴⓇフレンズ」シリーズは、キャラクター展開や色使い、デザインなどに多様性を表しています。
「科学に情熱を持つオリビア、動物や自然が大好きなミア、ダンスが上手なアンドレア、クリエイティブなエマ、スポーツならおまかせのステファニー。
5人のレゴ フレンズ は、世界中の子どもたちが、情熱や興味、あるいは髪の色や服装などから親しみを持てるキャラクターです」(レゴジャパン・橋本優一さん)
また、子どもが夢中になるギミック(仕掛け)も、時代に沿って変化しています。レゴ フレンズの舞台には、車椅子などの小物も登場。小さなレゴⓇブロックが、さまざまな仕掛けをもって、子どもたちにダイバーシティの世界を伝えます。
時代とともに多様化する社会を体現
世界のおもちゃをセレクト販売する︎株式会社ボーネルンド(以下ボーネルンド社)の西山千夏さんは、「子どもたちは遊びながら世界を知り、学んでいくもの」と話します。
遊びのなかで多様性社会を身近に感じられるのがボーネルンド社で扱う「バランスゲーム ユニークな10人(バヨ社)」です。
「この『バランスゲーム ユニークな10人』は、10種類のいろいろな人が、絶妙なバランスで支え合うゲームです。眼鏡をかけた人、手や足が1本ない肢体不自由な人……。大人も子どもも、髪や目の色が違っても、お互いに協力して支え合っているのです。
また、半円型のぐらぐらする土台は、変化していく社会情勢や地球環境を表現したもの。『それぞれが助け合わないとバランスが崩れてしまうよ』というメッセージが込めています」(ボーネルンド社・西山さん)
みんな違うけれど、それぞれが大切な存在であることを、ダイバーシティトイズは教えてくれるのです。
大人も一緒に考える機会作りを
おもちゃメーカーが試みているのは、子どもたちへのアプローチだけではありません。わたしたち大人が、多様性を考える機会を持つための取り組みも行われています。
2020年、アメリカ発祥の老舗おもちゃブランド・フィッシャープライス(マテル社)と、日本のサンリオベビーがコラボレーションを発表。
全世界に先駆けて日本市場で発表するということで、タレント・りゅうちぇるさんを起用して大々的に実施されたキャンペーン『#おもちゃに性別いるのかな』が、話題となりました。
「一児の父親であり、タレントとして活躍中のりゅうちぇるさんとコラボして、インスタライブを企画しました。
りゅうちぇるさんが幼少期に『かわいいおもちゃで遊びたいけど、周りの目を気にして自分の気持ちを閉じ込めていた』という体験をもとに、性別とおもちゃ選びについて改めて考える配信をおこなったのです」(マテル社・今泉さん)
企業側からの一方的な発信ではなく、テーマを投げかけて「対話」という形にしたかったと、今泉さんは話します。
「おもちゃについてみなさんで考えるきっかけ作りができればと思いました。私たちおもちゃメーカーは、おもちゃの開発や販売だけでなく、親御さんに向けての発信も大事なことだと考えています」(マテル社・今泉さん)