脳と心が育つ 暮らしの中にこそある“お金いらずの遊び”とは?

『やりすぎ教育 商品化する子どもたち』著者の武田信子が警鐘を鳴らす「その教育、本当に子どものため?」 #3

何度でも作り直せる砂場遊びは「失敗してもやり直せる」という生きる底力につながる。
写真:milatas/イメージマート
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「遊び」は幼児にとって不可欠だといわれています。でも、なぜ遊びが大事なのか、どう遊べばより子どものためになるかと問われると、すぐに答えられないのではないでしょうか。

子どもの養育環境を研究している臨床心理士の武田信子さんに、改めて遊びの意義を教えてもらいました。

なぜ「ただ遊ぶだけ」で頭がよくなるのか

遊びと学びは区別して考えられがちですが、実は子どもは遊んでいる最中に脳を思いっきり使っています。

例えば、この仕組みはどうなっているのかなとか、砂場で川やダムを作るにはどうしたらいいかなどを、真剣に考えているんです。

野原を駆け回っているだけで、子どもにはありとあらゆる「解決すべき問題」や「解明すべき不思議」が出てきます。楽しいことだけでなく、つらいこともあります。遊びを通して人生が必ずしも公平でないことも理解していきます。

そんなとき、子どもは「どんな戦略で対応すべきか」を自分なりに考えようとしています。くやしさをバネにがんばって乗り越えようともします。

まさに、近年注目されている「プログラミング教育」の論理的思考にもつながりますし、「レジリエンス」(立ち直る力)が育つきっかけにもなります。いわば、遊びは“人生のトレーニング”なのです。

では、ただ遊んでいるだけで学力がつくのでしょうか。もしそうならば、昔の子どもたちは誰もが全員もっと学力が高かったはずです。でも必ずしもそうではありませんね。

<学力が高い、点数がとれる>ということと、<頭がいい、賢い>ということが、イコールかというとちょっと違います。

遊びを通じて身につく力というのは、いわゆる生きる力です。生きていくための智慧(ちえ)や技術です。テストでいい点数を取るためだけの力ではなくて、その土台になる力なのです。

たとえば、自分が夢中になれるものに没頭できる経験は、勉強にも生かされます。

私の子どもが通っていた保育園ではまったく勉強を教えず、自由遊びに重きを置いていました。そのため、園児たちは自分たちが好きな遊びにはとことん夢中になって取り組むことができました。

ある日、3歳以上の園児たちで長い演劇を見に行った際、他の小学生たちが騒いでいるかたわらで、園児たちは演劇中ずっと集中して真剣に観劇できていました。演劇の内容が心に入ってくるんですね。遊びでつちかわれてきた集中力が発揮された瞬間でした。

その集中力が勉強で発揮されるようになれば、無理やり勉強させなくても、成績は伸びていきます。

むしろ無理やり勉強させると自分から進んで頭を使わなくなってしまいます。実際、そのようなお子さんを数多く見てきました。

幼児は「遊び」「生活」「学び」に境界がない

実は乳幼児期には、「遊び」「生活」「学び」に境界がありません。つまり、生活の中のすべての物事が子どもにとって遊びであり、学びとなりうるのです。

例えば、親は困りますが、ティッシュを全部出してみる「いたずら」もエキサイティングな遊びのひとつ。一枚のティッシュはゆっくり落ちるけど、石はすぐに落ちますよね。

こういう小さな体験のひとつひとつが、いつか物理学を学ぶときの土台となる体験なんです。だからって、わざわざやらせなくてもいいですよ(笑)。

また、雨の日は雨だれ(軒先などから滴り落ちる雨水)の音を聞いて、強い雨の時、霧雨の時とで雨の音を比べる。

お散歩で石を拾ってきて色をつけるのも楽しいですよね。全部、脳を使っています。こういう実体験こそが、いざ、学校で学ぶことを実感として身につけるときに必要なのです。

「日月火水木金土」を意識する

日常から見いだす遊びの中でも、「日月火水木金土」といった自在に変化する自然物を意識するといいでしょう。

「日(ひ)」、「月(つき)」、「火(ひ)」、「水(みず)」、「木(き)」、「金(かね)」、「土(つち)」です。

自然の中のものは、自分が働きかけたとき、予想外のさまざまな反応があるからおもしろいですよね。

例えば「水(みず」)は自在に形を変えます。凍らせると固体となり、溶けるとまた液体になるから不思議です。氷ひとつで遊べてしまいますし、それがなぜかと考えたら、サイエンスの世界です。

水たまりに落ちずに飛び越えるにはどうやったらいいか。あるいは、水たまりにどう足を入れたら最大に水が跳ねるか。ゆっくり足を入れるのと、早く足を入れるのとでは水の跳ね方が変わりますが、こうした遊びも子どもにとっては非常に刺激的で楽しいんです。

「金(かね)」は、例えば金属(ステンレス)のボウル。何で叩くかによって音が変わるのも、おもしろいですね。

触るとサラサラとした「土(つち)」や砂は、水の加え方によって色や形が変貌自在になり、子どもにとっては格好の遊び道具です。

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