睡眠不足が避けられない現代の子どもたち 「眠育」について専門医が解説
「眠育」で子どもの睡眠を知る #1 必要な睡眠時間は? 「小5プロブレム」と「中1ギャップ」との関連も探る
2023.01.31
小児科医・日本眠育推進協議会理事長:三池 輝久
子どもには早寝早起きをして、睡眠時間をきちんととってほしい。
そう思っているのに、「なかなか寝てくれない」、「塾が始まって寝る時間が遅くなってしまった」、「長期休みになると生活時間が大きくずれてしまって」など、少しのずれから子どもの睡眠不足はどんどん深刻になり、もとに戻せなくなることもあります。
「睡眠不足は蓄積していきます。1日20分の睡眠不足も、1週間溜まってしまうとかなりのものになってしまうんです」とは、熊本大学名誉教授であり、日本眠育推進協議会理事長の小児科医・三池輝久先生。そこで、睡眠の教育といわれる「眠育」について、三池先生に教えていただきました。
1回目は、睡眠不足の子どもたちが増えている原因と子どもに必要な睡眠時間についてお話しいただきます。
(全3回の1回目)
三池輝久
(みいけ・てるひさ)
小児科医、小児神経科医。熊本大学病院長、日本小児神経学会理事長、兵庫県立リハビリテーション中央病院「子どもの睡眠と発達医療センター長」などを経て現在、熊本大学名誉教授、日本眠育推進協議会理事長。子どもの睡眠障害の臨床および調査・研究活動は30年を超える。
睡眠不足が避けられない「夜型」の現代社会
──「眠育」とは、正直あまり聞きなれない言葉ですが、そもそも「眠育」とはどのようなことなのでしょうか?
三池輝久先生(以下、三池先生):「眠育」とは、言葉のとおり「睡眠についての教育」です。具体的に言えば、「睡眠に関する正しい知識を知ってもらう」ことを目的としています。というのも、みなさん睡眠についての知識は、知っているようで、案外知らないことも多いんですよ。
「早寝早起き」が体にいいのは、小さいころから誰もが言われ続けていることだと思います。でも一体「早寝」って何時のことでしょうか。そして「早起き」って何時でしょうか。意外とアバウトですよね。
そもそも、人間は太古の昔から太陽に合わせて生活してきました。日が昇ったら起き、日が沈んだら寝るというのが自然であり、身体に無理がないリズムであることは確かです。
ただ、昔と違うのは、現代社会が「夜型社会」だということです。コンビニエンスストアにレストラン、娯楽施設など、暗くなってもたくさんのお店が開くようになり、人々は夜も便利に活動しています。そして何と言っても、現代社会はグローバル化しています。さまざまな仕事は世界とつながり、寝不足は避けられないのが現状です。
そのため50~60年前と比べて、今の社会は2時間以上、夜型にずれているのではないかと思われます。にもかかわらず、学校生活が昔風の早寝早起きを強いられる「朝型社会」であることは変わりません。その中で子どもたちは生きていかなくてはいけないのです。
睡眠不足は現代の夜型生活とのギャップから
──大人を中心とした社会と、子どもの学校生活との間に、時間的なギャップが生じているということでしょうか。
三池先生:人々は24時間というリズムの中に従わなければなりません。これは変えられないことであり、それに従わないと、社会から弾き出されてしまうので、みんな一生懸命、社会の時間割りに沿うように頑張ります。
しかし小・中・高校の学校の開始時間は、50年前も今も変わらず8時過ぎころ。逆算すれば、7時前後には起きる子どもが多いでしょう。一方で、最近の保護者の生活は、フレックスタイムやテレワークが増え、昔ほど朝型生活を強いられているわけではありません。
もちろん、子どもに合わせて朝型生活をしている方は多いと思いますが、社会が夜型になれば、大人の生活は夜型となることが多いでしょう。そして子どものほうも、学校以外の社会生活、例えば塾やならいごとがあれば、どうしたって夜型に傾きます。
しかし、朝型生活が是とされ、学校の開始時間が変わらない限り、そこにはギャップが生まれます。このギャップこそが、多くの子どもたちが睡眠不足になる大きな原因なのです。