読書習慣のない子どもを本好きに 「親も一緒に読む」 学校司書のアイディア

インタビュー 児童書のソムリエ・学校司書に聞く 読書の“仕掛け”

ライター、翻訳家:金 香清

写真:アフロ

コロナ禍と猛暑で外出もままならないが、家で子どもが動画配信を見たり、ゲームで遊んだりしてばかりいると、「本でも読みなさい」と苦言を呈したくなるもの。

しかし「本を読みなさい」と言って、素直に読書する小学生がどれくらいいるだろうか。むしろその一言で、読書への抵抗感を増すことにはなっていないだろうか。

学校司書歴18年の横山寿美代先生は「親子で一緒に読書してください」と提案する。学校図書館での取り組みから、親も子も楽しく読書できる、“仕掛け”についても教えてもらった。 ※横山寿美代(よこやま すみよ)。学校司書歴18年。任意団体・学校図書館プロジェクトSLiiiC代表。白百合女子大学非常勤講師。

読書は「生きる力」を育む

――そもそも子どもに読書はどうして必要なのだと思いますか? 現代では、例えば映像からも有用な情報を得ることができます。

読書は学習の基本となるとよく言われています。それもありますが、私はそれ以前の「生きる力」を育むものだと感じています。「本を読む力」に必要なのは、「文字を読む力」に限りません。読書は文章を読んで自分なりに内容を噛み砕き理解することによって、それを知恵にして、力にしていく行為ですから。

もちろん、本を読まなくても生きて行くことはできます。しかし、文章を読んで自分のものとして理解する能力を身につけるかつけないかで、人生は大きく左右されると思います。

映像や漫画など視覚重視のメディアからも、物語を理解する能力を身に着け、知識を得ることはできますし、それも大事なことです。しかし本は文字がメインです。私たちは本を読みながら、目に見えていないものを想像します。主に視覚で理解する映像や漫画とは、得られる能力が異なるのです。

家庭でもできる「米国式読書指導法」

――子どもに読書習慣をつけさせるために、よい方法はありますでしょうか。学校図書館での経験から何かアイディアがあれば教えてください。

児童に読書の楽しみを知ってもらうには、仕掛けも必要だと思います。学校図書館の経験上、とても有効だった方法にリテラチャーサークル(Literature circles)というものがあります。

リテラチャーサークルとは、1990年代~2000年代にかけて米国で盛んになった読書指導法です。日本では新潟大学教育学部教授の足立幸子氏が紹介し、学校図書館関係者のあいだで評判になりました。

簡単に言うと「役割のある読書会」で、教師や学校司書などがいくつかの本を紹介し、児童はそこから読みたい本を選び、同じ本を選んだ子どもたちが一つのグループになります。

時間とページを決めてグループで一斉に読むのですが、この読書指導法のポイントは、読書後の発表の役割分担をするところです。印象に残った言葉を引用して紹介する「言葉屋」、読んで頭に浮かんだ絵を描く「イラスト屋」、読んで思い出したことを話す「思い出し屋」、など、感想を語るだけに止まらないのが、大人の読書会と異なる点です。

本を読んだら、それぞれ分担されたことをワークシートに書き、グループ内で発表し、メンバー内で意見を交換します。誰かが「思い出し屋」として発表したら、他のメンバーが、肯定的な感想を述べたり、自分が思い出したことを話したりします。その際はネガティブなことは言わないことがルールになっています。

つまりこの読書法には、読む、書く、話す、聞く行為が含まれているのです。

横山寿美代先生  撮影:金香清

完読の成功体験

――じっと椅子に座って読むだけではなく、書いて、話して、聞くという、行為が含まれるので、飽きも来ないし、効果的な読書法ですね。読む時間も決めていますし。

もちろん「本なんか読みたくない」「なんで強制されるのだ」という児童もいます。しかし、クラスメイトと一緒に読んで話し合ううちに、おのずと本を読むようになっていく例を何度も目撃しました。

もう一つ、この方法の大事なポイントがあります。

おおよそ1ヵ月くらいで1冊の本をグループで読み切るのですが、これは本を完読したという成功体験にもなります。文章を読むことが苦手な児童にとって、本という存在そのものが、コンプレックスになっていることもあります。最後まで本を読んだ経験をすることによって、他の本も読んでみようという動機付けにもなるのです。

――この方法は家庭でも応用できそうですね。

そうです。まず親子で同じ本のページ数を決めて一緒に読んで、感想など文字を書かせることのハードルが高ければ、感想を話し合うだけでもいいと思います。

2人の場合、「ペア読書」と言うのですが、感想は「この話の〇〇という登場人物がいいね」と言った素朴な話でも十分です。親子で「イラスト屋」になって、挿絵を描いて見せ合っても楽しいと思います。

専用のワークシートがインターネットでも紹介されているので、参考にすることもできますし、普通のノートやスケッチブックなどを活用して、親子の「読書交換ノート」を作ってもいいと思います。

本の選び方は?

――読書習慣のない保護者にとっても取り組みやすい方法ですし、親子の新鮮なコミュニケーションにもなりそうですね。読書以前に、子どもたちが漫画や動画に夢中になっていることを、心配に思う保護者も多いと思いますが、その点についてはどう思われますか。

漫画や動画も否定することはないと思います。いろんな媒体があるのですから、活字も映像も漫画もクロスしながら楽しめればいいと思います。大事なことが書かれているネットの文字情報もありますし。

私は漫画も好きですし、読んだ本を、読み返したい時に音声配信で楽しむこともあります。メディアは使いようだと思います。

――本の選び方にコツはありますか。

子どもが興味のあることに関する本を一緒に探しましょう。例えば電車が好きとか、歌が好きとか、関心を持っているテーマの本があればいいですし、一緒に観た映画の原作を選んでみてもいいと思います。映画のノベライズもいいですが、私は原作をお勧めしたいです。ハリーポッターシリーズや、ムーミン谷シリーズ、ピーターラビットシリーズなど、児童が楽しめる原作はたくさんあります。

そして「耳の読書」と言える読み聞かせなど、お子さんと同じ本を一緒に読むのが、何よりも効果的です。

――読み聞かせがたいへんな時は、オーディオブックなどを利用するのはどうでしょう。

一つの手だと思います。その際も「はい、聞きなさい」と一方的に押し付けるのではなく、一緒に聞くと効果的だと思います。

本のある家の子は読書する

――家庭での普段の環境作りでアドバイスはありますか?

本を子ども部屋など決まった場所だけでなく、リビングや廊下、トイレなど、家の目につく色々な場所に置いてみるのはどうでしょう。表紙の綺麗な本などを活用して、インテリアとして楽しみながら配置できれば、一石二鳥です。

もしかしたら少し耳の痛い話かもしれませんが、子どもに読書習慣を身につけさせるには、保護者が本を読む姿を見せるのが早道です。家に本があって、保護者が読書する家庭の児童にとっては、やはり読書が身近に感じられるものですから。

キム・ヒャンチョン

金 香清

Hyang-chung Kim
ライター、翻訳家

「クーリエ・ジャポン」創刊号より朝鮮半島担当スタッフとして従事。退職後、韓国情報専門紙「TeSORO」(ソウル新聞社)副編集長を経て、...