0歳児のお世話Q&A 子どもの発達の専門家に聞いた目からウロコの真実14(後編)
【オンラインセミナーレポート】榊原洋一先生「0歳児にしてあげたいこと」#3
2022.10.23
小児科医/お茶の水女子大学名誉教授:榊原 洋一
Q10
9ヵ月の子がずり這いをする気配はなく、お座りばかりしていますが、心配いりませんか?
A10 “ハイハイ”は個人差が大きい
心配いりません。
赤ちゃんの運動に関する研究はたくさんのデータがあり、目安となるマイルストーンはあります。4~5ヵ月前後で寝返り、10ヵ月前後でつかまり立ち、1年前後で歩くといった目安です。
ところが、ハイハイについてはこのような目安がありません。なぜなら、ハイハイについては個人差が非常に大きく、時期や期間もまちまちですし、ずり這いはおろかハイハイをまったくせずにいきなり歩き出す子もいます。
お座りしたままお尻をずらして移動させる子もいるし、肘や膝をつけずに四つん這いでクマのように歩く子もいます。
寝返りからつかまり立ちに至る期間にどんな運動をするかはあまりにも多様なので、目安をつくっても意味がないんです。
よくハイハイをしたほうが丈夫になるといった主張もありますが、科学的にはまったく根拠はありません。
ずり這いやハイハイをどのように行おうが、もしくは行わないとしても、いずれちゃんと歩くようになります。なので、心配は無用です。
Q11
夜中にぐずって泣きやまないことがありますが、ほうっておくと悪影響はありますか?
A11 昔も今も世界中のパパママが悩んでいる
泣きやまないとどうしていいかわからず不安ですよね。無理もありません。
昔、私が監訳した本に『泣いてる赤ちゃんがごきげんになる100の魔法』というものがあります。
大昔から、世界中のいたるところで、赤ちゃんが泣きやまないという問題が起こってきました。そして、この本が100通りもの方法を示さなければならないのは、結局のところ、赤ちゃんを泣きやませる決定打はない。
世界中のみんなが困っているということなんです。
まず、あなただけではない、みんなが必ず通る道だということを忘れないでください。
泣くという行為は、何かを訴えるサインのことが多いですから、必要に応じてミルクをあげたり、おむつを替えたりしてあげてください。
それでも泣きやまないときには、やはり抱っこしてあげるのがいいと思います。「抱きグセがつく」なんていう否定的な意見もあるようですが、小児科学的にはまったく根拠のない話です。
ずっと抱っこしているのは大変ですから、できるだけ配偶者や両親など、他の人と協力して乗り切ってください。
レジ袋をカサカサさせるような「ホワイトノイズ」が有効な場合もありますが、それで泣きやまないことも多いのが現実です。
もし、汗をかいて火がついたようにギャンギャン泣くなど、いつもと違うなと感じる泣き方なら、何か苦痛のサインかもしれないので小児科の先生に相談してください。
夜泣きに関して私がいつも言っていることがあります。
「明けぬ夜がないように、泣きが止まらぬことはない」
夜泣きはいずれ必ずおさまりますから、おおらかな気持ちで乗り切ってください。
Q12
家の中ではご機嫌でも、外に連れ出すと、キョロキョロして言葉も発せず楽しそうには見えませんが、大丈夫ですか?
A12 大人と一緒なんです
まったく心配いりません。
キョロキョロするのは、家の中と見えるものが違うし、吹く風も違うから、世界を理解しようとしているからです。言葉を発しないのも、それに集中しているからでしょう。
よくニコニコしない、楽しそうじゃないと心配される方がいますが、子どもだからっていつもニコニコしているわけじゃないんですよ。
大人と一緒で、ぼーっとしていることもあれば、不機嫌なこともあるし、泣きたくなることもある。まわりの大人を見て、あの人ニコニコしてないけど大丈夫かな? って考えませんよね。それと同じことです。
Q13
新型コロナ感染症予防のためにマスクを着ける機会が多いですが、マスクをした大人ばかりと接していると発達に悪い影響はありませんか?
A13 口元が見えなくても大丈夫
いくつかの根拠から、影響はないと言えます。
1つ目は、赤ちゃんは大人から話しかけられるときに確かに口元は見えなくなりますが、声色や目元の表情などの情報を総合的にキャッチします。口元の要素がなくなったからといって情報伝達が極端に変わるというものではありません。
2つ目は、先天的に目が見えずに育った子も、目が見える子と発達的には何ら変わらないことがわかっています。口元に加えて目元が見えないとしても、耳からの情報だけでもちゃんと成長していきます。
ですから、マスクが赤ちゃんとのコミュニケーションに悪影響を与えるとまで心配する必要はありません。
Q14
コロナ禍の人と会いづらい環境で、子どものIQが低下しているという話を聞きますが、本当ですか?
A14 子どものIQは逞しい
誰が、どういう根拠で言っているかぜひ知りたいものです。
少なくとも小児科学や発達心理学の世界では、そのような説は一切出ておりません。子どものIQというのは、実はとても強靱なもので、ちょっとした要因では変わらないものなのです。
あまり科学的根拠がある話ではないので、心配される必要はありません。
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榊原先生の回答は、いかがだったでしょうか。少しでも子育てのお悩みや心配事の解消になれば幸いです。
構成・文/渡辺 高
榊原 洋一
小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。
小児科医。1951年東京生まれ。小児科医。東京大学医学部卒、お茶の水女子大学子ども発達教育研究センター教授を経て、同名誉教授。チャイルドリサーチネット所長。小児科学、発達神経学、国際医療協力、育児学。発達障害研究の第一人者。著書多数。 監修を手がけた年齢別知育絵本「えほん百科」シリーズは大ベストセラーに。現在でも、子どもの発達に関する診察、診断、診療を行っている。