子どもの貧困 「子ども食堂」が守る子どもの居場所が大切なワケ

子どもの居場所 ルポルタージュ #1-1 千葉県「TSUGAnoわこども食堂」

ジャーナリスト:なかの かおり

気になる子がきっかけで始まった子ども食堂

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代表の田中照美さんは、中学生と高校生の子を持つ母であり、社会福祉士です。もともと実家がこの近くにあり、障害者が住むグループホームを運営していました。子どものころ、両親は忙しく、地域の人たちが田中さんのことを気にかけてくれました。

結婚して他県に住んでいましたが、夫を説得して千葉に戻り、高齢になった両親の仕事を継ぐことに。

2013年、グループホーム近くにある自宅の1階を開放して、地域のママたちが集う「ツリーハウス」をスタートし、子育て相談や困りごとのあるママの支援もしていました。

その数年後、田中さんは、ある子との出会いをきっかけに子ども食堂を始めたと言います。

「当時1年生で、体が小さく、気になる子がいました。いつも同じ服を着て、袖口やズボンがボロボロ。前歯は虫歯で溶けていて……。

連休中の朝7時ごろに、自宅のインターホンが鳴り、事故かな? 何だろうと思ったら、『遊べる?』って。

しかも、その子は大袋のスナックを食べていたんです。それが朝ご飯だっていうから、気になって話を聞きました。

お母さんが病気で伏していて、ご飯が作れない。お父さんは仕事で、いつも朝早く夜遅い。1000円を置いていって、夜までこれで何とかしなさいって言われる。安いお菓子を買って、ずっと食べている。だからうちに来ると、何かご飯はないかなって、台所にふらっと行くんです」(田中さん)

「TSUGAnoわこども食堂」は、2022年6月に5歳になりました。  撮影:なかのかおり

こうした子のサポートをするとともに、改めて地域のことを調べた田中さん。行政に聞きにいくと、住まいのあるエリアは、生活保護や教育扶助を受ける家庭が多く、子どもの貧困が進んでいました。

貧困でなくても、親が仕事でいつもいなかったり、厳しすぎる“教育虐待”をされていたり、さまざまな事情を持つ子がいることもわかりました。市内ですでに活動している子ども食堂があると知り、田中さんもやりたいと思いました。

「最初は場所を探すのに苦心しました。私の自宅を開放してみんなの居場所になっていたから、そこでやろうかとも思いましたが、狭くてたくさんは入れない。

そんなとき、福祉のつながりで、障害のある子の放課後デイサービスや相談事業をする会社の代表の厚意で、シェアオフィスのようにして今の場所を無料で借りられることになりました。こうして、月に1回の子ども食堂を始めました。

普段から、その会社のスタッフがいるので、私がいなくても、子ども食堂に寄付したいという方が来たときに受け取ってもらったり、必要な人につないだり、会社の社会貢献活動として対応してくれます。

こうした子どもを見守る場というのは、いつでもオープンしていて、子どもや地域の方が、入りやすいことが大事なんです」(田中さん)

確かに、通りに面している1階にあり、ガラスには絵がペイントされ、看板も出ていて目につきます。

地域の人からの支援も、途切れません。月1回、近くの病院に通院する際に1万円を届けてくれる高齢者もいれば、野菜やお菓子を差し入れする人もいると言います。

通りに面しているので入りやすい! おやつの香りも漂ってきます。  撮影:なかのかおり

夜ご飯を無料で提供し、みんなでにぎやかに食べる子ども食堂のほか、千葉市の放課後居場所事業として、2020年にこどもカフェも始めました。

こどもカフェは小学生から高校生まで誰でも使えて、利用料はかかりません。その他、ツリーハウスに集う地域のママ仲間が、近くでマルシェを開き、手作り品を販売して、売り上げの一部を子ども食堂に寄付するなど、子どもの居場所を応援する輪も広がっていました。

しかし2020年春、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、突然の休校に……。そして緊急事態宣言が繰り返される生活。

学校は再開されましたが、その後のデルタ株、オミクロン株の流行では、子どもの間でも陽性者が増え、再び休校になった地域もありました。

子ども食堂と、そこに集っていた子どもたちと保護者、周辺の大学生も試練に見舞われました。田中さんは、コロナ禍でもお弁当の配布を続け、工夫を重ねて子どもたちとの温かいつながりを守り続けました。

第2回は、コロナ禍での『TSUGAnoわこども食堂』の取り組みについてお伝えします。

取材・文/なかのかおり

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なかの かおり

ジャーナリスト

早稲田大参加のデザイン研究所招聘研究員。新聞社に20年あまり勤め、独立。現在は主に「コロナ禍の子どもの暮らし」、「3.11後の福島」、「障害者の就労」について取材・研究。39歳で出産、1児の母。 主な著書に、障害者のダンス活動と芸能界の交差を描いたノンフィクション『ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦』、『家庭訪問子育て支援ボランティア・ホームスタートの10年「いっしょにいるよ。」』など。最新書『ルポ 子どもの居場所と学びの変化: 「コロナ休校ショック2020」で見えた私たちに必要なこと』が2022年10月22日発売。 講談社FRaU(フラウ)、Yahoo!ニュース個人、ハフポストなどに寄稿。 Twitter @kaoritanuki

早稲田大参加のデザイン研究所招聘研究員。新聞社に20年あまり勤め、独立。現在は主に「コロナ禍の子どもの暮らし」、「3.11後の福島」、「障害者の就労」について取材・研究。39歳で出産、1児の母。 主な著書に、障害者のダンス活動と芸能界の交差を描いたノンフィクション『ダンスだいすき!から生まれた奇跡 アンナ先生とラブジャンクスの挑戦』、『家庭訪問子育て支援ボランティア・ホームスタートの10年「いっしょにいるよ。」』など。最新書『ルポ 子どもの居場所と学びの変化: 「コロナ休校ショック2020」で見えた私たちに必要なこと』が2022年10月22日発売。 講談社FRaU(フラウ)、Yahoo!ニュース個人、ハフポストなどに寄稿。 Twitter @kaoritanuki