子どもが食物アレルギー? 専門医が教える「受診の目安」と「意外な落し穴」
アレルギー専門医・岡本光宏先生「子どもの食物アレルギー最新事情」#1 〜受診の目安と診断方法〜
2022.07.01
兵庫県立丹波医療センター小児科医長・アレルギー専門医:岡本 光宏
食物アレルギーの診断が難しい理由
「子どもにどのような食物アレルギーがあるか知っておきたい」と考えるパパママはたくさんいます。そういった場合、病院でよく勧められるのは「血液検査」です。
しかし、岡本先生は「血液検査だけでは食物アレルギーを確定しきれません」と断言します。
「食物アレルギーを診断するには、①その食品を食べてひどい目にあったという“明確”なエピソードと、②感作(かんさ)が陽性であること、この2つが必要です。
①の「食べてひどい目にあったエピソード」は、アナフィラキシーショックのような重篤な症状はもちろん、お腹や背中などの広範囲にじんましんが出るなどの症状も該当します。
問診で詳しく聞きますが、中には『卵を食べたときにじんましんが出たけど、食べなくても出ることがある』など不明確なパターンも多々あり、その症状が本当に食物アレルギーなのかどうかの判断はとても難しいのです。
②の感作とは、いわゆる血液検査で調べる免疫機能です。少し専門的な話になりますが、体内に入ったアレルゲンに反応して『IgE(アイジーイー)抗体』という物質が作られる状態を指します。
つまり、②血液検査で、感作に陽性が出たとしても、①の“明確”なエピソードがなければ、食物アレルギーとは診断できないのです」(岡本先生)
つまりパパママが「あらかじめ子どもが食物アレルギーかどうかを知りたい」と考えたとしても、これまで子どもにアレルギー症状が出ていなければ、血液検査を受けても正しい診断ができないことがわかります。岡本先生が続けます。
「たとえば、症状が出ていない状態で血液検査を受けて陽性だった場合、医師によっては『血液検査の結果、◯◯の数値が高いから、念のために除去しましょう』と判断することもあります。
また、仮に医師が『検査は陽性だったけど、少しずつ食べさせてみましょう』と伝えても、保護者の判断で除去してしまうケースもよくあるのです。
“明確”な症状が出ていない状態で血液検査を受け、その食物を避けることで、さまざまな弊害が生じかねません。
たとえば、血液検査を受けた時点でまだ食物アレルギーの症状が出ていなければ、少しずつ食べさせることで発症リスクを軽減することができますが、その食物を除去してしまうと、その分発症リスクは高まります。つまり、子どもがさまざまな食材を食べられる可能性を狭めてしまうことになります」(岡本先生)
それでもわからない場合の「食物経口負荷試験」
さらには①の食べてひどい目にあったエピソード、②の感作を調べても判断しきれないケースがあると言います。
「その場合は、専門の病院で『食物経口負荷試験』を行います。『食物経口負荷試験』とは、少量の食材を実際に食べさせてみて、アレルギー反応を調べる検査方法です。
当病院で最初に行う卵の食物経口負荷試験では、粉末化された卵白1.3g(ごはん粒13粒くらいの量)を使うことが多いです。これを1mlくらいのりんごジュースと混ぜてペースト状にしたものを卵アレルギーのお子さんに食べさせて反応を見ます。
アレルギー反応が出なければ、家庭でも卵白1.3gまで食べられるようになりますよ。後日、さらに食物経口負荷試験を重ねていき、最終的には卵1個(卵白40g相当)を食べられるところまで目指します」(岡本先生)
食物経口負荷試験は、一定の基準を満たした医療機関でのみ行われ、保険適応です。
「食物経口負荷試験には、『医師がアレルギーの診療に10年以上精通していること』などの条件があることから、実施できる医療機関は限られています。一方、血液検査はそのような条件はなく、一般的に行われているため多用されるのでしょう」(岡本先生)