斉藤洋や森絵都らを輩出した新人賞 最新刊行作はWヒロインのミステリーファンタジー!

選考委員をうならせたエディンバラ・ミステリーの魅力とその理由

児童文学作家:如月 かずさ

第62回講談社児童文学新人賞佳作は、選考委員をうならせたエディンバラ・ミステリー!

子どもたちのための文学作品を発掘する新人賞、「講談社児童文学新人賞」。1959年に創設されたこの賞は、現在では児童文学作家の登竜門として知られています。

過去の受賞作には、松谷みよ子『龍の子太郎』(第1回)、福永令三『クレヨン王国の十二カ月』(第5回)をはじめ、斉藤洋『ルドルフとイッパイアッテナ』(第27回)、森絵都『リズム』(第31回)などがあり、児童文学から一般文芸まで幅広く活躍する作家・作品を数多く輩出しています。

今年度も、2022年9月に選考会が行われ、佳作1編が入選しました。本賞・佳作に入った作品は、担当編集者がついて、じっくりと改稿し、約1年かけて入選作を世に出し、デビューとなります。

2022年9月末に刊行された『カトリと眠れる石の街』(応募時『カトリとまどろむ石の海』から改題)は、昨年度の講談社児童文学新人賞佳作入選作で、19世紀後半のスコットランドの首都・エディンバラを舞台にした力作。

近年の受賞傾向である「テーマ性の強いYA」から離れた“洋風ミステリーファンタジー”にもかかわらず、この作品が受賞した理由はどこにあったのでしょうか?

選考委員のひとりで、ご自身も『サナギの見る夢』で講談社児童文学新人賞佳作を受賞されており、著作『給食アンサンブル』『スペシャルQトなぼくら』などで知られる作家の如月かずさ氏に、本作品の受賞理由を作品の魅力とともに教えていただきました。

「絶対プロの作品でしょ!」  衝撃の応募原稿!

「今年読んだ児童書のなかでも最上位レベルにおもしろい」「プロがペンネームを変えて応募してきたんじゃないの?」「この応募原稿のままでも出版できそう」

これらはすべて、昨年講談社児童文学新人賞の最終選考に残った東曜太郎さんの『カトリと眠れる石の街』をはじめて読んだときの、私の選考用メモからの抜粋です。ほかの候補作については、きちんと選考委員らしく客観的な評価や問題点の指摘が記されているのですが、『カトリ』のメモにはほぼ純粋な感想と賞賛しか残されていません。この作品が受賞を逃すことはありえないだろうと、最初に読んだときから確信していました。

最終選考の結果、全選考委員から高い評価を受けた鳥美山貴子さんの『黒紙の魔術師と白銀の龍』が大賞、『カトリと眠れる石の街』は惜しくも佳作となりましたが、私はいまだに『黒紙』と『カトリ』のW大賞でもよかったんじゃないかな、と思っています。

第一印象は「地味で硬そう」。ところが…!

『カトリと眠れる石の街』は、勇敢でボーイッシュなカトリと、行動派のお嬢さまリズのふたりが、街にはびこる奇妙な病の謎を解き明かす冒険物語。19世紀後半のスコットランド・エディンバラを舞台にした、翻訳ファンタジーを思わせる作品です。

私は普段、翻訳ファンタジー作品をあまり読みません。なので昨年の夏、新人賞の最終候補作の原稿を受け取って、試しにぱらぱらめくってみたときも、『カトリ』には特に興味を惹かれませんでした。むしろなんだか地味で硬そう、と感じて、読むのをずっとあとまわしにしていました。

ところが実際に読みはじめてすぐに、その印象が間違いだったことに気がつきました。硬派で重厚な作品でありながら、文章は明快で驚くほど読みやすく、登場人物も舞台となる街の描写も魅力的で、序盤からすっかり物語の世界に惹きこまれ、最後までいっきに読み終えてしまったのです。

魅力いっぱいの主人公・カトリが冒頭からクール!

物語はカトリが不良少年に奪われたクラスメイトの万年筆を取りかえす場面から幕を開けます。カトリはエディンバラの旧市街にある金物屋の娘で、背が高く物怖じしない性格。はっきり書かれてはいませんが、おそらく腕っぷしも相当なものなのでしょう。「なんの用かわかっているんだったら、さっさとそれを返したほうがいいと思うけどね」とカトリに促された不良少年は、言葉で抵抗しながらも、しぶしぶ万年筆を彼女に渡します。この少年との対決時のカトリの科白がどれもクールで、最初の場面だけで彼女の格好良さにしびれてしまいました。

しかもカトリはただ強くて格好良いだけではありません。続く授業の場面で見せる頭の回転の速さ、幼馴染から大好きな冒険小説を貸してもらってはしゃぐ無邪気な姿、熱心に家業の手伝いをする真面目な性分など、その後も次々に彼女の魅力が描かれます。

旧市街にある金物屋「マクラウズ」のひとり娘。街の子どもたちのまとめ役で、想像力がゆたかな主人公・カトリ。

相棒は破天荒なお嬢さま! 絶妙コンビの冒険譚!

