小説家や詩人になりたい 日記や感想文を楽しく書きたい人へ やなせたかしの愛弟子が教える画期的な文章レッスン〔作家・小手鞠るい〕

読む人の心を動かす詩、感想文、小説を書く方法

作家:小手鞠 るい

小説って誰にでも書ける?

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Q.4 小説を書いてみたいけれど、何から始めたら書き出せるでしょう

A.4 これは以前、岡山大学の文学部で夏期講座を受け持っていたときに、実際に学生たちに書いてもらって成功した方法なのですが、まず1行目に「私は(僕は)*年*月*日に*で生まれた」と書く。事実のとおりに書く。創作はいっさいしないで、みんなそれぞれ、自分の生年月日と生まれた場所を書くわけです。わたしの場合には「私は1956年3月17日、岡山県備前市で生まれた」となります。

こう書くことによって「さあ、これから、自分のことを小説に書くぞ」という決意表明ができますね。それだけではありません。実はこの1文によって、3つの重要な鍵を読者に提示することができます。(1)この小説の主人公は誰なのか。(2)主人公である「私」は、どんな時代を生きてきたのか。(3)小説の舞台になるかもしれない場所、あるいは、主人公の原風景はどこにあるのか。たった1文で、人物、時代、舞台を同時に示すことができる。こんな画期的な書き出しはありません。

そしてさらに、前述のとおり、この1文によって、作者は自分のことを書こうとしている、自伝的な小説を書こうとしている、この作品のテーマは自分であり、自我であり、人の生き様であり、人生なんだろうな、と、思わせることもできます。思わせることができた、というだけで、小説の冒頭としては大成功なのです。

ここで話が前後しますが、小説を書いてみたいあなたには、まず「自分について」書くことをおすすめします。タイトルも「自分について」でいい。要は、自伝的小説。短くても長くてもかまいません。18歳まで生きてきたなら、18年間の自分の歴史を書く。これは必ず傑作になると、わたしが保証します。

なぜなら、あなたが何よりも、誰よりも、よく知っているのは、あなた自身だから。おもしろい小説、読ませる小説、人の心をつかんで離さない小説というのは、そこに、あなたにしか知り得なかった真実が書かれている作品です。作り話ではなくて、真実を書くために、自分がいちばんよく知っている、すみずみまで理解している自分を題材にして書くのです。

人には、他人の考えていることは絶対にわかりません。これはもう絶対に、です。もちろん、ほんの一部ならわかるのかもしれないけれど、すべてはわかりません。人には、どんなに親しい間柄であっても、他人の心は見えないからです。親子であっても、夫婦であっても。見えているのは、完全に理解できているのは、自分の心だけ。誰かに気持ちを打ち明けたときに「ああ、わかる、わかる」と言う人がいますが、あれは噓です。人には、人の気持ちは絶対にわからない。これが正解だと言うつもりはありませんけれど、これがわたしの考え方です。

だからこそ、あなたが、あなたの心の中の世界を小説に書くと、それは世界で唯一無二の、あなたにしか書けない作品になり得る。人は一生に1作であれば、誰でも大傑作が書けます。だって、どんな小説よりも、リアルな人生のほうがおもしろいお話になっているはずだから。ただし、この傑作は1作だけです。人生は一度限りのものだから。当然のことながら、プロの作家として生計を立てていくためには、この傑作を、手を替え品を替え、姿形を変えながら、何作も何作も書いてゆかねばならないわけです。

自分について書くなんていやです! と思っているあなたには、自分に別の名前を付けてから書くことをおすすめします。これ、やってみるとなかなか楽しいですよ。病み付きになってしまうかもしれません。試しに、やってみますか?

プロフィール
小手鞠るい(こでまり・るい)​
1956年岡山県生まれ。小・中学時代から詩やお話を読んだり書いたりするのが大好きだった。中学生のときに入っていた文芸クラブの先生から作文を褒められて、将来は作家になりたいと思うようになった。1992年に渡米。以後、ニューヨーク州の森で暮らしながら作品を書いている。主な作品として『午前3時に電話して』『ごはん食べにおいでよ』『晴れ、ときどき雪』『川滝少年のスケッチブック』など多数。ランニングと山登りと庭仕事とパン作りが趣味。動物が大好き。

『日曜日の文芸クラブ』 著:小手鞠るい

2024年度より小学校教科書に書き下ろし小説が掲載されている小手鞠るい氏による文章教室。若いときからやなせたかし氏に詩の才能を認められ、その後作家となった小手鞠るい氏だから書ける、読む人の心を動かす詩、感想文、小説を書く方法。

