「子どもと一緒にいる時間が大切」東海オンエア虫眼鏡×『窓ぎわのトットちゃん』監督・八鍬新之介が語る「子どもとの接し方」

映画『窓ぎわのトットちゃん』公開記念スペシャル対談! 映画監督/八鍬新之介さん × 動画クリエイター/虫眼鏡さん【東海オンエア】 #2

小川 聖子

映画監督/八鍬新之介さん × 動画クリエイター/虫眼鏡さん【東海オンエア】

現在大ヒット公開中の映画『窓ぎわのトットちゃん』を手がけた映画監督の八鍬(やくわ)新之介さんと、小学校教諭の経験を持ち、読書家としても知られる大人気動画クリエイター・虫眼鏡さん(東海オンエア)との対談が実現。

「原作との出会い」や「人生を変えたひと言」についてお聞きした第1回につづき、第2回では、おふたりが育った環境や、令和の子どもたちに思うこと、子どもがトットちゃんのように「個性を開花させる」にはどうしたら良いかを伺いました。

テストで90点を取ったとしても、「100点を取りなさい」と言われる家でした(八鍬監督)

──虫眼鏡さんは小学校の教員をされていたわけですが、八鍬監督のご両親もともに教育関連のお仕事に就いていたと伺っています。おふたりは現在クリエーターとしての才能を開花させていますが、子どもの頃の環境や受けてきた教育について教えてください。

八鍬監督:
うちは厳しかったですね。たとえばテストで90点を取ったとしても、「100点を取りなさい」と言われるような家庭(笑)。小学生の頃は、それでもそこまで窮屈さを感じなかったのですが、中学生になるともう窮屈で窮屈で。高校に入った頃は「もう、勉強はいいかな」と思っていたので、バンド活動をしたりしていました(笑)。

虫眼鏡さん:トットちゃんの家とはだいぶ違ったんですね。

八鍬監督:そうなんです。だから、あんな自由な家庭には憧れがありますね。僕は、映画やテレビの『ドラえもん』シリーズも担当していましたが、まずのび太のような子ども時代を過ごしていないので……あんなふうに自由に振る舞えるのが羨ましいな、と思っていました。逆に出木杉くんみたいな、いわゆる勉強をしっかりしている子を見るとちょっと苦しくなって(笑)。

虫眼鏡:(笑)。うちも厳しい家庭ではありましたが、勉強に関しての負荷はそこまでかけられなかったですね。進学校に通って、教育大学に行って、学校の先生になって……というコースでしたが、それは僕がただただ頭が良かっただけなので(笑)。先生はすぐ辞めちゃいましたが。

八鍬監督:いろいろな家庭がありますね。トットちゃんの家は、お父さんが芸術家でお母さんは随筆家。周りの目を気にして、トットちゃんに厳しくするような親ではなかったと聞きました。

虫眼鏡:そうですよね。原作を読んでいると、トモエ学園に通っている子どもたちの家庭は多かれ少なかれ、なかなかに自由というか、型破りというか、そんな印象はありますが……。

▲映画『窓ぎわのトットちゃん』より。トットちゃんと泰明ちゃん (©黒柳徹子/2023 映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会)

八鍬監督:確かにそうです。例えば、映画にも登場する泰明(やすあき)ちゃんという子は、ポリオ(小児麻痺)によって障がいを抱えていました。当時はその病名や症状も広く知られていませんでしたし、どのように教育を受けさせるかについても判断が難しい時代だったと思います。

それが、泰明ちゃんの家は、お父さんが自分でトモエ学園を見つけてきてたということでしたので、すごく良い家庭だったんだなと思います。ただ当時は、みんながみんな、そんなふうにできたわけではないと思うので……。

トットちゃんの場合も似ていて、小学校を退学になってしまうような子を「個性的」と捉えるか、「情けない」とネガティブに捉えてしまうのか。大人の捉え方で、子どもの人生は大きく変わっていくと思います。

