児童文学新人賞でデビューした作家がぶっちゃけトーク 子どもに「忖度」せず「積み重ねて」書く
『保健室経由、かねやま本館。』松素めぐり×『カトリと眠れる石の街』東曜太郎
2024.03.15
松素・東「読者に忖度せず自分が楽しいと思う物語を書いている」
編集A:後半は物語を書きあげるコツや、文章のテクニックについて伺っていきます。おふたりは締め切りのどれくらい前から、小説を書きはじめましたか。
松素:5ヵ月前くらいです。昼間は仕事と子育てで、夜しか書く時間が取れなかったので、毎晩すこしずつ書いていました。
東:ぼくも4ヵ月前くらいです。必ずしも毎日というわけではなかったですが、仕事のある平日はちょこちょこと書きためつつ、休日にまとめて時間をとることもありました。
編集A:おふたりとも計画的に書かれていたのですね。作家を目指されている方の悩みでよく聞くのが、物語を書きあげられないという問題です。最後まで書き切るコツはありますか。
東:作家志望の方は、たくさん本を読んでいる方が多いので、どうしても過去に読んだ名作と比べてしまい、「この文章ではダメだ」と感じてしまって進めなくなるのかなと思います。ぼくにも経験のあることですが、いったんその視点は捨てて、いま書ける文章で最後まで書いてみるのが良いと思います。LINEやSNSに投稿するぐらいの文章で。
1行1行、納得のいく文章を積み重ねて100枚書くのと、50枚から60枚書いたあとに表現を詰めて枚数を増やしていくのとでは、労力がちがいます。自分のハードルを思いっきり下げ、まずは最後のオチまで、積みあげて書いてみることをおすすめしたいです。
編集A:LINEを打つ感覚だと思うとだいぶハードルが下がります。先に書き上げてしまえば、心にゆとりができて、推敲に時間をかけることができますね。松素さんはいかがですか。
松素:私は最初に、物語の中盤とラストに入れる「絶対に書きたいシーン」を考えます。あとは東さんと同じで、納得のいく文章でなくてもいいから、楽しみにしているシーンまでコツコツと文章を埋めていきます。また普段から、物語のオープニングの曲、中盤のシーンの曲、肝のシーンの曲を決めて、移動中に聴いて執筆の気分を盛りあげる方法もおすすめです。
編集A:執筆のモチベーションが高まりそうです! 松素さんの過去作がどんなテーマ曲だったのか、聞いてみたくなりました。
松素:物語の長さは、講談社児童文学新人賞の過去の受賞作を参考に読んで参考にしました。水野瑠見さんの『十四歳日和』や、こまつあやこさんの『リマ・トゥジュ・リマ・トゥジュ・トゥジュ』などです。対象年齢が同じだったので、やっぱり原稿用紙100枚ぐらいは書く必要があるのかなと。
東:新人賞はトライアルの場なので、長編が書けることをアピールをしておいたほうがいいとぼくも考えました。応募できる最低枚数が原稿用紙30枚なので、もし30枚程度の長さのお話を書きたいなら、数作書いて短編集の体裁にするのもいいのかなと思います。
編集A:戦略的にご応募されていたのですね。新人賞を応募するにあたり、おふたりが小説に盛りこんだ、文章のテクニックをすこし教えていただけますか。
松素:キャッチーな冒頭と、余韻が残るラストにすることです。『保健室経由、かねやま本館。』の1行目は「保健室のある1階の廊下は、くさい。」からはじまります。「なんだろう?」と編集者さんの目にとまるように意識しました。
東:ぼくは章タイトルを「カトリが◯◯する」として、章の内容を大まかにネタバレするところです。イタリアの作家、ウンベルト・エーコがこの手法をつかっていて、真似しました。先に内容がわかってしまっても、案外おもしろさはうすれないものですし、主人公のアクションがわかっているので、読みやすくなる部分もあるかと思います。
編集A:そういえば東さんの応募作は、物語の終わりにつづきをにおわせていたことも、編集部で話題になりました。「もしかしてこの人、もう2作目も書きあげているんじゃないか」と(笑)。
東:2作目を用意していたわけではなかったのですが、つづきを書きたい気持ちはあったので、その気持ちをこめました。
編集A:結果、編集部が東さんの手のひらのうえで転がされてしまったわけですね。もちろん、東さんの描く設定やストーリーが仕上がっていたからこそ受賞したわけですが、「続編が想像できるくらいのめりこませる」のもひとつの戦略ではありますね。
編集A:もし新人賞に応募する前の自分にアドバイスするとしたら、どんなことを伝えたいですか。
松素:新人賞に応募する前、誤字脱字や差別表現がないかを7回ほど確認しましたが、プロの編集者さんや校閲さんが携わって本が出版されるので、あまり心配しなくても大丈夫。それよりは、お話のおもしろさに集中してほしいと伝えたいです。
東:受賞して驚いたことは、選考委員の如月かずささんをはじめ、文章の読みやすさを褒めてもらったことです。応募する前は、読みやすい文章であることは当たり前だと思っていたのですが、意外と選考でも評価されるところのようですし、出版するにあたっても読みやすさという要素が物語を支えてくれるところがあるので、可読性には気を配って損はないと思います。
編集A:松素さん、東さんらしいお話が聞けて、大変勉強になりました。最後に、新人賞に応募するにあたり、自分が書きたいことを書くのか、それとも子どもが読みたいものを考えて書くのかという葛藤について、おふたりのご意見をお聞かせください。
東:ぼくは圧倒的に書きたいことのほうが多いです。書きたいことを100%の出力で書いて、これだと読者に伝わらないというところを、調整することが多いかもしれません。
松素:私も自分が書きたいことが100%ですね。自分が楽しく書いていれば、結果的に相手に伝わるはずだと信じて書いています。
編集A:作家さんの熱量は、読者にダイレクトに伝わるのかもしれませんね! 本日はありがとうございました。
取材・文/山口真央
児童図書編集チーム
講談社 児童図書編集チームです。 子ども向けの絵本、童話から書籍まで、幅広い年齢層、多岐にわたる内容で、「おもしろくてタメになる」書籍を刊行中! Twitter :@Kodansha_jidou YA! EntertainmentのTwitter :@KODANSHA_YA_PR
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