短いものから長いものへ、ちょっと面白かったこと、心が動いたことを、自分の知っている言葉で詩にしてみる。次は、気軽な短い日記をつけてみる、作家への手紙を書くようにして感想文を書いてみる、そして自分のことを小説に……と、順を追って階段を上るように文章術を楽しく面白く発展させていきます。

有名な作家の詩や日記から学生たちの作品まで、小手鞠氏が選考委員をつとめた感想文や大学の講義で提出された小説などの例も多く出してやさしい言葉で解説。感想文が苦手な子どもからプロの小説家を目指す人まで、面白く読めて、とても実践的、具体的なアドバイス、書けるようになるコツが満載で、文章を書くことが楽しく、また苦手意識がなくなります。

《目次》
1章・詩は野原から生まれる ──面白かったこと、心が動いたことを
2章・日記は歴史の1ページ ──日記帳を喜ばせるように
3章・感想文は手紙 ──あらすじはかかない
4章・物語を書く喜びと悲しみ ──制約を与えて書く など。

各章おわりにQ&Aや小手鞠るい流創作ノート術などさらに実践的なコラムも掲載。やなせたかし先生にかつて頂いたという詩のアドバイスも必読です。

《本文抜粋》

「ちょっとおもしろかったこと、ちょっと心が動いたこと。ちょっと素敵だなと思ったこと。ある日、みつけたちょっと素敵なことば。そんなささいなことでいいんです。『このあいだ、こんなことがあったんだよ』って、誰かに話して聞かせるようにして、できれば会話も入れて」

「頭で考えて、ことばを選ばないことです。(中略)たいせつなのは浮かんできたとき『それをつかまえること』です。つかまえて書いてみてから、『ああでもない、こうでもない』と考えてみてください」

ネットギャリーレビューより

◆「上手に書こうとか思わなくても思ったままを書いたらいいんだよ」なんてことをよく言われるけど、それじゃあ、どんなことをどんなふうに書いたらいいというのか? そういう初歩的な疑問に対しての、具体的な答えを示してくれる本であった。

◆綴られている言葉が優しくて、読んでいて心地いい。教室で先生が穏やかな笑顔を浮かべて生徒たちに教えている、そんな語り。「書いてみようかな」「リスペクトを忘れないようにしよう」と思わせてくれ、子どもでも大人でも、心にプラスの影響を与えてくれる素敵な本。

◆読んでみると文章を書くのは簡単に思えてくるくらい軽やかで心地好い内容。詩の部分は詩の授業の導入にも使いたいし、感想文の部分は書き方指導の参考にもなるし、児童書にするのがもったいないほどです。先生方にも読んでもらいたい。

◆文章を書くことに対して肩肘張ってカッコつけようとばかりしていたけれど、この本を読んでその緊張から少し解放された気分になった。

《著者からのコメント》
本作には、エッセイのA4(本記事の「Q4 小説を書いてみたいけれど、何から始めたら書き出せるでしょう」への著者の回答)で紹介した岡山大学の夏期講座で、文学部の学生が実際に書いた小説「自分について」の一部が掲載されています。これがもう鳥肌が立つほど面白いの! この学生が将来、小説家になってデビューする日が待ち遠しいです。

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こでまり るい

小手鞠 るい

Rui Kodemari
作家

1956年岡山生まれ。1992年からニューヨーク州ウッドストック在住。やなせたかし氏が編集長を務めていた「詩とメルヘン」への投稿詩人として出発。渡米後「海燕」新人賞を受賞し、小説家に。代表作に『欲しいのは、あなただけ』『アップルソング』『炎の来歴』など。児童書に『ねこの町のリリアのパン』をはじめとする「ねこ町いぬ村」シリーズ、『うさぎのマリーのフルーツパーラー』『初恋まねき猫』『ある晴れた夏の朝』など。

1956年岡山生まれ。1992年からニューヨーク州ウッドストック在住。やなせたかし氏が編集長を務めていた「詩とメルヘン」への投稿詩人として出発。渡米後「海燕」新人賞を受賞し、小説家に。代表作に『欲しいのは、あなただけ』『アップルソング』『炎の来歴』など。児童書に『ねこの町のリリアのパン』をはじめとする「ねこ町いぬ村」シリーズ、『うさぎのマリーのフルーツパーラー』『初恋まねき猫』『ある晴れた夏の朝』など。