
【区立西新宿小学校】通知表・単元テスト・宿題廃止から2年 「子ども主体」へ変わった学校に「適度なぐだぐだ」が必要なワケ
学校の「当たり前」を考える 西新宿小学校の改革 #4 子ども主体の授業・行事
2025.05.20
新宿区立西新宿小学校校長:長井 満敏
小学校にはもっと「ぐだぐだ」が必要
2024年度にテーマ学習を導入したことで、長井先生が改めて認識した課題がありました。
「子どもが一定数集まって学習すると、僕も含めて先生方はどうしても『まとめよう』『そろえよう』としてしまいます。学びの過程でも成果でも、手を加えてある程度足並みをそろえなきゃいけない、という意識が働くのです。
だけど、そこをもっと子どもに委ねていく必要がある。先生が指導してしまうと、結局子どもたちの主体性は出てこなくなりますから」(長井先生)
学びのコントローラーを子どもに手渡すために今の公立小学校に必要なのは、「見栄えよく『整える』から卒業し、適度な『ぐだぐだ』を認めること」がポイントになるといいます。
「ぐだぐだ」と聞くとあまりよいイメージを持てませんが、どういうことなのでしょうか。
「そもそもこれまでの『ピシッとそろった状態』は、大人が子どもにやらせていたことにすぎません。それを基準にしていたら、子ども主体に切り替えるのは難しいのです。
大人にはぐだぐだに見えても、子どもなりに試行錯誤しているもの。すぐに判断しないで見守ること、子どもたち自身が考えて選んだ結果を尊重することが求められています」(長井先生)
行事も子ども主体に
学校内で「そろえる」「整える」意識が働きやすいのは、行事です。西新宿小学校では、2025年度は行事を大きく変える予定だといいます。
運動会にあたるスポーツフェスティバルでは、競技を完全選択制にし、個人種目もしくは団体競技の中から一人2種目出場するルールを採用します。
「これは、先生たちから出てきたアイデアです。2024年度も個人種目(60m走、100m走、障害物走)は選択制にしていましたが、全員走らなくてもいいのではないかという意見が挙がりました。
確かに走るのが苦手な子にとっては、短距離走は苦痛ですよね。そういう子は団体競技に2つ出てもいい。反対に、個人種目のみの出場でもいいわけです。子どもたちの選べる幅が広がり、自由度が上がりました」(長井先生)
西新宿フェスティバル(学芸会)でも、それぞれの学年が発表内容を児童と話し合って決めることになっています(2024年度までは教員が検討した作品を発表)。
西新宿小学校の「子ども主体」は、学習だけでなく行事へと広がり、子どもたちや先生の意識を着実に変えているようです。
過渡期の学校には失敗もある
学校が変化していくためには、地域や保護者の理解が必要不可欠だと長井先生は話します。
「教育が過渡期にある今、学校は決して万能ではありません。新しいことに挑戦すれば、小さな失敗はあります。
ですが、人も組織も『失敗したからもうダメ』なのではなく、そこから学んで成長していけるかが大切なはず。そのために、『小さな失敗はあってもいい』という見方をしてほしいのです。
失敗に対する寛容な姿勢が、子どもたちにとってのびのびと過ごせる学校の基礎となります」(長井先生)
さらに、保護者に対しては、「子どもが通う学校の教育方針に疑問がある場合は、直接伝えてほしい」とも。
「今現在、画一的な教育を行っている学校はまだまだ多いです。そうした状況を変えるためには、学校の外から声をあげてもらうことにも大きな意味があります。さまざまな場所から行動することで、少しずつ教育が、そして社会が変わっていくのではないでしょうか」(長井先生)
通知表、単元テスト、宿題の廃止に対しては、子どもの基礎学力に影響はないのかといった意見も多く、賛否が分かれるテーマです。
しかし、長井先生が訴えるように、「もっとできるようにしなくては」という学校側の圧力が子どもを苦しめていると考えれば、それをつくっている大人こそ変わらなくてはなりません。
子どもがすでに持っているよさを大切にすること。存在そのものを認めていくこと。その先に、誰もが自由に生きられる社会があるのではないでしょうか。
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【長井満敏(ながいみつとし) プロフィール】
東京都公立学校教員、指導主事などを経て新宿区立西新宿小学校校長に就任。専門は学校経営、理科教育。子どもたちの「学びたい」を育む教育を目指している。
取材・文 川崎ちづる
【学校の「当たり前」を考える 西新宿小学校の改革】の連載は、全4回。
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※公開日までリンク無効

川崎 ちづる
ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。
ライター。東京都内で2人の子育て中(2014年生まれ、2019年生まれ)。環境や地域活性化関連の業務に長く携わり、その後ライターへ転身。経験を活かし、環境教育や各種オルタナティブ関連の記事などを執筆している。WEBコラムの他、環境系企業や教育機関などのPR記事も担当。
長井 満敏
東京都公立学校教員、指導主事などを経て新宿区立西新宿小学校校長に就任。子どもたちの可能性を最大限に引き出すことに情熱を注ぎ、2023年度からは通知表、単元テスト、宿題を廃止するなど、大胆な学校改革を推進。専門は学校経営、理科教育。子どもたちの「学びたい」を育む教育を目指している。
東京都公立学校教員、指導主事などを経て新宿区立西新宿小学校校長に就任。子どもたちの可能性を最大限に引き出すことに情熱を注ぎ、2023年度からは通知表、単元テスト、宿題を廃止するなど、大胆な学校改革を推進。専門は学校経営、理科教育。子どもたちの「学びたい」を育む教育を目指している。