バービーやシルバニアファミリーが「性別の役割から解放」されたワケ

おもちゃ業界が育む「ジェンダーフリー」と「ダイバーシティ」#2

ライター:遠藤 るりこ

2019年に米国で発売された世界初のジェンダーフリーシリーズ「クリエイタブル・ワールド」。トランスジェンダー(身体的特徴上の性別と、本人の性自認が一致しない)、ノンバイナリー(自身のジェンダーを男性とも女性とも限定していない人)、ジェンダー・フリュイド(1つのジェンダーに縛られない流動的な人)を自認する子どもたちの意見も反映して作られた。 写真提供:マテル・インターナショナル
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子どもの性別による《決めつけ》を、無意識のうちにしていませんか。

「女の子だからおままごと好きだろう」、「男の子だから乗り物でしょう」という固定観念(ジェンダーバイアス)は、やがて「女の子だから料理ができるはず」、「男の子だから、将来こんな職業につくべき」という、ジェンダーロール(=性別による役割)の押し付けにつながっていきます。

第2回目は、そんなジェンダーロールから自由になれる、マテル・インターナショナル株式会社(以下マテル社)と株式会社エポック社(以下エポック社)の取り組みをご紹介します。
全3回の2回目。#1を読む

子どもたちの方が ジェンダーニュートラル!

約60年以上、世界中の子どもたちに愛されてきたマテル社のバービー。1959年のデビュー以来、女性を取り巻く環境の変化を常に反映してきました。そんなバービーを発売するマテル社が2021年におこなった、《親と子どものジェンダー並びにキャリアのギャップ》に関する調査では、興味深い結果が出ました。

「消防士やパイロットなどは、ジェンダーイメージが強い職業とされていますよね。親子間のギャップを見てみると、子どもの方が親よりも職業に対するジェンダーイメージが少ない結果になりました。

また、勉強の科目についても、ジェンダーイメージがあります。親子ともに『算数には男の子』、『家庭科には女の子』のジェンダーイメージがあることがわかりました。その一方で、約半数の子どもが、ほとんどの教科で『男女どちらのイメージも持っていない』ことが明らかになったのです」(マテル社マーケティング・今泉秀一さん)

子どもの回答でも、「算数」「体育」は男の子のイメージが強いが、どちらの教科についてもジェンダーイメージは親よりも少ない結果に(マテル・インターナショナル調べ) 写真提供:マテル・インターナショナル

この結果を読み解くと、子どもの方が親よりもジェンダーニュートラル(=性差にとらわれない考え方)な傾向にあり、親子間にジェンダーに対するギャップがあるということがわかります。

性別によって「◯◯であるべき」という考えや、性別による職業や得意科目のイメージの刷り込みをしているのは、大人の方ということになるのです。

既成概念の枠にとらわれないバービー

今回、おもちゃメーカー6社に取材をしたところ、「バービーシリーズの社会課題に対する取り組みの早さや実行力には、刺激を受けている」との声が多数のメーカーからあがりました。

2019年に米国限定で発売された、世界初のジェンダーフリーシリーズ「クリエイタブル・ワールド(日本未発売)」は、マテル社のジェンダーに対する姿勢を象徴しています。

「様々な肌のトーンやヘアスタイルの人形は、女の子でもあり、男の子でもあり、そのどちらでもない、というもの。

ウィッグを使うとショートへアからロングヘアに切り替えられます。セットになっている洋服と小物は、社会的に女子用、男子用、両性用とされているテイストのものです。

クリエイタブル・ワールドは『男の子はこうあるべき』、『女の子はこうあるべき』といった既成概念の枠にとらわれず、自由に人形をカスタマイズして遊べる世界を目指しています」(マテル社・今泉さん)

また、バービーは、"You Can Be Anything" (=何にだってなれる)をブランドテーマとして掲げています。

「女の子たちには多数の選択肢があり、どんなキャリアでも達成できることを示すロールモデルとして、これまでさまざまなドールを発表してきました。

大統領のバービー、消防士のバービー、プログラマーのバービーなど、実に多種多様な職業に、バービーが就いているのです」(マテル社・今泉さん)

様々な職業、生き方をしているバービーが目に入ることで、女の子たちが「自分の可能性を狭めないで、自分は何にだってなれる!」と勇気をもらえます。

ちなみに︎日本では、「バービー ドリームクローゼット」が2020年に発売。25個以上のアクセサリーでバービードールの着せ替えを楽しめるセットで、白衣やスキューバダイビングのスーツ、パソコンデスクなど、憧れの職業になれる小物が詰まっています。

バービーは、いろいろな生き方や考え方の模範になるおもちゃなのです。

クローゼットのなかには、ドレスばかりでなく、ダイビングスーツや白衣などもあり、小物も様々。 写真提供:マテル・インターナショナル

性別の役割や職業イメージを植えつけない

日本発のおもちゃも、負けてはいません。

2020年に発売35周年を迎えたシルバニアファミリー(エポック社)は、日本を代表するドールハウス玩具。人形を動物の一家に置き換えたおもちゃとして、世界中で愛されています。そんなエポック社も、ジェンダーや多様性に敏感なおもちゃメーカーとして知られているのです。

エポック社の広報・岩崎拳太郎(こたろう)さん曰く、10年ほど前より、海外販社のメンバーからジェンダーに関する指摘がちらほらと入ってくるようになったと言います。

「海外販社のメンバーから、『キッチンにお母さんだけ立っているのはなぜなんだ?』、『理系の職業にもっと女性を増やすべきでは』、『ドレス以外の服を女の子に着せてほしい』といった、ジェンダーに対する意見が出るようになりました。

しかし、このような意見は、当時の日本とは温度差があったのも事実です」(エポック社・岩崎さん)

そんなバイアスを徹底的に排除することを意識したのが、2019年発売のペルシャネコファミリーです。そのプロフィールやキャラクターデザインなどにおいて、ジェンダーバイアスを取り除く配慮がなされています。

「ピンクのベストがよく似合っているお父さん、水色ワンピースを着たお母さんがいて、両親の肌の色が違います。お母さんのダーン・ペルシアンの趣味は天体観測で、娘のライラは機械いじりが得意と、それぞれ理系の趣味があるんです。お父さんはダンサーで美意識も高めです」(エポック社・岩崎さん)

ピンクのベストを着たお父さんネコに、肌の色がそれぞれ違う両親・子どもたち。キャラクター設定も、ジェンダーによるバイアスを感じさせないものにしている。 写真提供:エポック社

他のファミリーでも、家事労働の象徴という印象を与えそうなエプロンをお母さん人形から外したり、性格や得手不得手の内容に偏りがでないようにするなど、開発の際には十分気を付けていると言います。

「男の子は元気で強くてスポーツが好きであるべき、女の子はお絵かきや手芸、お料理が好きだろう……。キャラクター展開では、そういったバイアスを取り除くことを常に意識しています。

現在も、商品開発の段階から海外メンバーに、それぞれの国の文化的視点で見てもらい、できるだけ多くの情報収集とヒアリングをしているんですよ」(エポック社・岩崎さん)

日本生まれの小さな動物たちが、世界中で愛されている理由がよくわかります。

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