幼児期から学童期の「学び」 子どもの間違い・つまずきの原因を発達心理学者が解説

【今こそ学力観のアップデートをするとき】本当の学びとは何か#5「子どもの間違いが語ること」

子どもは何につまずいているのか

では、具体的に、子どもはどんなことにつまずいているのでしょうか。
実際に、「かんがえるたつじん」の中で出題された問題と、誤答について見ていきましょう。

◆パターン1 必要な情報を補えない

実際の「たつじんテスト」の問題文。  画像提供 株式会社 at Study

列の並び順の問題は、小学校1年生で習うものですが、子どもがつまずきやすい問題として有名です。
よくある誤答は「7人」で、これは想像がつきやすい間違いでしょう。「正解をするためには、14人から前にいる7人を引き、さらにことねさんの分の1人を引くという推論が必要となりますが、問題文には『1』という数字は出てきません。書かれていない数字を補うことが、子どもにはとても難しいのです。

実際の児童の誤答例。図には「ことねさん」が書かれていますが、式には反映されていません。  画像提供 株式会社 at Study

また、これまでの経験から、『文章にある数字(だけ)を使えば解ける』という思い込みがあるため、自分で数字を補うことを考えつかない、という側面もあるでしょう」(今井先生)

こうした、これまでの経験から持つ思い込みのことを、「スキーマ」と呼びます。人は誰でもスキーマを持っています。その中には「誤ったスキーマ」もあり、これ自体は仕方のないことですが、子どもが学習する上で足かせになってしまうこともあり、そうした場合はスキーマを修正することが重要です。

さらに、この問題では、なんと「98人」と答えた子どももいました。

実際の児童の誤答例。  画像提供 株式会社 at Study

「『14×7=98』と計算していました。ここには、文の意味を深く考えず、あるいはきちんと読まず(読めず)に、問題文にある数字を使って適当に計算し、何でもいいから答えを出そう、とする子どもの姿勢が見てとれます。そのときに学習している計算方法を使い、答えを出しているようです。

なぜこうしたことが起きるのかは#6(公開前はリンク無効)で詳しく説明しますが、計算自体ができていることは注目すべき点です」(今井先生)

◆パターン2 数に対する思い込み(誤ったスキーマ)

実際の「たつじんテスト」の問題文。  画像提供 株式会社 at Study

前者の「1/3と2/3はどちらが大きいか」は多くの子どもが正解していますが、後者の「1/2と1/3はどちらが大きいか」の正解率はガクンと下がります。

「多くの子どもたちは、『分数や小数の概念的な理解』ができていません。1/3と2/3は、分母が同じ『3』だったために、単に分子の1と2を比較して大きい数字を選んだと推測されます。

分数や小数は、直感的に捉えどころのない、とても難しいものです。というのも、子どもにとって数は、『数えるためのもの』という思い込み(誤ったスキーマ)があるからです。でも、数は他にも、『割合を示す』という使い方があります。

小学校低学年までの数は、前者の『ものを数える』ための使い方ばかりですが、2年生終盤から習う分数や小数は、それとは異なる概念が入ってきます。『ものを数えるためにあるのが数字』という誤ったスキーマが、分母の数字が増えると量が増えるという間違いにつながっているのです」(今井先生)

◆パターン3 難しい「時間の言葉」

実際の「たつじんテスト」の問題文。  画像提供 株式会社 at Study

#4でも触れましたが、子どもは時間に関する言葉が苦手です。低学年(2年生)では、14日の1週間後を「7日」と答える子どもも多かったといいます。

「私たちは、直感的に時間が前へ進むイメージを持っています。未来は自分の前にあり、過去から未来に向かって進んでいる、という感覚です。でも、『1週間前』や『2週間後』という表現は、過去が『前』で、これから起こることは『後』になっています。

時間の言葉には、自分が未来に向かって歩いていくものと、時間が未来から過去に流れてくるという2つの逆向きのモデルがあり、これらが混じって使われているため、子どもは混乱してしまうのです」(今井先生)

また、なかには1週間を5日だと考えて、「19日」と答えた子もいたといいます。学校に行く日が5日なので、こうした勘違いが起こっていると考えられます。

このように、誤答を詳細に分析していくと、大人にとって「なぜこんなこともわからないのか」などと首を傾げてしまうような間違いも、子どもがこれまでの経験に基づき、自分の頭を使って考えた結果だということがわかります。

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