
『どしゃぶりのひに』全ページ無料公開!【「あらしのよるに」全7巻 全ページ試し読み】380万部の国民的ベストセラー 20年ぶり“奇跡“の新シリーズが3月12日スタート!
「あらしのよるに」シリーズより『どしゃぶりのひに』を全ページ無料公開!
2025.03.10

そろそろと がけを おりはじめる 二ひきを、
たくさんの どうぶつたちの めが じっと みつめていた。
きたの おかには オオカミたちの むれが、にしの はやしには ヤギたちの むれが、
そして、リスや サルたちに、そのうわさを きいた もりじゅうの どうぶつたちが
二ひきを とりかこむように かくれていたのだ。
「たにがわに いくのは はじめてですよ。」
「そうっすか。おいらは たまに いきやすよ。」
ガブの からだが ちかづくと、メイは どきっと した。
そんな メイを みる ガブの めが、おもわず ひかった。

二ひきが がけを ずるずると おりていくと、しげみや こかげ、きのはの なかに
かくれている どうぶつたちも、ザザッザザッと、あとを おうように うごいていった。
「こっちの ほうが あるきやすいっすよ。」
「そうですね。」
ガブが きたのほうを ゆびさして、メイが うなずく。
二ひきとも あいてに ききださなければ ならないことが なかなか いいだせない。
しかし、とりかこんだ どうぶつたちは それを みて、
「おお、オオカミが すみかを おしえているぞ。」
「いや、オオカミが ヤギの かくればしょを きいて、ヤギが うなずいたのさ。」
などと、ひそひそばなしに はなを さかせていた。
けわしい がけを おりるために、二ひきは みぎや ひだりに あんぜんな みちを さがした。
そのたびに、かくれている どうぶつたちも、しげみや こかげを ふるわせながら
ザザッザザッと ついていった。

二ひきが やっと かわらに ついたとき、ふいに ポツポツと おおつぶの あめが おちてきた。
かわいた いわに くろい てんが みるみる ひろがり、
たちまち どしゃぶりの あめに かわcつた。
ひそかに とりかこんでいた どうぶつたちも、ざわざわと あまやどりに おわれる。
ドウーッと たきのように おちてくる あまつぶの なかで
ガブと メイの あわてて かくればしょを さがした。
「あっ、あの おおきな いわの したに。」
「おっ、そうっすね、いきましょう。」
二ひきは いわから いわへ ぴょんぴょん とびうつる。
「きを つけて くださいよ。
あめで いわが ぬるぬる していますから。」
「そうっすね。かわに おちたら、この すごい ながれだ。
あっと いう まに ながされてちまう。」
と、そのときだ。

くろくもの なかで、いなずまが にぶく ひかった。
「ひっ。」
そのひょうしに メイが あしを すべらせた。
「あぶない!」
ガブが とっさに ささえる。
しかし、ガブの あしばも すべりやすい いわの うえだ。
「うぐぐ……。」
二ひきは ひっしに あいてを ささえあい、ふんばった。
「むむむぅ。」
ドウッと、やっとの おもいで、かわらに しりもちを ついた。
二ひきが めを あわせる。
ぬれて つめたく なった からだに、たったいま ともだちの ぬくもりを かんじた。
それは ほっとする あたたかさだった。

「ごめん、ガブ、じつは わたし、あなたの ことを……。」
メイが しぜんに くちを ひらいた。
「いや、じつは……おいらも……。」
ガブも いいかける。
でも、もう 二ひきに ことばは いらなかった。
「どうしやす、これから?」
メイが がけの うえを ゆっくりと みわたす。
「うーん……もう、ひみつじゃ なくなっちゃった みたいですねえ。」
「いくか、かえるか、どっちかっすよね。」
「わたしを たべて おわりって いうのも ありますけど。」
「ハハハ、それが できりゃ かんたんだ。」
二ひきが たのしそうに わらう。
「ここまで きたら、いくところまで いってみますか。」
「おいら、そのかくごなら、もう できてやすよ。」

二ひきが じっと みつめる さきに、ぼんやりと むこうぎしが みえた。
けれども、たにがわは どんどん いきおいを まして、
ゴーゴーと おとを たてている。
「じゃ、わたりましょうか。」
「ぜったいに、いきて、また あおうっす。」
“いち、にの、さん……”と、
二ひきが どうじに いわを けった。

みずしぶきが ちいさく あがる。
はげしい あめの カーテンが、もりじゅうの どうぶつたちの めから、
二ひきの すがたを しずかに けしさった。
……『大型版 あらしのよるにシリーズ(6) ふぶきのあした』へと続きます!