虫眼鏡:親がおおらかに構えて、「この子に何があるかな?」と面白がって見る、みたいな視点はきっと大切ですよね。きっと誰にも、ユニークな個性といういか、トットちゃん的なところはあって……だからそれを大人がうまく、早く見つけてあげられたらいいですよね。「どこに出しても恥ずかしくない子にしよう」とかじゃなくて。

八鍬監督:そうだと思います。

楽しそうな大人の姿を見て 自分もそうなりたいと思った(八鍬監督)

虫眼鏡さん:それでいうと、八鍬監督は勉強に関してはやや厳しいご家庭から映画監督になるのに、何かきっかけになったことはあったんですか。

八鍬監督:僕が映画監督になったのは……もともと父は映画が好きな人だったので、家族で映画を見る時間がすごく多かったことがひとつ。一方、母は子どもの頃から寝る前によく本を読んでくれていたんですね。アンデルセン童話やグリム童話……それで、読み聞かせのあいだ、僕は頭の中でその本の世界をずっと想像していたわけです。人魚姫ならこんな海の中でこんな感じで……って。だからきっと、もともと何かを想像するのが好きだったことが、この仕事についた一番大きな理由だったと思います。

虫眼鏡さん:ご自身の中にもともとそんな「芽」があって、その後の出会いで開花させていったという感じでしょうか。

八鍬監督:そうですね。最初は音響の仕事に就きたくて、日大の芸術学部を目指したのですが、たまたま音響コースとは別に映像コースみたいなものがあって、「こっちの方が面白いかな」と、そちらに進んだのもきっかけですね。その後、今の会社に入社して、渡辺歩さんをはじめ、師匠と呼べる監督さんや先輩、仲間たちに出会って。

やっぱりそこで、大人が本気で映画を作っている、ときには夜通しで働きながら仕事をしているという姿を目の当たりにして。キツいときはもちろんあるのですが、みんな本当に楽しそうで、自分がそうなりたいと思って努力した……というのが経緯でしたね。

それこそ前回虫眼鏡さんが、リーダーのてつやさんの言葉がきっかけで第二の人生が始まった、とおっしゃっていたみたいに、大人になってからも、自分を認めてくれたり、目標になる人に出会えたことは大きかったと思います。

虫眼鏡さん:僕がてつやに「面白い」と言われたように、誰かに「おまえは本当はいいやつなんだよ」「これができるよ」みたいなことを言われると、どんどんスイッチが入るということですよね。

八鍬監督:人って本当にそうだと思います。大人になってからもそうなんですよね。

ただただ一緒にいる時間が 大切な気がします(虫眼鏡さん)

──おふたりの子ども時代についてお伺いしましたが、『ドラえもん』シリーズなどを手がける八鍬監督も、動画クリエイターとして活躍する虫眼鏡さんも、子どもたちとは日々向き合っているかと思います。今の子供たちを見て気がつくことや思われることはありますか。

八鍬監督:
どうでしょう。うちには7歳と5歳になる子どもが居ますが、よりいろいろな子どもたちとコミュニケーションがあるのは、虫眼鏡さんのほうかなと思います。いかがですか?

虫眼鏡さん:そうですね。ただ僕自身も平成生まれなので、「昔こうだった」みたいなことは正直わからないんですよ。ただ、今の子どもたちには、大人の都合で振り回されることが多いんじゃないかな、ということは感じています。学校や保育園に「子どもの声がうるさい」と苦情が入るような時代って……昭和が子どもファーストだったかはわかりませんが、少なくとも今が子育てにいい時代だとは思いません。

八鍬監督:確かに、あまり自由に外で遊べない、ということを聞くことはあります。

虫眼鏡さん:そのようですよね。映画で僕が好きだったエピソードは、トットちゃんが汲み取り式トイレに落としたお財布を探して、中身をひしゃくで掘り出すシーン。それに気づいた校長先生が、「あとで戻しとけよ」とだけ言い残すっていう。

