密着取材 貧困家庭を救う「無料塾」は勉強だけでなく食事も支援 

子どもの居場所 ルポルタージュ #3‐1 東京都『日野すみれ塾』

ジャーナリスト:なかの かおり

日野すみれ塾代表の仁藤夏子(にとう・なつこ)さん。  撮影:なかのかおり

コロナ禍に居場所がなくなったり、充分なコミュニケーションができなかったり、ストレスを感じている子どもや保護者は少なくありません。家や学校以外に、どのような居場所があるのでしょうか?

コロナ禍の子どもの暮らしの取材・研究を重ねるジャーナリスト・なかのかおりさんによる、子どもの居場所についてのルポルタージュ連載。

第3弾となる今回は、東京都日野市で貧困家庭出身のママが開く、無料塾の「日野すみれ塾」を取材しました。

貧困家庭の子やヤングケアラーは、勉強する機会が少なく、文房具すら持っていない子もいます。このように何らかの困難を抱え、経済的にも厳しい子どもの学習支援をしているのが「無料塾」です。

無料塾の「日野すみれ塾」は、曜日をわけて、小中学生が30人ほど通っています。講師は完全なボランティアで、子どもたちは無料で勉強を見てもらい、さらに食事や文房具の提供も。

代表・仁藤夏子(にとう・なつこ)さんは、2歳・7歳・11歳の3児の母。子育て真っ最中で、日々忙しく過ごす仁藤さんが、なぜ無料塾を始めたのでしょうか。

取材をすると、「すみれ塾という居場所があって楽しい」という現場の声が集まりました。

(全3回の1回目)

「そうめん」を知らなかった子がいた

筆者は、中学受験を描いた漫画『二月の勝者』(著:高瀬志帆/小学館)のドラマ化の取材をきっかけに、無料塾を知りました。無料塾のシンポジウムを取材した際に、仁藤さんのお話を聞き、「地域の子を、地域で育てる」という考えに共感し、今回取材を申し込みました。

「日野すみれ塾」の取材をしたのは、2022年8月末。この日は、東京都日野市内の公共施設で、5周年感謝祭が開かれていました。

普段は、市内のとある場所で塾を開いていますが、この日は感謝祭とあって、公共施設の入り口にオリジナルののぼりが飾られ、お祭り気分。

会場では、「日野すみれ塾」の5年間をまとめた映像が流れ、活動を紹介する資料が貼り出されました。他には、手作りの射的ゲームや、ヨーヨーすくい、中学生による人生相談といったお楽しみも。

「日野すみれ塾」の5周年感謝祭では、ヨーヨー釣りも行われました。  撮影:なかのかおり

「日野すみれ塾」で食事を作ってくれている、シニアのボランティアスタッフは、おにぎりの差し入れを。トップにも登場したおにぎりはちょっとした名物で、おにぎり写真は活動紹介のブログにもたびたび登場し、「食べてみたい」という声が多く寄せられるとか。

エプロンをした女性に聞くと、「子どもを応援するボランティアをやってみたいと思って。公的な窓口で紹介されて、すみれ塾で食事を作るようになりました」と話してくれました。

シニアボランティアスタッフのおにぎりの差し入れ。「日野すみれ塾」では、普段から食事の用意もしています。  撮影:なかのかおり

先日、開かれた夏合宿でも、シニアボランティアの食事が、子どもたちを支えました。夏合宿は、「日野すみれ塾」の一大イベントです。いつもと違う場所を借りて中学生は一日中勉強し、受験する中学3年生は宿泊します。

食事のそうめんには、栄養バランスを考えておかずを添え、おやつには季節の果物を。なかには、塾で食べるまで、そうめんを知らなかった子がいて、食事は会話や知識のきっかけとしても大事だということがわかります。

「日野すみれ塾」代表の仁藤夏子さんは、「友達と行った修学旅行は、月日が経っても覚えているように、この夏合宿が思い出になれば」と、お金で買えない心の豊かさも塾では育てています。

「日野すみれ塾」に通う中学生が、感謝祭で販売したホットケーキ。  撮影:なかのかおり

この日、中学生の塾生は、ホットケーキを焼いて、自ら販売していました。塾で勉強が終わった後、作る練習をしたといいます。

感謝祭の会場には、「日野すみれ塾」を支援している人や保護者、塾生、卒業生などたくさんの人が入れ替わり立ち代わり、訪れていました。

学校嫌いの経験からボランティア講師に

「日野すみれ塾」を支える、ボランティア講師も、感謝祭を盛り上げました。大学生の男性は、ゲームコーナーを担当。2022年4月、大学入学と同時に、ボランティアを始めた大学1年生です。始めたきっかけを聞くと

「大学を決める際に、アルバイトもいいけれど、何かを教えるボランティアがしたいと思って。調べたら、大学の近くに『日野すみれ塾』があったので、地方から上京するときに早速、仁藤さんにコンタクトを取りました。

うちは貧困家庭ではありませんが、私が学校嫌いだったんです。小学校もあまり好きではなく、そもそも学校というシステムが合わなかったんだと思います」

それでも中学受験をして、進学校である中高一貫校に進みました。しかし、途中で通信制の高校に変え、その一貫校は辞めることに。

「自分の経験のように、学校嫌いの子や、勉強ができる環境にない子がいます。実際に勉強を教えるのは難しいですが、今は講師に慣れてきました。それに、テストで結果が出てくる子がいると、嬉しいですね。

今回のようなイベントやバーベキュー、合宿などもあるから勉強以外のところでも触れ合えるし、卒業生も来てくれます。塾という形ですが、地域のコミュニティや居場所として、このような場があることが大事なんだと思います」(ボランティア講師をする大学生)

話してくれたボランティア講師の大学生。学校に行きづらい子の居場所になればと思って塾に参加しています。  撮影:なかのかおり
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