カトリの相棒となるリズもまた、カトリに負けず個性が際立っています。リズは裕福な人々が暮らすエディンバラ新市街の住民。カトリは養父の処方箋をもらいにいった近所の病院で彼女と出会います。

リズがわざわざ旧市街の病院を訪れたのは、最近旧市街で流行っている奇妙な病について調べるためでした。健康だった人間が、突然無気力状態に陥り、1日の大半を眠ってすごすようになる「眠り病」。リズはその「眠り病」に冒された父親を救うため、学校の寮をぬけだして旧市街までやってきたのです。

病院のドクターから満足な情報を得られなかったリズは、大胆にも病院に忍びこんでドクターの手帳を盗み見ることに決め、カトリにその手伝いをしてほしいとたのみます。普段は無茶を止められる側のカトリが、慌てて彼女の無茶をいさめますが、リズの返事は「意外と度胸がないんだね」。その挑発にカトリがのったことで、ふたりの最初の冒険が始まります。

生まれや育ちは対照的ですが、行動派で無鉄砲なところは似たものどうしのカトリとリズ。このふたりの出会いから、物語が大きく動きだします。

新市街にある裕福な家のひとり娘。意外と大胆で、度胸があるリズ。

魅力的なのは主役だけじゃない! 登場人物全員いきいきしていてすごい!

主役のふたりだけでなく、カトリの養父母や幼馴染みのジェイク、厳格な教師のミセス・モースや博物館のハミルトン館長、リズの家の馬車の御者ビルなど、数場面しか登場しない人々にまでしっかりとした存在感があります。

カトリとリズをふくめ、すべての登場人物に共通しているのは、その人物描写が非常に細やかで丁寧なこと。そのため彼女たちの言動ひとつひとつ、心情ひとつひとつがとても自然で現実味があります。そんなふうに登場人物たちがいきいきとして血が通っているからこそ、物語もまたいきいきと魅力的なものに感じられるのです。

舞台はまるで異世界! 140年前のエディンバラの街と生活が鮮やかに浮かび上がります!

さらに登場人物たちとならんで『カトリと眠れる石の街』の大きな魅力となっているのが、物語の舞台であるエディンバラ旧市街の描写です。

増築を重ねた高い建物が迷路のように建ちならぶ、140年前のエディンバラ。その街の風景や生活の説明が、作中で長々と続くようなことはありません。しかしここでもやはり登場人物たちの場合と同様に細やかな描写が、まるで異世界のようなこの街の景色を、ページの向こうに鮮やかに映しだしてくれます。

物語のなかで、遠い異国の景色が描かれたタペストリーを目にしたカトリは、それが自分のいまいる場所から地続きのところにある景色だと知って、「焦りに似た、ぞわぞわする感情」を抱きますが、私も彼女といっしょに、はるか彼方のエディンバラに思いを馳せていました。

140年前のエディンバラの情景が鮮やかに浮かびあがります。

王道ミステリー&ファンタジー&スペクタクル! だれもが夢中になれる快作!

そんな心惹かれるエディンバラの街を、カトリとリズは「眠り病」の謎を追って駆けまわります。患者たちの家を訪ね、「眠り病」の発生時期や発症の条件などを突き止めていく展開は、まさに王道の探偵小説で心が躍ります。そして明かされる驚愕の真相! 大ピンチに大活劇!

応募原稿の時点でそのまま出版できるほどの完成度でしたが、単行本化にあたっての改稿で構成に磨きがかかり、未知の世界に憧れるカトリの心の揺れも鮮明になって、物語の厚みがさらに増しました。ミステリーやファンタジーがお好きなかたはもちろん、そうでないかたも夢中になれること間違いなしのこの『カトリと眠れる石の街』、多くの皆様に手に取っていただけることを、全力で賞に推した選考委員として、またこの物語の最古参のファンのひとりとして、心から祈っています。

第62回講談社児童文学新人賞佳作に入選した、『カトリと眠れる石の街』、好評発売中!
きさらぎ かずさ

如月 かずさ

Kazasa Kisaragi
作家

1983年、群馬県桐生市生まれ。東京大学教養学部卒業。『サナギの見る夢』(講談社)で第49回講談社児童文学新人賞佳作を受賞。『ミステリ...