「もっと肩の力を抜いてもいい」日韓の子育て事情を知るMina Furuyaさんが共感した韓国の先輩ママの言葉

がんばるお母さんに読んでほしい、一杯のコーヒーのような一冊『完ぺきなお母さんなんていないよね』翻訳:Mina Furuyaさんインタビュー【後編】

「騙されたと思った」という言葉に気づかされた親の役目

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Mina 「きれいな木だと思ったら、枯れ木にツル植物がまきついて、花が咲いていただけだった」というエピソードから始まる「騙されたと思った」には、次のように書かれています。

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親がいくら華やかなスペックをつけてくれても、
高く払った塾の力でも、
試験に出る問題の的中率が高いといわれる
有名な先生をつけてくれても、
友だちをつくってくれても、
お金がかかるスポーツを趣味にさせてくれても……
自らの生命力がない子は、すぐに限界を迎えてしまいます。

よく見ると。よくよく見ると。

(『完ぺきなお母さんなんていないよね』 イ・ジヨン/著 Mina Furuya/訳 PIE Internationalより、「騙されたと思った」の一部引用)
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Mina 親がいくらがんばって子どもにいろんなスペックをつけても、親の力がなくなった瞬間に子どもの本当の姿が見えてくる。親は、いつまでも子どもといっしょに生きてはいけない。本当に自分の力でがんばらせるためにも、手をかけすぎないでというメッセージで、私自身が今、本当にそれを実感しています。

「騙されたと思った」は、本書の最終章「ちゃんと育てて送り出す」の冒頭にある一節。最終章は全部好きな話ばかりで、何回も繰り返し読みました。「ちゃんと育てて送り出す」のは、なかなか難しいですよね。

イラスト・ソンハイ 『完ぺきなお母さんなんていないよね』(イ・ジヨン/著 Mina Furuya/訳 PIE International)より抜粋

──日本の教育でも「生きる力」を育てる方向性が打ち出されていますが、では実際にどんなことをして子どもを育てたらよいかは、まだ手探り状態です。社会の変化も早く、親世代の価値観では通用しないこともたくさん出てきました。今、日本で子育てをしているMinaさんが心がけていることはなんですか?

Mina 我が家は夫婦ともに会社員ではなく、クリエイターとして自分たちで考えながら仕事をしていかなければならない環境です。だからこそいろんな道が選べるように、小さなころからいろんな体験をたくさんさせたいなと思いました。それは、私自身の体験が大きく影響しています。

私の両親は音楽が好きで、子どもの頃、家ではいつも音楽がかかっていました。ピアノが好きだった母は、3人の子どもたち全員にピアノだけは絶対に習わせようと思い、その通りにしました。そういう影響を受けて、自分も音楽が大好きになり、ピアノを生かしてミュージシャンになりたいと、大学受験前に親に相談したのですが、親の反応が衝撃的だったんです。

夢に関わる仕事はたくさんある

──「ミュージシャンになりたい」と伝えたときのご両親の反応は?

Mina 「音楽では食べていけないから、趣味にしておきなさい」「仕事をするなら、安定した職業にしなさい」でした。

──正論ではありますが、言われたほうはなかなか納得できない理由だと思います。

Mina 私も納得できませんでした。そんな親への反発心があって音楽大学に進学し、ジャズピアノを専攻してシンガーソングライターになりました。自分なりにとてもがんばりましたが、やはり売れる音楽家になることばかりを目標にすると、なかなか難しいのです。

だから大好きな音楽の世界に飛びこんだのに、ずっと「成功できなかった」という敗北感で苦しんでいました。今思えば、音楽に関わる仕事は歌手のほかにも、音楽教師やスタジオミュージシャン、音響制作などいろいろあって、今の時代だと、音盤を出さなくても自分で配信できるなどいろんな道があり、音楽を通じて仕事をしながら「幸せ」とまでは言えなくても、満足出来る人生を歩む道はいくらでもありますよね。

でもあの時、公務員だった私の親からは、そのような職の多様性や、いろんな世界があることを教えてもらえなかったのです。もし、あのとき親が「音楽はダメ!」ではなくて、「なんでもいいから、好きな音楽をあなたの性格に合わせて、どんなふうに活用して、いろんな人と人間関係を作りながら仕事に繋げられるか、いっしょに考えてみよう」と言ってくれたなら、音楽というものがただ戦って手にいれるものではなくて、自然と職に結びつき、より気楽に音楽の仕事に取り組めたのではないか? と思うわけです。

だからこそ自分の子には、すごいサポートはできないけれど、こういう道もある、こんな関わり方もできると子どもといっしょに考えて、教えてあげられたらいいなと思いました。それが、私のやりたい子育てなんだって。

夫の古家正亨さんとは、仕事も子育ても二人三脚だというMinaさん。優しく明るい笑顔から、毎日を楽しんでいる様子が伝わってくる 撮影:講談社写真映像部

Mina 小学2年生になった子どもに今の「将来の夢」を聞くと、やはり、親の仕事の影響を受けたからなのか「DJかMC」って言うんです。すると夫が「大変だから、やめた方がいい(笑)」と冗談で言うのですが、真剣に相談されたら、こんなふうに伝えたいです。

「将来、ラジオという媒体がどうなるかわからないけれど、ラジオと同じように自分の気持ちを発信できるツールはほかにもいろいろあるよね? 自分の適正はどこにあるのかをよく考えて、今からそれをいろいろ試したり、メディアやMCに関わる仕事を調べてみるのはどうかな? 自分の力で食べていくのは本当に大変なことだから、逆になにをすれば食べていけるのかという方向から考えて、なんでもいいから好きなものと関わる仕事から始めたらいいよ」と。気づいたら私自身も、いろんな経験を経て、結局は音楽も教室の中に取り入れたりと、仕事に繋げて充実に暮らしているから。

──ありがとうございました。最後に読者へのメッセージをお願いします。

Mina まずはこの記事を読んでくださり、ありがとうございます。『完ぺきなお母さんなんていないよね』を通してみなさんに伝えたかったことは、完ぺきではなくてもいいということ。どうしたらいいかわからない不安もありますが、基本は「自分の信念を持つ」ということ。

本書は子育てしている人だけでなく、子育てを卒業した人や出産を控えている人のほか、どなたでも共感できるようなことが書いてあります。一節3ページくらいで読みやすいので、いろんな方に読んでいただけるとうれしいです。

『完ぺきなお母さんなんていないよね』 イ・ジヨン/著 Mina Furuya/訳 PIE International
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みな ふるや

Mina Furuya

Mina Furuya
アーティスト

韓国・ソウル出身のアーティスト。2006年にシンガーソングライターとしてデビュー。結婚を機に東京に拠点を移す。現在は子育てをしながら韓国絵本の翻訳や料理本・エッセイの執筆活動をする一方、韓国料理など韓国カルチャーに関するさまざまな教室を主宰する。

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韓国・ソウル出身のアーティスト。2006年にシンガーソングライターとしてデビュー。結婚を機に東京に拠点を移す。現在は子育てをしながら韓国絵本の翻訳や料理本・エッセイの執筆活動をする一方、韓国料理など韓国カルチャーに関するさまざまな教室を主宰する。