睡眠不足が避けられない現代の子どもたち 「眠育」について専門医が解説

「眠育」で子どもの睡眠を知る #1 必要な睡眠時間は? 「小5プロブレム」と「中1ギャップ」との関連も探る

小児科医・日本眠育推進協議会理事長:三池 輝久

「小5プロブレム」と「中1ギャップ」と睡眠減少の関連も

──では、本来の子どもの理想の睡眠時間はどれくらいなのでしょうか。

三池先生:睡眠は、乳児期から9歳までがひとつの区切りと考えられるのですが、9歳までは10時間弱必要だと思っています。

実は、統計上では小学校3年生までの平均睡眠時間は9時間45分となっていて、ほぼ満たされていることになります。意外なことに、1歳から9歳までは平均が変わらないんです。低年齢ではもっと寝ているように思えますが、実はお昼寝をしている時間の分が長くなるだけで、夜の眠りは合計すると基本的に変わりません。ちなみに5歳で9割の子が昼寝をしなくなっています。

高学年からは睡眠が減ります。4年生では急激には減りませんが、5年生になるとガクッと減ります。10年ほど前のデータですが、京都府と青森県で調査をしたところ、5年生になると平均睡眠時間が30分も減りました。睡眠時間の平均が30分減るというのは大変なことです。こうした急激な減りが、5年生と中学1年生で見られました。

これは、急に勉強が難しくなって起こると言われる「小5プロブレム」や、不登校が増えたり、いじめが増えたりする「中1ギャップ」が背景にあるのではないかと私は思っています。睡眠不足の弊害は、いろいろなところで起こるものですから。

2014年に熊本県のある都市で行われた中高生のデータもご紹介しておきます。調査では、夜間睡眠時間6時間半以下の中高生が80%にも及びました。7時間以上寝ていたのは、20%弱。これでは成長期の若い人の睡眠が足りているとは到底言えません。大人の平均睡眠時間が7時間20分ですから、大人のほうがまだ寝ていると言えますね。小学校高学年以降、中高生になっても、最低8時間は寝てほしいと思います。

睡眠不足は蓄積していきます。「睡眠負債」という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、1日20分の睡眠不足も、1週間溜まってしまうとかなりのものになってしまうのです。

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こうした睡眠不足におちいると、身体ではどんなことが起きているのでしょうか。2回目では、睡眠の重要性について、引き続き三池先生にお話しいただきます。

取材・文/浅妻千映子

「眠育」連載は全3回。※2回目は2023年2月1日、3回目は2月2日公開(公開日までリンク無効)
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三池輝久
(みいけ・てるひさ)

小児科医、小児神経科医。熊本大学病院長、日本小児神経学会理事長、兵庫県立リハビリテーション中央病院「子どもの睡眠と発達医療センター長」などを経て現在、熊本大学名誉教授、日本眠育推進協議会理事長。子どもの睡眠障害の臨床および調査・研究活動は30年を超える。

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みいけ てるひさ

三池 輝久

小児科医・日本眠育推進協議会理事長

小児科医、小児神経科医。熊本大学病院長、日本小児神経学会理事長、兵庫県立リハビリテーション中央病院「子どもの睡眠と発達医療センター長」などを経て、現在は熊本大学名誉教授、日本眠育推進協議会理事長。子どもの睡眠障害の臨床および調査・研究活動は30年を超える。 主な著書に『子どもの夜ふかし 脳への脅威』『赤ちゃんと体内時計―胎児期から始まる生活習慣病─』(共に集英社新書)ほか多数。

小児科医、小児神経科医。熊本大学病院長、日本小児神経学会理事長、兵庫県立リハビリテーション中央病院「子どもの睡眠と発達医療センター長」などを経て、現在は熊本大学名誉教授、日本眠育推進協議会理事長。子どもの睡眠障害の臨床および調査・研究活動は30年を超える。 主な著書に『子どもの夜ふかし 脳への脅威』『赤ちゃんと体内時計―胎児期から始まる生活習慣病─』(共に集英社新書)ほか多数。