子どもの「運動能力」 「運動神経は何歳からでも開発できる」 新事実を専門家が解説 

【子どもの運動神経を開発する方法 #1】運動能力が低下している!? 原因や対策を専門家が解説

体を動かす機会が減った今、意識的に運動する時間をつくらなければ、運動能力は下がる一方です。  写真:アフロ
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「うちの子、運動するときの動きがぎこちない」「運動オンチなのは、親譲りなのでは」と悩んだことはありませんか? “プロのアスリート”とまでは言わないけれど、“運動が得意な子”・"運動が好きな子”に育ってほしいと多くのママ・パパが思っているはずです。

実は運動神経は生まれつきのものではなく、後天的に開発することが可能です。そこで今回は、東京保健医療専門職大学特任教授である東根明人先生に、子どもの運動神経を開発する方法を教えていただきます(全3回の1回目)。

◆東根 明人(あずまね あきと)
一般社団法人コーチングバリュー協会代表理事。東京保健医療専門職大学特任教授。
1981年早稲田大学教育学部卒業。1984年順天堂大学大学院修了。1995年JOC(日本オリンピック委員会)の在外研修により、ライプチヒ大学(ドイツ)に留学しコーディネーショントレーニングを学び、以後日本での普及に取り組む。JOCタレント発掘プロジェクト、日本体育協会ジュニアスポーツ指導員カリキュラム策定委員を務めた。

子どもの運動能力は低下傾向に

文部科学省の調査では、現在の子どもの身長・体重などの体格は、親世代に比べて良くなっているものの、体力・運動能力は低下傾向にあることがわかっています。特にコロナ禍によって体力は著しく低下。令和5年の調査では回復傾向にありましたが、それでもコロナ禍以前の数値には戻っていません。

30年以上、子どもの運動指導に従事されてきた東根先生によると、現場においてもその傾向を感じられるといいます。

「昔に比べて、すぐに『疲れた』といって座り込んだり、バランスを崩してよろけたりする子どもが目立つようになりました。原因として考えられるのは、やはり生活習慣の変化でしょう。昔の子どもは、放課後、暗くなるまで外で遊び、クタクタになるまで体を動かしていました。友達と一緒に外遊びをすることで、自然と運動神経を培っていたのです。

ですが、ゲームやスマホの浸透、空き地の整備などで遊ぶ場所が少なくなったことにより、外遊びの時間は減少しています。特にコロナ禍では、感染拡大を防ぐ目的から大人も子どもも自宅で過ごす時間が増えたので、運動能力が低下したのも無理はありません。

こうした生活習慣の中でも、子どもの運動能力に特に影響を与えていると感じているのは、睡眠不足です。すぐに『疲れた』という子のご家庭の状況を聞くと、親が寝る時間に合わせて子どもも一緒に寝ているようです。

幼児は10~13時間、小学生は9~11時間の睡眠時間が推奨されていますから、大人の寝る時間に合わせると、子どもにとっては睡眠時間が足りません。睡眠が十分に取れていないので、運動をしてもすぐに疲れてしまい、自ずと運動する機会が減ってしまうのです」(東根先生)

そもそも「運動神経が良い」とは?

「運動神経は遺伝だから、伸ばすことはできないのでは?」と思うママ・パパもいるかもしれません。しかし運動神経は遺伝ではなく、鍛えれば開発できると東根先生はいいます。そもそも、“運動神経”とは、何なのでしょうか。

「私たちが体を動かすとき、目や耳などから入ってきた情報をもとに、脳から指令が出され、それが神経回路を通って各筋肉を動かします。つまり、運動神経は神経系の働きなのです。

この神経系の働きに着目したのが、『コーディネーション』です。コーディネーションとは、日本語では調整力をいい、プロアスリートの運動能力向上のために、1970年代に旧東ドイツで生まれた理論です。

そして、『状況を五感で察知し、それを頭で判断し、具体的に筋肉を動かすといった一連の過程をスムーズに行う能力』を、コーディネーション能力といいます。簡単にいうと、体を巧みに動かす能力です。

運動神経は、情報処理および神経系によるものなので、もともと誰にでも備わっている能力です。そのため、意識的に鍛えれば運動神経を開発することができます。

また持久力や筋力は運動を中断すると落ちてしまいますが、“動きの回路”が肝である運動神経は、一度形成させてしまえば急激に衰えることはありません。年をとっても、自転車の乗り方や泳ぎ方を忘れないのと同じです」(東根先生)

体格は運動能力に関係する?

運動神経は誰にでも備わっている能力とはいえ、やはり体つきがしっかりしている子のほうが運動能力は高いように思えます。身長や骨格などの体格は、運動神経に影響するのでしょうか。

「まず押さえておきたいのが、運動能力と運動神経は別物ということ。運動能力は、筋力や瞬発力などをさす『行動を起こす力』、持久力をさす『行動を持続する力』、そして調整力(運動神経)や柔軟性をさす『行動を調整する力』の3つの力の総合です。そして、運動神経は運動能力を発揮させる働きをします。

運動神経においては、実は体格はあまり関係ありません。例えば、太っていても器用に体を動かせる、つまり運動神経が良い子はいます。

一方で総合的な運動能力に関していえば、体格は少なからず影響します。特に小さなころは筋力に差がない分、もともと体つきが良い子のほうが運動能力は高い傾向にあります。

また、男の子に比べると女の子のほうが運動能力は高いことが多いです。女の子は言語の発達が早い傾向にあり、言葉からも動きを学習できるからです。

しかし小学校高学年以降になると、体の成長に伴い、男の子と女の子の間で筋力に差が出てきます。男の子は筋力がどんどん増えていくため、女の子の運動能力を抜いていきます」(東根先生)

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