ハイハイは発達に影響? 卒乳はいつ? 「1歳児の発達」を専門家が解説

【オンラインセミナーレポート】榊原洋一先生「1歳児の発達を知ろう」#3 | Q&A後編

小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一

Q12 卒乳はいつまでにすればよい?

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卒乳はいつまでにしなければいけませんか?

A12 いつまでに、ときっぱりやめる必要はない

現代の日本は恵まれた食糧事情にありますが、大正時代までは粉ミルクが満足に手に入らない時代が続きました。

また、いつも母乳をあげられるならいいですが、母親の健康状態や栄養状態が悪いと母乳の出も悪くなってきます。そうなると、母乳も与えられない、ミルクもあげられないということになりかねませんでした。

そしてかつては、食べ物が合わない子どもが栄養失調になり、かつ下痢を起こして亡くなるというのが死因のトップでした。

ですから、母乳から離乳食への移行は切実なテーマだったのです。

そのため、子どもに母乳をやめさせるために、乳首に辛子を塗ったり、怖い顔を描いたり、子どもが嫌がることをして、乳離れを促したのです。

その当時は、「卒乳」ではなく「断乳」と言っていました。それが、私の大先輩が「断乳って言葉はきついよね」と「卒乳」という新しい言葉をつくり出しました。言葉は違いますが、同じ意味です。

昔は、母乳から離乳食への移行はとても重要なイベントで、母親をはじめ一家は「絶対に母乳をやめさせなければ」と、この時期を緊張して過ごしたのです。

「卒乳」を焦る必要はまったくない、と榊原先生は言います。  写真:アフロ

しかし、現代では粉ミルクも豊富にさまざまなタイプが販売されており、離乳食もバラエティ豊か。まったく事情は異なります。母乳・ミルクか離乳食かの二者択一にする必要はなく、母乳・ミルクと離乳食を並行して与えても何ら問題はないんですよ。

早ければ生後4ヵ月でやわらかい固形物を食べられる子もいますから、食べるようなら食べさせてあげて構いません。かと思えば、1歳を過ぎても離乳食を食べようとしない子もいます。そのようなお子さんには、1歳から3歳向けに栄養設計された粉ミルク製品もありますから、ミルクをベースにして焦らずに離乳食の機会をつくっていけばいいでしょう。

離乳食に移行したもののどうもうまくいかないという場合は、また母乳やミルクに戻っても問題ありません。母乳やミルクと離乳食をいったりきたりしながら、徐々に母乳やミルクの頻度や量を減らしていけばいいのです。「卒乳」「断乳」という言葉は忘れて結構です。

おむつについても同様です。「おむつ外し」という言葉がありますが、これも便利な紙おむつがなかった時代に生まれた考え方と言えるでしょう。布おむつの交換や洗濯は大変な手間ですから、おむつはできるだけ早く不要になってほしいと誰もが願ったのです。

母乳をあげなくてよくなる、おむつを換えなくてよくなるというのは、子育てにおいてとても重要な転換点だったわけです。

でも、今は時代が変わりました。ミルクや離乳食、おむつも手軽で便利な製品が充実していますので、それらをうまく活用しながら、焦らずに1歳の1年を過ごしてください。

Q13 発達が遅れているのでは、と心配です

発達の個人差について質問です。様子見か、療育などの支援を受けるか、どの程度で判断すればよいのでしょうか?

A13 様子見が不安なら療育の利用も考えて

風邪なのか? 新型コロナなのか? これは診断ではっきりします。

しかし、「発達」には非常に大きな個人差があるために、白黒つけることはとてもむずかしいのです。

発達が遅れている、という場合に、それが個人差の範囲なのか、それとも背景に何か障害があるのか、なかなか判断しづらい。あまり好きな言葉ではありませんが、白黒つけられず「グレーゾーン」といった表現になってしまうことも多々あるのです。

例えば、沖縄に台風が上陸したことを知った札幌の人が、気象庁に電話して「札幌にも台風が来ますか」と尋ねたとしましょう。天気の専門家であってもまだこの段階では断言できないでしょう。まさにそんな状況です。

そのため医師は「様子見しましょう」とすすめます。それは、そうするしか仕方ないからなんですね。でも、様子見と言われても、親御さんは確かに不安ですよね。

全国各地に、障害がある、または障害の可能性があるお子さんを対象にした教育的な発達支援、療育を行う機関がたくさんあります。

1歳児の段階では、お子さんの発達の遅れが障害を起因とするものか判断できない場合が多いと思いますが、様子見の状態が不安で仕方ないというのであれば、療育サービスを利用するのも手だと思います。

ただし、療育の中身は千差万別ですから、どのような方針で、どのような対応を行うかについて詳しく聞き、納得した上で利用するようにしてください。

私の知り合いの経験豊かな先生が、『発達障害の子の療育が全部わかる本』という本を書いています。とてもわかりやすい内容になっていますので、興味のある方はぜひご一読ください。

『発達障害の子の療育が全部わかる本』(原哲也、講談社)

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いかがでしたか。「子育てには正解はない」と言われるからこそ、心配になることがたくさんあります。経験と学識に裏打ちされた榊原先生の回答が、少しでも皆様の子育ての参考になれば幸いです。

構成・文/渡辺 高

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さかきはら よういち

榊原 洋一

小児科医・お茶の水女子大学名誉教授

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。

小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。