虫眼鏡さん:その言い方も、映画では「今からいいこと言うぞ」じゃなくて、本当に普段からそんな感じの人、言い慣れている人という感じがしてすごくよかったです。それに関わり方も……うんこ掘り出している子なんて、普通ならダメでしょ(笑)。そもそも臭いだろうし。

でも、満足するまでやらせてあげるってことも大切で、それで気が済んだら次に行ける、と言うのはあると思います。

八鍬監督:おおらかですよね。

虫眼鏡さん:はい。こんなふうに見守る時間や余裕があるというのは、やっぱりいいことなのかなって。自分が教員をしていたときは……もちろん例外はありますし、一概にはいえないのですが、やっぱり親御さんが子どもと一緒にいる家庭の子は、成績が安定しているという印象があって。反対に、親御さんが忙しくてあまり家にいない子というのは成績も伸び悩むというか。

今は、子どもを習い事に通わせたり、YouTubeを見せたり、家庭以外のところに子どもを預ける時間が長いと思うんです。子どもの成長のためという部分もあると思いますが、僕はなんとなく、ただただ子どもと一緒にいる時間、それがどれだけ取れるかっていうのは、やっぱりひとつ大切なんじゃないかなと思います。

僕にはまだ子どもがいないのですが、いつか僕が子どもを持つときは、一緒にいられる時間が取れるタイミングだといいな、とは思っていて。まぁ、実際はいろいろ大変だとは思いますが。

▲トットちゃんに寄り添い、伸び伸びと育ててくれたママとパパ(©黒柳徹子/2023 映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会)

八鍬監督:そうですね……自分は正直言って、子どもと過ごす時間はとても少ないんです。もちろん映画の制作がないときは、なるべく一緒にいるようにしていますが、偉そうなことを言えるほど、一緒に過ごせてないんですね。

それでも、今、虫眼鏡さんがおっしゃった「一緒に過ごす時間」は、ものすごく大切な気がしています。膝の上に乗せて本を読んだり、ちょっと触れ合って一緒に遊ぶ、みたいなことはきっとすごくすごく大切なんだろうなって。その時間の中で、「あなたのことが好きなんだよ」が伝われば、まっすぐ育つような気はします。なかなかできていないけれどそんなふうに思います。

虫眼鏡さん:そうですか、やっぱり八鍬さんも子どもと一緒に過ごす時間を確保するのは難しいんですね。

八鍬監督:ただ、子どもに「好きだよ」っていうのはすごく伝えるようにしています。そこは自分は恥ずかしがらずに。なるべくしっかり伝えようと、心がけているところはあります。

【映画『窓ぎわのトットちゃん』を手がけた映画監督の八鍬新之介さんと、小学校教諭の経験を持ち、読書家としても知られる大人気動画クリエイター・虫眼鏡さんとの対談は全3回。『窓ぎわのトットちゃん』との出会いについてお聞きした第1回、お二人の子ども時代と、子どもの個性の伸ばし方についてお聞きした第2回に続き、第3回ではクリエイターとしてのご活動についてお伺いします。】

Profile

八鍬新之介(やくわしんのすけ)映画監督:1981年生まれ。北海道出身。2005年シンエイ動画に入社し、テレビアニメ『ドラえもん』の制作進行、絵コンテ、演出などに携わる。2014年『新・のび太の大魔境〜ペコと5人の探検隊〜』で劇場監督デビュー。近年の監督作品に、『映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』、『映画ドラえもん のび太の月面探査記』ほか。

