「探究学習」の「超シンプルな実践法」 第一人者が保護者・教師に伝授! 

【今こそ学力観のアップデートをするとき】親子で探究実践#1「Feel度Walkとは?」

「Feel度Walk」で発見した看板を、楽しそうに見つめる子どもたち。  写真:市川力

「この看板なんで英語なの?」「フライドチキンを食べにくる外国人向けなのかな! おもしろい!」など、お互いの「発見」をシェアするたびに、次々に歓声が上がります。

これは、「Feel度Walk」というイベントでの光景。大人も子どもも関係なく、お互いが発見したものに驚いたり感心したりしながら、感想を共有していきます。

今、この「Feel度Walk」が、学校や子育てサークル、自治体などさまざまな場所で広がっています。

「ただ歩いて気になるものの写真を撮り、それを絵に描くだけ」というこの活動ですが、体験してみると楽しくて、自分でも続ける人が続出。そして、文部科学省も推進する「探究的な学び」にもつながっているといいます。

「Feel度Walk」の生みの親であり、長年に渡って実践に携わってきた探究学習の第一人者である市川力さんに、その取り組み内容や効果、「Feel度Walk」を通して見えてきた「探究的な生き方」をするために必要な姿勢などをうかがいました。


※全5回の第1回

◆市川 力(イチカワ チカラ)
一般社団法人みつかる+わかる代表理事/慶應義塾大学SFC研究所上席所員
東京コミュニティスクールの初代校長として、長年、小学生を対象に探究力を育む学びを研究・実践。現在は、全国各地の小・中・高校に赴き探究学習の支援をするとともに、地域の多様な人たちがともに好奇心を発揮できるような、学び場づくりを行っている。

10年以上の実践で実感した探究の効果

市川力さんは、2004年から2017年春まで、東京コミュニティスクール※(以下、「TCS」と表記)という従来の学校教育の枠にはまらない学びを行うマイクロスクールで、子どもたちと一緒に探究学習を実践されてきました。具体的には、どのような学びを行っていたのでしょうか。

「東京コミュニティスクール(TCS)」
東京・中野区にある、小学生・幼児を対象とする全日制マイクロスクール。少人数ならではの安心感・信頼感の中で、探究的な学びなどの先進的なカリキュラムを実践している。

「TCSでは、あるテーマを設定して、5~6人のグループで実生活や社会とつながりのある課題に取り組んでいました。一例を紹介すると、東京の街を実際に自分たちで歩き回り、インタビューなどをしながら『東京らしさ』を探り、当時交流していた九州の小さな小学校の子どもたちに、東京を紹介するガイドブックを作る、といったものです。

実際にTCSの子どもたちが街を歩き、インタビューしている様子。  写真:市川力

そこに僕も一緒に入り込んで、子どもと同じ立場で探究するんです。僕は子どもたちに『おっちゃん』と呼ばれていて、何かを教える『先生』という立場ではなく、大人だけど子どもたちと一緒に夢中になって本気で課題を追い求める、『探究する同志』のような存在で関わっていました」(市川さん)

そうした実践を継続する過程で、市川さんは探究学習の効果を何度も感じました。

「TCSでは、学校の外に出ていって、現地を歩いたり人に話を聞いたり、実物を見たりする『実体験』を重視していました。その中で、子どもたちが自分でさまざまなことに気づき、対話をしながら深めていきます。

こうした体験から、子どもたちは『自分にも発見できるんだ』『発見したことから学ぶっておもしろいんだ』と実感していきます。そうすると、最初はあまり話さなかった子でも、どんどん心を開いていき、自信が出てくるんです。

子どもたち同士で対話しながら、探究を進めます(TCSでの学びの様子)。  写真:市川力

表情が変わり、全力で学びに向かい合っている姿を見て、僕は『探究的な学びは、すべての子どもに必要なものだ』という想いを強くしました。それで、TCSに通える子だけでなく、より多くの子どもたちに探究を広げるために、新しい活動を始めることにしたんです」(市川さん)

探究のカギは「課題を自分ごとにできるかどうか」

市川さんは、2017年に12年間校長を務めたTCSを離れ、探研移動小学校という学び場づくりを始めました。この活動が広まってきたので「みつかる+わかる」という法人を設立します。そこで行っているのが、「Feel度Walk」と呼ばれる活動です。冒頭でも紹介したこの手法を、市川さんはこう説明します。

「約1時間ほど身近な場所、あるいはごく普通の何の変哲もない場所を歩いて、なんとなく気になったものを写真に残します。『なんとなく気になったもの』というのは、ただちょっと不思議だと思ったものや興味を惹かれたもの、そんなレベルです(笑)。それらをスマホやカメラで写真に撮っていきます。

「Feel度Walk」で地面に落ちているものを真剣に見つめる子どもたちと市川さん。  写真:市川力

その後、写真の中から1枚を選んで、模造紙にスケッチしてもらうんです。これだけだから、本当に、どこでも、誰にでもできちゃうんですよ!」(市川さん)

ニコニコしながら楽しそうに語る市川さんですが、ただ歩いて気になったものを記録し、絵に描くだけで「探究的な学び」になると言われても、ピンときません。どういうことなのでしょうか。

「ここ数年、『探究』が広く一般的に知られるようになって、先生だけでなくいろいろな人が興味を持つようになりました。すごく感慨深いけれど、なんだかうまくいかない、と相談を受けることも増えたんですよね。

それで、自分なりに『子どもたちと一緒に何かをくわだてていく探究的な学び』を捉え直してみたら、どうも『プロセス』ばかりに気を取られてしまっていて、一番大切なところが抜け落ちてしまっているんじゃないかと感じたんです。

文部科学省が示しているように、探究学習の流れを表すと、『課題の設定→情報収集→整理・分析→まとめ・表現』というものになると思います。でも、単にこの順番どおり行えばうまくいく、というものではありません。

出典:『小学校学習指導要領解説 総合的な学習の時間編』(文部科学省、平成29年7月)より抜粋

探究的な学びで最も重要かつ難しいのは、テーマをいかに自分ごととして捉えられるか、というところ。探究学習のプロセスでいうと、最初の『課題の設定』の部分なんです。

現在の学校の実践でよくあるのは、『興味・関心のあることから課題を設定しましょう』というものですよね。だけど、これは子どもたちにとって、かなりハードルの高いことだと思います。だって、今までの学校生活ではずっと、『○○を勉強します』『そっちはやってはいけませんよ』という具合に、自分の興味や関心、好奇心を制限する方向で指導されてきたわけですから。

なのに突然、『何でもいいから興味のあることを課題にしてごらん』と言われても、正直困ってしまう……というのが現状じゃないでしょうか。課題の設定は先生が行う場合もあるでしょうが、それでも自分の目で見て体感したものからスタートしていないので、実感が湧かずにどこか他人ごとになってしまいます。

だから、課題を自分ごととするための、『ベースの部分』を育てていくことが大切なんです。それを行っているのが、『Feel度Walk』です」(市川さん)

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