【パパ育児】「ママのダメ出し」が辛い人こそ必見! 脳科学で考える目からウロコの「解決方法」

母性神話は噓? 京都大学大学院・明和政子教授に聞く「今だからこそ必要な“パパ育児”」 #3

京都大学大学院教育学研究科教授:明和 政子

Q3.パパイヤ期はどう乗り越えたらいい?

A3.「ママが良い」というのも、赤ちゃんの生存戦略。イヤイヤ期も次第に落ち着くので、気長に待って。

「パパ嫌い、ママがいい!」と子どもが言い出すパパイヤ期は、パパにとっては辛いもの。ですが、これも生物学的に仕方がないことです。

ヒトの赤ちゃんは非常に無力で、誰かに世話をしてもらわないと生きていくことができません。世話をしてくれる可能性の高い「ある特定の誰か」を赤ちゃんは検出、記憶して、生存可能性を高めるのです。

そのため多くの場合、育児を中心的に担っているママのほうを強く求める傾向にあるのです。生物としての生存戦略として、「ある特定の誰か」とくっついていようとするだけで、パパのことを嫌っているわけではありません。

「パパのことが嫌い」と考えるのは誤った解釈と明和先生。  写真:アフロ

逆に、育児を中心的に担っているパパが「ある特定の誰か」となっている場合、パパのほうを強く求めることもあります。なお、ヒトの子どもにとっての「ある特定の誰か」は、1人に限定されているわけではありません。文化人類学の研究によると、「ある特定の誰か」が複数人いる環境で育っていく部族も多くあるそうです。

もし子どもに「嫌」と言われるのが辛いのであれば、「ある特定の誰か」という関係を子どもとの間に築くため、積極的に育児参加してみられてはどうでしょうか。

いずれにせよ、「何でもイヤ!」と主張するイヤイヤ期は4歳を過ぎるころから卒業を迎えます。子どもが成長するにつれ、パパが必要になる時期もやってきます。あまり深刻にとらえすぎないでください。

また、核家族が圧倒的多数である現代社会では、パパが不在がちとなるご家庭も多いでしょう。子どもが接するのがママしかいないという状況では、ママ自身が辛くなってしまいます。

ヒトは共同養育により進化してきた生物であるという観点から、パパに積極的に育児に関わってもらうことはもちろんですが、それが叶わなければ、保育園や各種団体が運営する子育て支援サービスなども積極的に利用しましょう。共同で育児をしてくれる人、場所を求めることは甘えでも何でもありません。ヒトの育児には不可欠なものなのです。

ここまで主にママの立場にたってお話ししてきましたが、ママにもぜひお願いしたいことがあります。パパの立場を思い量った声かけ、ふるまいも意識し、実践してあげてください。「仕事が忙しいのに育児に関わってくれてありがとう」といった言葉で十分です。パパの育児動機はさらに増し、ご家庭での共同養育体制がより強化されると思います。

Q4.パパ育休が終わって復帰するとき、ポジションがあるか、スムーズに仕事に戻れるかが心配……。

A4.1人で悩まず、不安を誰かに打ち明けてみて。

1人で悩んでいても解決しない問題です。ママや信頼できる人など、誰かに不安を打ち明けてみましょう。また、ご自身が勤めている会社や各種相談窓口に連絡してみることも有効だと思われます。

現代社会の育児は、偏った固定観念に支配されています。当事者である親が声を上げない限り、これからも変わらないでしょう。パパもママもご自身が感じている不安を、信頼できる方に直接話してみましょう。

勇気をもって声を上げる、アクションを起こすことが、仕事場面だけでなく、ひいては、ヒトにとって本来必要な育児とは何かを社会全体で考える第一歩になると信じています。

育児を中心とした日々を送っているこの特別な期間に、他人との比較ではなく自分にとっての幸せとは何かをゆっくりと考えてみるのもよいですね。現代社会での育児は本当にたいへんですが、子どもと日々を過ごすことで初めて知りえる幸せ、というものもあると思います。

それは、これからの自分を成長させ、さらに幸せを感じながら生きるための努力を支える原動力となるはずです。

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ここまで3回にわたり、科学的な見地から、パパ育児の必要性や育児をするときのポイントなどについて明和先生に教えていただきました。

パパもママも、社会に昔から根付く「男性は育児をうまくできない」「子育ては女性のほうが向いている」といった考えにとらわれる必要はありません。

ヒトという生物にとって本来必要な育児環境に立ち戻り、パパとママが協力をして育児を行うことが子どもの脳の健やかな発達、そして家族全体の幸せにもつながるはずです。

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明和 政子(みょうわ まさこ)
京都大学教育学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。京都大学霊長類研究所研究員、京都大学大学院教育学研究科准教授を経て、現在同教授。日本学術会議会員。「比較認知発達科学」という学問分野を切り拓き、生物としてのヒトの脳と心の発達の原理を明らかにしようとしている。主な著書に、『ヒトの発達の謎を解く─胎児期から人類の未来まで』(筑摩書房)『マスク社会が危ない 子どもの発達に「毎日マスク」はどう影響するか?』(宝島社)など多数。

取材・文/阿部雅美

『今だからこそ必要な“パパ育児”』の連載は、全3回。
第1回を読む。
第2回を読む。

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みょうわ まさこ

明和 政子

京都大学大学院教育学研究科教授

京都大学教育学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。京都大学霊長類研究所研究員、滋賀県立大学人間文化学部専任講師などを経て、現在は京都大学大学院教育学研究科教授。専門は「比較認知発達科学」。 主な著書に『ヒトの発達の謎を解く──胎児期から人類の未来まで』(筑摩書房)、『まねが育むヒトの心』(岩波書店)など多数。

京都大学教育学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。京都大学霊長類研究所研究員、滋賀県立大学人間文化学部専任講師などを経て、現在は京都大学大学院教育学研究科教授。専門は「比較認知発達科学」。 主な著書に『ヒトの発達の謎を解く──胎児期から人類の未来まで』(筑摩書房)、『まねが育むヒトの心』(岩波書店)など多数。