虫眼鏡(むしめがね)【東海オンエア】動画クリエイター:1992年9月29日生まれ。愛知県出身。愛知県岡崎市を拠点に活動する6人組動画クリエイター「東海オンエア」のメンバー。動画内の概要欄をまとめた著書「東海オンエアの動画が6.4倍楽しくなる本」を2018年に出版し、その後同シリーズを立て続けに出版。東海ラジオでのレギュラー番組「東海オンエアラジオ」ではゆめまると共にメインパーソナリティを務めている他、「東海オンエア虫眼鏡・島﨑信⻑ 声YouラジオZ」のレギュラー出演など積極的にラジオ活動も行っている。

取材・文/小川聖子
撮影/水野昭子

©黒柳徹子/2023 映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会

映画『窓ぎわのトットちゃん』
全国東宝系にて公開中


出 演:大野りりあな 小栗旬 杏 滝沢カレン / 役所広司 他
監督・脚本:八鍬新之介
共同脚本 :鈴木洋介
キャラクターデザイン:金子志津枝
制 作:シンエイ動画
原 作:「窓ぎわのトットちゃん」(黒柳徹子 著/講談社 刊)

<新しい学校の門をくぐる前に、トットちゃんのママが、なぜ不安なのかを説明すると、それは、トットちゃんが、小学一年生なのにかかわらず、すでに学校を退学になったからだった。一年生で!!>
女優・ユニセフ親善大使である黒柳徹子さんが自分自身の小学生時代をえがいた『窓ぎわのトットちゃん』。徹子さんが子ども時代に出会った、小林宗作先生とトモエ学園での思い出をいきいきと描いた本作は、1981年3月に刊行され、たちまちベストセラーとなりました。
現在までの累計発行部数は日本国内で800万部、全世界で2510万部を突破。20以上の言語で翻訳もされ、日本だけでなく世界中の人々の心を捉え、時代も国境も超えたロングセラーとして、今もなお世代を超えて愛され続けています。
小林宗作先生が作ったトモエ学園のユニークな教育と、そこに学ぶ子どもたちの姿を描いた本書は、「こんな学校に通いたい!」「こんな先生と出会いたい!」と、令和のいまも人々のあこがれの気持ちをかきたてます。

映画 窓ぎわのトットちゃん ストーリーブック(黒柳徹子/原作、 八鍬新之介/監督・脚本、鈴木洋介/共同脚本)

2023年12月8日公開のアニメ映画「窓ぎわのトットちゃん」のストーリーブック。読みやすい文章と約160点のアニメ絵で、映画の内容をたどることができます。すべての漢字にふりがながついていて小学校低学年からひとり読みできるのはもちろん、読み聞かせにも向き、親子で楽しめる構成です。美しい絵を生かしたブックデザインは、映画を見たあとも保存しておきたくなるクオリティ!
<すべての漢字にふりがなつき>

東海オンエアの動画が6.4倍楽しくなる本・極 虫眼鏡の放送部エディション(虫眼鏡/著)

いまや全世代に人気のカリスマ動画クリエイターグループ「東海オンエア」。活動10周年を迎え、700万人に迫る勢いのトップクリエイターの頭脳として活躍する虫眼鏡氏。チャンネル登録者70万人を超える虫眼鏡氏の個人チャンネル「虫眼鏡の放送部」に寄せられた視聴者からのお便りとその回答をまとめたファン待望の1冊。
東海オンエア活動10周年を迎えた心境を語る書き下ろしエッセイも掲載!

おがわ せいこ

小川 聖子

Seiko Ogawa
ライター

東京都出身。アパレル系企業に勤務したのちライターに。雑誌やWeb系メディアにてファッション関連記事や人物インタビュー、読み物記事の構成や執筆を行う。長男はついに成人、次男は中学生に。1日の終わりに飲むハイボールが毎日の楽しみ。

東京都出身。アパレル系企業に勤務したのちライターに。雑誌やWeb系メディアにてファッション関連記事や人物インタビュー、読み物記事の構成や執筆を行う。長男はついに成人、次男は中学生に。1日の終わりに飲むハイボールが毎日の楽しみ。