消えゆく島言葉「テードゥンムニ」を残したい 竹富島を想う人々の願い

首都圏から竹富島へ移住! 島暮らしの子育てと学び【09】

島言葉で描かれた絵本『星砂の話(ふしぬ いんのぬ はなし)』(伝承:内盛スミ 、絵:山本史、ことばの解説:中川奈津子/ひつじ書房刊)を読む長男と次男。 写真提供:片岡由衣
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子ども3人&パパママという5人家族のライター・片岡由衣さんは、2019年春に、神奈川県から人口約300人の小さな離島・竹富島(沖縄県八重山郡)へ引っ越してきました。島での子育てや暮らしをお届けする連載の9回目です。

今回は、竹富島にしかない言葉との出会いや、その言葉を使ったふれあいについて紹介します。神奈川県で暮らしていた子どもたちが、島の言葉に触れてどんな反応を見せたのでしょうか。

もうすぐなくなってしまう⁉︎ 島言葉との出会い

竹富島には、「こんにちは」「おはよう」「こんばんは」の意味を兼ね、どんな時間でも使えるあいさつの言葉があります。

「くやーならー」

引っ越したばかりの2019年春、このあいさつをよく耳にしました。ハワイの「アロハ」と近い意味で、どの時間帯にも使えるあいさつの言葉です。

竹富島の言葉を「テードゥンムニ」といいます。「テードゥン」は「竹富」、「ムニ」は「言葉」の意味。テードゥンムニを日常で使う人は年々減っていて、30〜40代の人は、聞けても話せない人が多いといいます。

世界の言語の半分が、「何もしなければ」今世紀中になくなってしまうと言われています。その「消滅危機言語」が日本に8つあると、2009年にユネスコが発表(※1)したことを、竹富島で暮らしてから知りました。

テードゥンムニは八重山語(八重山方言)に属し、アイヌ語や奄美語など8つある「消滅危機言語」の一つです。
※1=文化庁 消滅の危機にある言語・方言 

言葉を知ることは、土地の文化への理解につながります。日頃から地域の伝統や文化を守ろうという意識のある竹富島では、日々の暮らしの中で子どもたちが島の言葉に楽しくふれる機会がたくさんあります。

2019年4月、次男の入学式のとき(#2を読む)には、来賓のあいさつを島言葉で話す方がいました。

子どもたちは「何を話しているのかわからないよ〜」と言いながらも、参列している島の大人たちはうなずきながら聞いています。

2019年6月、長男と次男が通う学校の運動会では、地謡(じかた)と呼ばれる、民謡の歌い手たちによる、「テードゥンムニ ラジオ体操」が行われました。

三線を奏でながら、「腕を前から上にあげて大きく背伸びの運動から〜」のセリフを、テードゥンムニで語ると、メロディラインは従来のラジオ体操なのに、沖縄民謡のように聞こえます。島の言葉でオリジナルのラジオ体操をつくる遊び心が、運動会へ華を添えていました。

小中学生全員でのエイサーに参加した次男。エイサーでも地謡の人たちが三線を生演奏してくれていました。 写真提供:片岡由衣

言語学者と学ぶ 言葉と絵のワークショップ

2019年の夏休みには、島言葉と絵のワークショップに参加しました。

言語学者を中心とした、消滅危機にある言葉を守り伝えるプロジェクト「言語復興の港」のスタッフとPTAが主催し、竹富島に伝わる、星の砂にまつわる民話を絵本にする活動の一環として行われたイベントです。

ワークショップでは、まず完成間近の絵本を、島の人がテードゥンムニで読み聞かせてくれます。そして、「絵本のお話の世界をみんなで1枚の大きな絵に描きましょう!」と、絵本の挿絵を担当したイラストレーターの山本史さんが子どもたちに声をかけてくれました。

「大人の皆さんもよかったら参加してくださいね」と声をかけてもらうものの、横4.5m×縦1.7mの大きな紙を前にたじろぐ大人たち。一方、子どもたちはすぐにイキイキと絵を描き始めました。

幼児から中学生まで、たまに大人も参加しながら完成した絵は、不思議なまとまり感のある作品に仕上がりました。 写真提供:片岡由衣
黙々と描き続けていた長男と次男。好きな色を選び思うままに描いていました。     写真提供:片岡由衣

長男はオレンジ一色で星のマークを描き続け、次男は思うままに大胆な筆使い、3歳の長女は手のひらにたっぷり絵の具をつけて遊ぶように描く。

島の民話の世界を通し、読んで聞いて描いて、全身を使って島言葉に親しみました。

そして、2022年2月に絵本が完成し、学校と子どもたちに贈られました。絵本を開くと、「テードゥンムニ」と日本語と英語が並びます。

「てーどぅんしまぬ ふしぬ いんのぬ はなしゆ っしゃるならー。」これは、「竹富島の星砂の話をします」という意味。

これほどに違った言葉がこの島では話されていたことに、驚きます。また、言語学者や民俗学者、イラストレーターなど、さまざまな人が竹富島の自然や文化、伝統を衰退させないために活動していることがイベントを通じてよく伝わりました。

島の子どもたちにとっても、ますます自分たちの暮らす場所を好きになるだろうなとしみじみ感じました。

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