幼児期から学童期の「学び」 子どもの間違い・つまずきの原因を発達心理学者が解説

【今こそ学力観のアップデートをするとき】本当の学びとは何か#5「子どもの間違いが語ること」

自分なりに考えた結果の「間違い」を否定されると、子どもはますます勉強が嫌いになってしまいます。  写真:アフロ

思考力や問題解決能力を育むためには、幼児期に遊びや日常生活をとおして「生きた言葉の力」を身につけることが重要であるとうかがってきました(#3#4を読む)。

しかし、実際に子どもが小学生になって本格的な学習が始まると、親はさまざまな現実に直面します。入学後の学習でつまずいてしまった、単純な計算はできても応用力がない、勉強が嫌い……。お子さんのこうした状態に、頭を悩ませている方もいるかもしれません。

こうした背景には、子どもの「つまずき」が隠れている可能性があります。

子どもがテストなどで間違えたとき、そこには必ず「自分なりに考えて問題に取り組んだ“跡”がある」と話す今井むつみ先生。「間違ってしまったことを否定するのではなく、その間違いが何を示しているのかを考えることに意味がある」と語ります。

世界的な発達心理学者・今井先生に、幼児期から学童期の「学び」についてお話をお聞きしている本連載。第5回は、今井先生らのグループが開発した、子どもの間違いやつまずきの原因を把握するためのテスト結果から、子どもが学習につまずく要因、親が子どもの間違いや学習と向き合う際に必要な心構えなどについてうかがいます。

※全6回の第5回

今井むつみ
慶應義塾大学環境情報学部教授。認知科学、特に認知心理学、発達心理学、言語心理学などを専門に研究。言語に関する研究から教育や学びにも関心を持ち、近年は一般読者向け書籍の執筆、講演活動にも力を入れている。また、国境を越えて学びを考えるコミュニティABLE(Agents for Bridging Learning and Education)をつくり、ワークショップなどを開催している。

学力テストではわからない「間違える原因」

2022年、教育関係者や保護者の間でとても話題になった本があります。今井むつみ先生らのグループが執筆した『算数文章題が解けない子どもたち─ことば・思考の力と学力不振』(岩波書店)です。

『算数文章題が解けない子どもたち─ことば・思考の力と学力不振』(岩波書店)

この本では、今井先生らが広島県教育委員会の委託を受けて開発した2つのテスト、「ことばのたつじん」と「かんがえるたつじん」(以下、「たつじんテスト」という)での子どもたちの誤答例などを分析し、学習のつまずきの原因を明らかにしています。

学力を測るテストといえば、毎年行われている「全国学力・学習状況調査」が思い浮かびます。こうしたテストと「たつじんテスト」との違いを、今井先生は次のように説明します。

「これまで行われてきたいわゆる『学力テスト』は、ある問題において『できる』『できない』、あるいは、『正解する子が多い・少ない』などの傾向がわかりますが、それだけです。つまり、何ができるか、できないかはわかりますが、なぜ間違ってしまったのか、どの部分でつまずいているのかまではわからないのです。

こうした現状を何とかしたいと考えていた教育現場からの要請を受けて、子ども一人ひとりのつまずきの原因を個別に把握できるように設計したのが、『たつじんテスト』です。

日本では、『テスト』というと、その点数や順位ばかりに気を取られる傾向があります。本来は子どもたちの理解度を問うためのテストだったとしても、結果ばかりを気にしてしまう。『全国学力・学習状況調査』でも、自治体間や学校同士で平均点を競うなど、不毛な競争が行われています。

平均点を上げるために一番有効な手段は、特につまずいていない上位層の子どもたちを特訓して、ミスなく問題を解けるようにすることなのです。つまり、通常なら80点~90点ぐらいの子どもたちが100点を取れるようにすることです。

実際に自治体トップの意向でこれに近いことを学校で行わせ、全国学力調査で高順位を誇っている自治体もあるようですが、これは、『一人ひとりの子どもの学びの充実』を考えたとき、ほとんど無意味であるといわざるを得ません。ミスなく問題を解けることと、『理解していること』はイコールではありませんし、平均点が高い学校に入ればみんなが等しく学力を伸ばせるわけではないのです。

教育は、すべての子がいきいきと学ぶことができるよう、支援するのが役割のはずです。そのためには、テスト問題の『できた』『できなかった』がわかるだけでは不十分で、できなかった問題について、子どもがなぜ間違ったのか、何につまずいているのかまでを明らかにする必要があると、かねてから考えていました。

『たつじんテスト』は、認知科学に基づき、言葉の理解や推論、思考力、数・形の理解を測ることで、一人ひとりの子どもが間違えた理由、つまずきの原因を明確化し、それを指導にいかしてもらうために開発したテストです」(今井先生)

「たつじんテスト」とは
小学校2年生以上を対象としたテストで、「ことばのたつじん」と「かんがえるたつじん」の2種類がある。広島県で試験実行期間を経て、県内の小学校で活用されている。また、2022年度以降は、広島県以外でも希望する小学校や自治体単位での頒布も開始している。

※「たつじんテスト」は、個人への配布は行っておりません。学校や自治体関係者はこちらへお問い合わせください。

●「ことばのたつじん」
言葉に関わる知識や、空間・時間に関する言葉の運用力などを測ることができるテスト。

●「かんがえるたつじん」
数や図形に関する知識と、推論の能力を測ることができるテスト

大人は子どもの学習において、「間違わないこと」ばかりを求めてしまいがちです。しかし、子どもが間違えるのは、子どもが自分なりにしっかりと考えた証拠であり、間違いの原因を知ることで、必要となる手立てが見えてくるといいます。

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