子どもの主体性は「思わず出ちゃう」もの 「育む」ものでも「引き出す」ものでもない〔ある公立小学校教員の驚きの実践〕
現役教員に聞く 子どもが主体的になるヒント#2 親子編
2024.12.09
主体性は「思わず出ちゃう」もの
──子どもが主体性を発揮するようになるには、やはり周りの接し方が大きいように思います。
大窪先生:ただ、「主体性」の扱いには、注意が必要です。子どもの主体性を大人にとって都合よくとらえ、自分たちが望んだとおり振る舞うように「育てる」のなら、それは本当の主体性ではありません。
実は、「主体性を育む」という言葉に、僕はずっと違和感を抱いてきました。そもそも主体性って育てられるものなのかな、と。だから、あるときまでは、「主体性を引き出す」という表現を使っていました。でも、僕の尊敬する市川力さんが「子どもの主体性を引き出すなんておこがましい!」と話すのを聞いて、ドキッとしました(笑)。確かに「主体性を引き出す」って、なんだか上から目線ですよね。
市川力(いちかわちから)氏
長年小学生を対象に探究力を育む学びを研究・実践。現在は全国各地の小・中・高校に赴き探究学習を支援。一般社団法人みつかる+わかる代表理事/慶應義塾大学SFC研究所上席所員。
主体性は、能動・受動では考えられないものです。「今から主体性を発揮してね」と言われても、出せるものじゃない。「楽しい」「惚れる」なども同様ですが、自分の意志では制御できない、気づいたらその状態になって「思わず出ちゃう」ものだと思うんです。
子どもが「もっと知りたい」「学ぶって楽しい」と感じたら、自然と主体性が出ている状態になる。それが本来の姿ではないでしょうか。
──育てるでも引き出すでもなく、「主体性が出ちゃう」機会を創ることが大切、ということでしょうか。
大窪先生:そうですね。そしてそのためには、目の前の子どもと向き合うことが不可欠です。
常に子どもの様子を見て、どんなふうに学びたいのかな、どんなことを一緒に学んだら楽しくなるだろう、と考えながら授業をすることが一番大切だと思っています。それはつまり、子どもたちと一緒に学びを創ることです。
子どもたちに合わせて授業を創っていたら、こちらの想像どおり進むことはまずありません。もちろん教員は、学習のねらいや「こんな姿を」というイメージはある程度持っておきますが、実際は子どもと一緒に迷子になることもよくあります。
でも、そういうプロセスを大事にしたい。子どもと一緒に右往左往しながら、それこそ失敗しながら模索する。僕はこれまでの授業で、「うまくいったぜ」という感覚を持ったことは一度もありません。教員自身が試行錯誤することが重要だと思っています。
保護者もワクワクを探してみる
──「試行錯誤しながら進む」は、親子関係にとっても大切かもしれません。保護者は「子どもを良い方向に導かなくては」という思いが強いあまり、考えや行動を制限してしまいます。
大窪先生:「導こう」だとやはり難しくて、保護者も子どもと一緒に楽しむくらいでいいと思うんですよね。僕自身は、子どもと一緒に創る授業のことを考えていると、「どんな姿を見せてくれるんだろう」とすごくワクワクするんです。
自分のテンションが上がらないものを無理して取り組んだところで、なかなかうまくいきませんから、まずは親も自分の好きなことをする。好きなことなんてない……という方は、それを探す時間にする。
そうすれば、少なくとも子どもの行動にあれこれ口を出して、「主体性が出ちゃう」のを邪魔することはなくなるんじゃないでしょうか。
──学校の子たちも「おおくぼっちはハイテンションで学校が楽しい」と言っていました。先生自身がワクワクしていることも、子どもが「楽しそう! やりたい」という気持ちになる理由の一つかもしれません。
第3回では、子どもの主体性を考える上で意見が分かれる「宿題」についてうかがいます。
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【大窪昌哉(おおくぼまさや) プロフィール】
大学卒業後、一般企業の経理部に7年間勤務し、小学校の先生になるため30歳で退職。通信大学で小学校の教員免許を取得して、逗子市内の小学校にて教員人生をスタート。2024年度から葉山町立上山口小学校に勤務。子どもたちと学びを楽しみ、みんながいきいきとした素敵な時間や場を共創するために、さまざまな学びの場へ参加している。
取材・文 川崎ちづる
【現役教員に聞く 子どもが主体的になるヒント】の連載は、全4回。
第1回を読む。
第3回を読む。
第4回を読む。
※公開日までリンク無効
川崎 ちづる
ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。
ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。
大窪 昌哉
大学卒業後、一般企業の経理部に7年間勤務し、小学校の先生になるため30歳で退職。通信大学で小学校の教員免許を取得して、逗子市内の小学校にて教員人生をスタート。2024年度から葉山町立上山口小学校に勤務。子どもたちと学びを楽しみ、みんながいきいきとした素敵な時間や場を共創するために、さまざまな学びの場へ参加している。 ※写真:竹花康
大学卒業後、一般企業の経理部に7年間勤務し、小学校の先生になるため30歳で退職。通信大学で小学校の教員免許を取得して、逗子市内の小学校にて教員人生をスタート。2024年度から葉山町立上山口小学校に勤務。子どもたちと学びを楽しみ、みんながいきいきとした素敵な時間や場を共創するために、さまざまな学びの場へ参加している。 ※写真:竹花康