脳と心が育つ 暮らしの中にこそある“お金いらずの遊び”とは?

『やりすぎ教育 商品化する子どもたち』著者の武田信子が警鐘を鳴らす「その教育、本当に子どものため?」 #3

何度もやり直せる遊びで「リカバリ」体験を積む

子どもが、遊びの最中にうまくいかずくやしがることがあります。例えば、砂場遊びをしていて、せっかくできたトンネルが壊れて、絶望的な気持ちになってしまったり。上手くできなければならないと思い込んでいるから、失敗を遊べないのでしょう。

でも、子どもは繰り返しが許される遊びの中で、「壊れたものはまた作り直せる」ことに気づくのです。だから、子どもがやり直そうとしていたら、そっと見守っていましょう。あるいは、むしろ一緒に失敗を楽しんでつきあってくれる人がいたら、大笑いしてくれたら、安心して失敗できますね。

要は、失敗を前提に、安心してやり直しができるようにするのです。上手くできるかどうかを気にしないで楽しめるといいですね。

先ほども出てきましたが、逆境を跳ね返す力をレジリエンスと言って、精神的に強くあるために必要な力です。

「失敗してもやり直せる」経験を遊びの中で充分にやってきた人は、大人になって大変な目にあったときに、やり直しがきくという力が心の底から出てきます。知識ではなく、体に染みついた経験から、脳が反応するのです。

ですから、たとえば、折り紙もお絵描きの紙も、枚数制限などしないで十分に使えるように、チラシやカレンダーの裏紙、段ボールや牛乳パックなどを用意しておくといいでしょう。

失敗したら「大丈夫。まだあるから、いくらでもできるよ」と言ってあげられるといいですね。やり直しをする心構えでいた方が、親も気が楽でしょう。土の上で落書きができれば、それさえもいりませんけれど。

絵本は本人が楽しめるものを

絵本も子どもにとって大切な遊び道具です。こちらは自然のものではないから、手に取れるところにあるようにする必要があります。

赤ちゃんが小さいときに、ブックスタートという団体から本をもらったことがあるのではないでしょうか。身近に本があるといいですね。

まずは、近隣の図書館や絵本コーナーが充実している書店など、絵本が豊富にそろっているところに行ってみましょう。

ちょっと遠出するなら、東京都内では、上野にある「国立国会図書館国際子ども図書館」、中野区の「東京子ども図書館」、あるいは三鷹市の古民家を改築した「星と森と絵本の家」もおすすめです。

とはいえ、今はコロナ禍でなかなかおでかけはできないでしょうから、地元の図書館を利用するなどして、家にいつも自然に本がある状態にしておけばいいと思いますよ。興味を持っている様子があったら、まずは読み聞かせですね。

さらに、親が日頃から本を読んでいる様子を見ていれば、自然に子どもも読み始めるものです。親がスマホを見ていると、子どももスマホを見たがるのと同じこと。スマホは子どもによくないなど諸説ありますが、本は安心ですね。

いずれにしても、「何かをさせる」のではなく、子ども自身が「何かをしたい」という欲求に応えられることが理想です。

「したい」と思うものを、見える、聞ける、触れる、嗅げる、味わえるところに置いておきましょう。

子どもの遊びを豊かにするには親の余裕も必要

ただ、日常の中で遊びを見出したり、子どもにとことん付き合ったりするには、親自身に時間的余裕や精神的余裕がないと難しいでしょう。

「自分の責任で自由に遊ぶ」プレーパークや、子どもが主体的に自然と関わって過ごせる「森のようちえん」のような環境が近くにあると、子どもに豊かな遊びの機会が作れるのですが、それも難しいかもしれません。

もし親が、ワンオペ育児などで笑う気力もないほど疲れていたり、どうしてもポジティブになれなかったりしたら――。そんな時は、地域の子育て支援をネットで調べて、話ができる人と出会える居場所を見つけたり、サポートしてくれる機会を探したりしてみましょう。

コロナ禍でも、人数制限をしながら活動を継続している場所もあります。いっそファミリーサポートセンターなど、子どもを預けることができる育児支援サービスを利用するなどして、1時間でも2時間でも、他人に子どもを託してみましょう。

地域の市区町村のホームページから子育て支援を検索してみてください。
また、以下のサイトでは、家の近くのプレーパークや、子育て支援のひろばを検索することができます。

特定非営利活動法人日本冒険遊び場づくり協会
NPO法人子育てひろば全国連絡協議会

「核家族」が増え、子育ては実親だけがやることと捉えがちですが、子育てはあなただけの責任ではなくて、社会全体で担うべきものなのです。

子どものためには、親がまず幸せでいること。

親は子のためにすべてを犠牲にする必要はありません。子どもがいる日常を楽しむためにも、時には誰かを頼るなどして肩の力を抜くことが大切なのです。

子どもたちのより良い養育環境を研究する臨床心理士の武田信子氏。  写真提供:本人

PROFILE
武田信子(たけだのぶこ) 
臨床心理士・一般社団法人ジェイス代表理事。武蔵大学教授、東京大学非常勤講師、トロント大学・アムステルダム自由大学大学院客員教授、日本教師教育学会理事などを歴任。心理、教育、福祉の観点から、体と心と脳のウェルビーイングな発達を保障する養育環境の実現と、マルトリートメント(子どもに対する教育上の不適切な対応)の予防のために対人援助職の専門性開発に力を注ぐ。

『やりすぎ教育 商品化する子どもたち』(ポプラ新書)、『育つ・つながる子育て支援』(チャイルド本社,共著)、『社会で子どもを育てる』(平凡社新書)、『保育者のための子育て支援ガイドブック』(中央法規出版)など著書多数。

構成/桜田容子

※武田信子氏の記事は全3回です。
第1回 幼児教育「やりすぎ」「セーフ」の境界線 10 のチェックポイント
第2回 幼児教育 親が陥りがちな「5つの思い込み」 あなたは大丈夫?

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