
父の言葉に「自分はここにいていいんだ」と思えた
──矢部さんは小さいころから絵を描いていたそうですが、矢部さんの描く絵について、ご家族はどんな反応でしたか?
矢部さん:父は子どものための造形教室などもやっていて、「子どもの描く絵は本当に素晴らしい!」と心から思っています。「自分にはもう描くことができないものを描いている」と。
親として「ほめてあげると、子どもが絵を好きになるかもしれないからほめる」というのではなく、父にとっては僕の絵も本当に素晴らしいものだから、「素晴らしい」と言ってくれていました。
そんなふうに「素晴らしい」と公言してくれると、「自分はここにいていいんだ」と思えて、だから絵を描くことがより好きになったのかもしれないと思います。

──絵を描くのがイヤになる時期はありましたか?
矢部さん:高校生ぐらいからはまったく絵を描いていなくて、芸人になってから、たまに仕事で必要な絵を描くぐらいだったので、ずっと絵を描いていたわけではないのですが、嫌いになったことはないかもしれません。
ものづくりをしているときが僕はすごく楽しい
──矢部さんは今、漫画家で絵を描くことも仕事のひとつになりましたが、それについてどういう想いがありますか?
矢部さん:自分の中では「描こうと思ったら描けた」という感覚です。それは小さいころに父の仕事を目にしていたということもあるかもしれないですし、それだけでなく、芸人として経験したことや作品を作ってきたこと、作品に演者として出演したこと、いろいろなクリエイターの方々とお話ししたことなど、これまでの経験があったから描けたかなと思っています。
なんにせよ、僕の中では「ものづくりをすることが好き」というのが一番大きいのかなと思っていて。結果や周囲の評価よりも、ものづくりをしているときがすごく楽しいんですよね。
今回はPHP研究所さんからご依頼をいただけたから、こういうもの(エッセイ漫画『ご自愛さん』)を描くことができました。何かを始めるにあたって「これ、やります!」と周りに宣言して取り組む人と、言わずに始める人がいると思うのですが、僕はどちらかというと言わずに始めるタイプ。なので、今後、どういうものをやりたいかというのは……そうですね、そのときに考えていけたらと思います。
──『ご自愛さん』をはじめ矢部さんの作品を手に取った方に、どのような気持ちになってもらえたらうれしいですか?
矢部さん:何か受け取っていただけたら、僕はとてもうれしいです!
─・─・─・─・
ひとつひとつの質問を真っすぐに受けとめ、丁寧に言葉を選んで答える矢部さん。飾らない誠実な人柄が言葉の端々から感じられ、それが作風にも表れて多くの人の心をつかんでいることが伝わりました。
周囲の評価や期待に振り回されず、我が子をほかの子どもと比べることなく、自分なりのペースと価値観を大切に、日々を過ごしていきたいと改めて教わりました。
取材・文/木下千寿

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木下 千寿
福岡県出身。大学卒業後、情報誌の編集アシスタントを経てフリーとなる。各種インタビューを中心に、ドラマや映画、舞台などのエンターテイメント、ライフスタイルをテーマに広く執筆。趣味は舞台鑑賞。
福岡県出身。大学卒業後、情報誌の編集アシスタントを経てフリーとなる。各種インタビューを中心に、ドラマや映画、舞台などのエンターテイメント、ライフスタイルをテーマに広く執筆。趣味は舞台鑑賞。
矢部 太郎
1977年、東京都生まれ。1997年にお笑いコンビ「カラテカ」を結成。芸人としてだけでなく、舞台やドラマ、映画で俳優としても活躍している。 マンガの代表作として『大家さんと僕』『ぼくのお父さん』(ともに新潮社)、『楽屋のトナくん』(講談社)、『マンガ ぼけ日和』(かんき出版)、『プレゼントでできている』(新潮社)などがある。2025年6月、最新作『ご自愛さん』(PHP研究所)が発売。
1977年、東京都生まれ。1997年にお笑いコンビ「カラテカ」を結成。芸人としてだけでなく、舞台やドラマ、映画で俳優としても活躍している。 マンガの代表作として『大家さんと僕』『ぼくのお父さん』(ともに新潮社)、『楽屋のトナくん』(講談社)、『マンガ ぼけ日和』(かんき出版)、『プレゼントでできている』(新潮社)などがある。2025年6月、最新作『ご自愛さん』(PHP研究所)が発売。