脳と心が育つ 暮らしの中にこそある“お金いらずの遊び”とは?
『やりすぎ教育 商品化する子どもたち』著者の武田信子が警鐘を鳴らす「その教育、本当に子どものため?」 #3
2021.09.13
何度もやり直せる遊びで「リカバリ」体験を積む
子どもが、遊びの最中にうまくいかずくやしがることがあります。例えば、砂場遊びをしていて、せっかくできたトンネルが壊れて、絶望的な気持ちになってしまったり。上手くできなければならないと思い込んでいるから、失敗を遊べないのでしょう。
でも、子どもは繰り返しが許される遊びの中で、「壊れたものはまた作り直せる」ことに気づくのです。だから、子どもがやり直そうとしていたら、そっと見守っていましょう。あるいは、むしろ一緒に失敗を楽しんでつきあってくれる人がいたら、大笑いしてくれたら、安心して失敗できますね。
要は、失敗を前提に、安心してやり直しができるようにするのです。上手くできるかどうかを気にしないで楽しめるといいですね。
先ほども出てきましたが、逆境を跳ね返す力をレジリエンスと言って、精神的に強くあるために必要な力です。
「失敗してもやり直せる」経験を遊びの中で充分にやってきた人は、大人になって大変な目にあったときに、やり直しがきくという力が心の底から出てきます。知識ではなく、体に染みついた経験から、脳が反応するのです。
ですから、たとえば、折り紙もお絵描きの紙も、枚数制限などしないで十分に使えるように、チラシやカレンダーの裏紙、段ボールや牛乳パックなどを用意しておくといいでしょう。
失敗したら「大丈夫。まだあるから、いくらでもできるよ」と言ってあげられるといいですね。やり直しをする心構えでいた方が、親も気が楽でしょう。土の上で落書きができれば、それさえもいりませんけれど。
絵本は本人が楽しめるものを
絵本も子どもにとって大切な遊び道具です。こちらは自然のものではないから、手に取れるところにあるようにする必要があります。
赤ちゃんが小さいときに、ブックスタートという団体から本をもらったことがあるのではないでしょうか。身近に本があるといいですね。
まずは、近隣の図書館や絵本コーナーが充実している書店など、絵本が豊富にそろっているところに行ってみましょう。
ちょっと遠出するなら、東京都内では、上野にある「国立国会図書館国際子ども図書館」、中野区の「東京子ども図書館」、あるいは三鷹市の古民家を改築した「星と森と絵本の家」もおすすめです。
とはいえ、今はコロナ禍でなかなかおでかけはできないでしょうから、地元の図書館を利用するなどして、家にいつも自然に本がある状態にしておけばいいと思いますよ。興味を持っている様子があったら、まずは読み聞かせですね。
さらに、親が日頃から本を読んでいる様子を見ていれば、自然に子どもも読み始めるものです。親がスマホを見ていると、子どももスマホを見たがるのと同じこと。スマホは子どもによくないなど諸説ありますが、本は安心ですね。
いずれにしても、「何かをさせる」のではなく、子ども自身が「何かをしたい」という欲求に応えられることが理想です。
「したい」と思うものを、見える、聞ける、触れる、嗅げる、味わえるところに置いておきましょう。
子どもの遊びを豊かにするには親の余裕も必要
ただ、日常の中で遊びを見出したり、子どもにとことん付き合ったりするには、親自身に時間的余裕や精神的余裕がないと難しいでしょう。
「自分の責任で自由に遊ぶ」プレーパークや、子どもが主体的に自然と関わって過ごせる「森のようちえん」のような環境が近くにあると、子どもに豊かな遊びの機会が作れるのですが、それも難しいかもしれません。
もし親が、ワンオペ育児などで笑う気力もないほど疲れていたり、どうしてもポジティブになれなかったりしたら――。そんな時は、地域の子育て支援をネットで調べて、話ができる人と出会える居場所を見つけたり、サポートしてくれる機会を探したりしてみましょう。
コロナ禍でも、人数制限をしながら活動を継続している場所もあります。いっそファミリーサポートセンターなど、子どもを預けることができる育児支援サービスを利用するなどして、1時間でも2時間でも、他人に子どもを託してみましょう。
地域の市区町村のホームページから子育て支援を検索してみてください。
また、以下のサイトでは、家の近くのプレーパークや、子育て支援のひろばを検索することができます。
特定非営利活動法人日本冒険遊び場づくり協会
NPO法人子育てひろば全国連絡協議会
「核家族」が増え、子育ては実親だけがやることと捉えがちですが、子育てはあなただけの責任ではなくて、社会全体で担うべきものなのです。
子どものためには、親がまず幸せでいること。
親は子のためにすべてを犠牲にする必要はありません。子どもがいる日常を楽しむためにも、時には誰かを頼るなどして肩の力を抜くことが大切なのです。
PROFILE
武田信子(たけだのぶこ)
臨床心理士・一般社団法人ジェイス代表理事。武蔵大学教授、東京大学非常勤講師、トロント大学・アムステルダム自由大学大学院客員教授、日本教師教育学会理事などを歴任。心理、教育、福祉の観点から、体と心と脳のウェルビーイングな発達を保障する養育環境の実現と、マルトリートメント(子どもに対する教育上の不適切な対応)の予防のために対人援助職の専門性開発に力を注ぐ。
『やりすぎ教育 商品化する子どもたち』(ポプラ新書)、『育つ・つながる子育て支援』(チャイルド本社,共著)、『社会で子どもを育てる』(平凡社新書)、『保育者のための子育て支援ガイドブック』(中央法規出版)など著書多数。
構成/桜田容子
※武田信子氏の記事は全3回です。
第1回 幼児教育「やりすぎ」「セーフ」の境界線 10 のチェックポイント
第2回 幼児教育 親が陥りがちな「5つの思い込み」 あなたは大丈夫?